【ステイヤーズS回顧】シュヴァリエローズが重賞連勝を達成 北村友一騎手の柔軟性が光る

SPAIA編集部

2024年ステイヤーズSのレース結果,ⒸSPAIA

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競馬が芸術だと思う瞬間

競馬が芸術だと思う瞬間はいくつもあるが、その最たるがゴールの瞬間だ。1、2km先から馬を走らせ、ゴール板でハナ、クビの接戦になる仕組みが未だに分からない。なぜ、それだけの距離を走って数センチしか差がないのか。これほど際どい勝負を毎回重ねる競技をほかに知らない。

ステイヤーズSは3600mの長距離戦。いわばマラソンだ。人間のマラソンでゴールテープを数センチ差で通過することが果たしてどれほどあるのか。1着シュヴァリエローズと2着シルブロンはハナ差。シャッターカメラでは判別できないほどの超がつく大接戦だった。

1986年以降のステイヤーズSでハナ差だったのは今年も含め3回。過去2回は1998年1着インターフラッグ、2着アラバンサ、2002年1着ホットシークレット、2着ダイタクバートラム。どちらも4コーナーで前だった馬が勝った。粘るのと追い上げるのでは、勢いは後者が上でも、軍配は前者にあがることが多い。後ろから差し切るなら、はっきり前に出るほどの脚力が必要になる。

今回の勝負もまた、4コーナーではシュヴァリエローズ2番手に対し、シルブロン8番手。勝因のひとつは前にいたことだろう。ましてマラソンレースなら、勝負圏内はレースが進むにつれ、どんどん絞られていく。1周目、2周目とも向正面でインの3、4番手につけたシュヴァリエローズは最後まで勝負圏内から離されなかった。

京都大賞典で末脚を発揮したにもかかわらず、距離を考え前へ行った。舞台に合わせた柔軟性が北村友一騎手の強みであり、それに応えるシュヴァリエローズの充実度が光った。

穴種牡馬トーセンジョーダン

中山の馬場を約2周するマラソンレースは例年以上に淡々と流れた。昨年勝ち馬アイアンバローズが先手を主張したため、後ろは動きづらかったからだ。最初の1000m1:04.3。次が1:04.7。この時点で好位にいないとどうにもならない。最近の長距離戦は道中で動きがあるレースも増えたが、本レースはそれ以上に長く、実に動きにくい。

レースが動いたのは、残り1200mから。2周目向正面を進むあたりで13.3から12.2とアイアンバローズがギアをあげた。ここから11.9-11.7-11.8-11.5と坂下まで加速していけば、耐久力がない馬は落ちていく。

ライバルの手応えが4コーナーにかけて悪化するなか、抜け出してきたシュヴァリエローズは長距離適性が高い。2000m前後を使われ、2400、2500mに距離を延ばして成績があがった理由もここにある。進むべき道がようやく明確になった一戦だ。

こう振り返るほど、勝負圏外から飛んできたシルブロンも価値がある。ほぼノーチャンスの中団にいて、なおかつ勝負所で先を急がず、仕掛けを待ったのは憎いかぎり。マーカンド騎手の導きも大きい。昨年のダイヤモンドS1番人気3着を覚えていれば、狙えた馬。単勝万馬券でほぼ同時にゴール板に入り、ハナ差2着。単勝馬券をもって写真判定を見守り、崩れ落ちた人には同情しかない。

馬体重が安定せず、成績にムラがあるものの、今回も含め500kg台だと【1-1-1-3】と結果が出る。長距離と500kg以上が好走のサイン。成績が安定せず、人気に推されにくい穴馬気質だけにサインを逃したくない。

トーセンジョーダン産駒は今回も含めJRA重賞【0-2-2-9】。産駒の重賞初制覇の大チャンスだった。重賞で馬券に絡んだ4頭は12、13、1、13番人気。4回中3回は単勝万馬券。重賞で複勝ベタ買いなら儲かる穴種牡馬だ。

1、2着はともに6歳。今年、この世代は平地重賞18勝。GⅠは香港ロマンチックウォリアーを含め6勝している。ペプチドナイル、テーオーロイヤル、テンハッピーローズ、ソウルラッシュ、レモンポップとすべて異なる馬でもあり、多彩な世代だ。

3着ダンディズムは8歳にして福島記念、ステイヤーズS3着と成績が安定してきた。若い頃はムラ馬だったのが信じられない。

安定を支えるのが自力勝負に出られるようになったこと。福島記念もハイペースをまくり、今回はスローを好位で立ち回った。勝負圏内に入る強さを証明する一頭だ。その変貌ぶりはいつまで続くのか。いけるところまでいってほしい。


2024年ステイヤーズSのレース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『アイドルホース列伝 超 1949-2024』(星海社新書)に寄稿。

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