【有馬記念】ドウデュースにかかる偉業、今こそ振り返りたい“連覇挑戦”3選 1999年は「4cm差」伝説の名勝負
高橋楓
ⒸSPAIA
グレード制導入後の連覇達成はわずか3頭
「有馬記念」という文字を見ると、どこかワクワク、ソワソワした気持ちになるのは私だけではないだろう。今年一年の総決算とも言えるレースで当然なのかもしれない。
今年一番の注目は何といってもドウデュースだろう。引退レースで有馬連覇をかけ出走する。グレード制導入以降、有馬記念連覇に挑戦した馬は19頭。その成績は【3-0-3-13】勝率、連対率15.8%、複勝率31.6%だ。
連覇成功は1984~85年のシンボリルドルフ、1998~99年のグラスワンダー、2002~03年のシンボリクリスエスの3頭のみ。テイエムオペラオーやゴールドシップが連覇に失敗していることからも、難易度の高さがわかる。
今年はそんな偉業にドウデュースが挑戦する。そこで今回は、連覇に挑戦した馬がいた思い出深い3レースを振り返っていく。
1999年 グラスワンダーが歴史に残る大激戦を制す
1999年の古馬中距離界は、天皇賞春秋とジャパンCを制したスペシャルウィークと、宝塚記念でそのスペシャルウィークを破ったグラスワンダーが主役だった。
当日の単勝人気は有馬記念連覇を目指すグラスワンダーが2.8倍の1番人気、スペシャルウィークが3.0倍の2番人気に支持された。スタート時間を迎え、観客の歓声が1900年代最後の有馬記念を盛り上げる。
レースは武豊とスペシャルウィークが、少し前を行く的場均とグラスワンダーを最後方からマークする展開。1周目のゴール板を迎えるとファンの声援は一段と大きくなった。逃げ馬不在の一戦でスローペースとなるなか、3コーナーに差し掛かると14頭が一塊になり、外々をまわって2頭が進出を開始した。
直線を向くとグラスワンダーが外から今一つ伸び切れないなか、ツルマルツヨシが先に抜け出し、そこに3歳馬(当時4歳)テイエムオペラオーが猛追。さらにスペシャルウィークが大外から伸びてくると、グラスワンダーはライバルを待っていたかのようにそれに反応。再び伸び始め、最後はスペシャルウィークと並んでゴール板を駆け抜けた。
勢いでは完全に外のスペシャルウィークが優勢も、どちらが勝ったかはまったく分からず、オーロラビジョンにゴール映像が流れるたびに観客の大歓声が上がった。人気のライバル同士がしのぎを削り合うという、まさに競馬の醍醐味が詰まった一戦といえる。
競馬場にいるすべての人が掲示板に注目。そんななか掲示板の1着欄に表示されたのは、7番。勝ったのはグラスワンダー。その瞬間、スタンドから大歓声が上がった。
グラスワンダーがわずか4cm差の大激戦を制し、史上3頭目、そしてグレード制導入以降では2頭目となる有馬記念連覇を達成。このレースを四半世紀過ぎた今でも最高のレースと称えるファンも多く、忘れられない一戦となっている。
2001年 3歳馬に敗れたテイエムオペラオーのラストラン
4歳シーズンの2000年、テイエムオペラオーは全盛期を迎えていた。春秋の天皇賞に宝塚記念、ジャパンカップ、有馬記念を含む年間8戦全勝。「世紀末覇王」というネーミングにふさわしい活躍ぶりだった。
ところが、翌年の2001年5歳シーズンは前年と変わり、なかなか期待に応えられない日が続く。GⅠとGⅡだけを走り【2-3-0-1】の成績。並の馬なら活躍と言える成績も、昨年の活躍からオペラオーの場合はファンからそう見てはもらえなかった。
秋初戦の京都大賞典は、ステイゴールドの失格による繰り上げ1着。次走の天皇賞(秋)はアグネスデジタルの強襲に屈して2着。ジャパンCは3歳ダービー馬ジャングルポケットに差し切られての2着と勝ち切れず。そんな中で引退レースの有馬記念を迎えた。
とはいえ、ファンは1.8倍の1番人気にテイエムオペラオーを支持した。2番人気はライバルのメイショウドトウ。3番人気がこの年の菊花賞馬マンハッタンカフェで、4番人気のナリタトップロードまでが一桁オッズだった。
レースは逃げが予想されたホットシークレットの行き脚がつかず、トゥザヴィクトリーと武豊のコンビが逃げる展開でゆったりと流れる。
テイエムオペラオーは中団からやや後ろのあたりを追走。3コーナーのカーブを迎える頃には13頭が一塊になり、先にメイショウドトウが進出し、外から一気に3歳馬マンハッタンカフェがポジションを上げていった。
その前には逃げるトゥザヴィクトリーと、それに迫るアメリカンボス。テイエムオペラオーは残り200mを切った辺りからエンジンがかかるも、先に抜け出した4頭を交わせず、生涯最低着順の5着に敗れた。
テイエムオペラオーは天皇賞(秋)で4歳馬アグネスデジタル、ジャパンカップで3歳馬ジャングルポケット、そして有馬記念でも3歳馬マンハッタンカフェに敗れた。まさに競馬界に世代交代を告げる2か月間だったといえる。
しかし、それはまったく悲観的なものではなく、花の一生の美しさと儚さを感じさせるような時間として、今でも色褪せることなく競馬ファンの心に生き続けている。
2005年 ゼンノロブロイのラストランはディープインパクトが話題独占
前年の2004年にテイエムオペラオー以来の史上2頭目となる秋古馬三冠を成し遂げたゼンノロブロイ。2005年シーズンは宝塚記念から始動。しかし、善戦こそするものの、あと一歩及ばない競馬が続いていた。
そんななか、ファン投票2位で連覇をかけラストランの有馬記念に出走。ただ、この年の話題はシンボリルドルフ以来、史上2頭目となる無敗の三冠馬に輝いたディープインパクトだった。
「日本近代競馬の結晶」とまで謳われたディープインパクトが単勝1.3倍の1番人気。ラストランのゼンノロブロイは少し離された6.8倍の2番人気だった。今年一番の注目は、ディープインパクトが圧倒的人気に応えてここも圧勝するか。そこだった。
レースはラストランのタップダンスシチーが思い残すことなく単騎で逃げる展開。ゼンノロブロイは中団後方の内側に進路をとり、ディープインパクトは定位置の後方から進めた。
レースが動いたのは3コーナーをまわった辺り。ディープインパクトと武豊がスッと外から進出開始すると、ゼンノロブロイのK. デザーモ騎手もゴーサインを出す。しかし、直線では勢いの差は明らか。ディープインパクトが先行していたハーツクライを懸命に追うなか、ゼンノロブロイはまったく差を縮めることが出来ず、5馬身近く離された8着でゴールした。
勝ったのはジャパンカップでアルカセットと2分22秒1のレコード対決を演じた4歳馬ハーツクライ。注目を集めた3歳馬ディープインパクトは初めて黒星を喫した。
ドウデュースのラストランを見届けたい
冒頭でも述べたが、今年最大の注目は5歳馬ドウデュースだろう。同馬が秋古馬三冠を制し、また有馬記念連覇でラストランを飾るか。最大の注目はそこだろう。
しかし今回振り返ったように、力をつけてきた若い馬の挑戦を退け、有馬記念連覇を達成するのは並大抵のことではない。
はじめに書いたが、グレード制導入以降の連覇はシンボリルドルフ、グラスワンダー、シンボリクリスエスの3頭のみ。いずれも3歳→4歳での達成で、4歳→5歳での連覇はない。
とはいえ、この秋のドウデュースは今が全盛期とも思えるような走りを見せている。新たな歴史の扉が開くのか、今年の有馬記念から目が離せない。
《ライタープロフィール》
高橋楓。秋田県出身。
サクラローレルの馬体の美しさに魅せられて競馬の世界に惹きこまれる。他に好きな馬はホクトベガ、サイレンススズカ。一口馬主を趣味とし、楽しさを伝える事にも注力している。
競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』にてライターデビュー。競馬、ボートレースの記事を中心に執筆している。
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