【フェブラリーS回顧】コスタノヴァが「勝利ポジション」に入り完勝 適性違いの4歳馬たちも今後注目

勝木淳

2025年フェブラリーステークス、レース結果,ⒸSPAIA

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東京6戦無敗コスタノヴァ

GⅠ開幕戦は東京全勝のコスタノヴァが制し、2着サンライズジパング、3着ミッキーファイトと4歳勢が続いた。良馬場のなかで開催され勝ち時計は1:35.5。フェブラリーSの決着時計としては平均的な数字であり、東京ダート1600mらしい、スピードと持続力を問う競馬になった。

ハナは枠順を利した2枠3番のミトノオーで、4枠7番のサンデーファンデーは仕掛けて先頭を狙うも、及ばず。サンデーファンデーが無理な競り合いを避け、控える形になったことで、序盤600mは35.0で収まった。これは直近5年でもっとも遅い。コスタノヴァにとっては、前走の根岸Sが33.9と速く、流れに乗りやすいペースだった。

先行勢の真後ろという位置は近年のフェブラリーSでいえば「勝利ポジション」。21年以降、勝ち馬は4年連続で4コーナー5番手以内だった。長い直線にかける末脚特化の馬では勝てないレースになった。

中距離型のミトノオーの逃げは例年以上に遅く、前半800mは47.2。これも過去5年で最遅。東京大好きのコスタノヴァにとっては余裕の追走だったのではないか。

後半800mは12.2-12.2-11.7-12.2、48.3。芝と違い、上がりが速くなりづらいダートでは後半が遅くなる。だからこそ、前後半の落差が1.1と小さかったのは、さすがは東京のGⅠといったところ。ゴールまで失速せず駆け抜けられる先行型は負けない。たとえダートであっても速力を落とさず走れる馬でないとフェブラリーSでは通用しない。

スピードの総合力を問われた結果、コスタノヴァに凱歌をあげた。レース全体を通して非の打ちどころがなく、東京なら負けようがない競馬ができる。

課題とされた根岸Sから中2週の出走間隔もいらぬ心配というもの。完璧だった。東京に照準を定め、じっくり完成のときを待ったのは、木村哲也厩舎ならでは。決して急かさないのがこの厩舎の特徴だ。今後、コスタノヴァが東京で出走できる機会は来年現役を続けないかぎりない。さて、どうするか。


美しかった4コーナーの立ち振る舞い

短期免許で来日中のR.キング騎手はこれがJRA・GⅠ初制覇。昨年はGⅡのAJCCを勝ち、今年はGⅠと、着実にステップアップしていけるのは適応力と謙虚さのあらわれだ。ダートも昨年の来日期間後半ぐらいから格段に上手くなった。

4コーナーで馬に負担をかけず、音もなく外に出てくる美しいコーナリングが印象に残る。C.ルメール騎手がサウジ遠征に行き、宙に浮いた鞍上の座をつかんでの勝利だが、そんなチャンスを着実にモノにできるのはトップジョッキーの証でもある。日本でのキャリアも今後、さらに飛躍を遂げそうだ。

レースに戻る。前半より後半が1.1秒遅かっただけなのは、前半が遅かったからでもある。感覚的には芝の瞬発力勝負に近く、好位勢はもう少し踏ん張っていい競馬だった。

ミトノオー15着、サンデーファンデー10着、エンペラーワケア5着。大敗2頭は戦歴としてはダートのスピード競馬向きではなく、前半の遅い流れが仇となった。とはいえ、極端に速いペースで逃げられるタイプではなく、東京ダート1600mでは分が悪かった。適性外と割り切って次走は買ってみたい。

エンペラーワケアは東京の根岸S、武蔵野Sを勝っており、適性は申し分なし。ちょっと物足りない。武蔵野S以来となる3カ月半ぶりの出走もあったか。最内から馬群をさばくのに手間取ったにしろ、進路がクリアになってからの伸びも冴えなかった。本来はもう少し弾けていい。

難しいローテーションになってしまったのも、そうせざるを得ない状況だったからだろう。5歳でもキャリアはたった11戦。長期の休みもあったが、2、3カ月ごとの出走間隔を守ってきた。

コスタノヴァはGⅠに向け、中2週の試練に挑んでおり、その差が結果に出てしまった。とはいえ、勝負のために無理すればいいというものでもないから難しい。馬券を買う側は簡単に考えがちだが、誤解してはいけない。


適性違いでも好走した4歳勢

2着サンライズジパングは「音無秀孝厩舎三本の矢」の一頭として最先着を果たした(ほか2頭はサンデーファンデーとデルマソトガケ)。最後はコスタノヴァに3/4馬身まで差を詰めており、なんとも悔しい。後方から伸びたのはこの馬だけ。決め脚だけでは勝てないGⅠで2着は高く評価できる。

それにしても幸英明騎手はダートでイン突きでの激走が目立つ。ダートも芝と同じで距離ロスの軽減はラストにつながる。実力面の足りない部分を埋めてくれる騎手は心強い。

砂を被ると嫌がる馬が多いダートでは、直線で芝以上に馬群が外に広がりやすい。その分、ダートの内は進路をとれる。サンライズジパングも下がってくる先行勢の間に十分な進路があった。芝のように内と外で路面の状態が変わることはなく、ダートでは有効な策でもある。渾身の騎乗であり、本当に悔しい結果になった。

3着ミッキーファイトは外目の枠、遅い流れ、前に壁がないという最悪な状況にはまり、行きたがってしまった。コスタノヴァに並べなかったのは、前半の消耗によるもの。強い馬ほど、前を追いかける闘争心が強い。これが結果的には仇になってしまった。

2、3着は不利とされる中距離からの転戦だったことを踏まえると、どちらも実力を示した。さすがは先日のサウジC覇者フォーエバーヤングとしのぎを削った4歳世代の上位クラス。これからは間違いなくこの世代がダート界の中心を担う。

昨年のフェブラリーS覇者ペプチドナイルは4着。好スタートを決めたものの、ポジション争いで一歩下がる形になったのは痛かったか。ハイペースだった昨年より遅い流れであり、もう一列前をとりたかった。

2025年フェブラリーS、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。

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