【2歳馬ジャッジ】ヒシアマンが6馬身の圧勝で高指数を記録 今後の重賞戦線での活躍に期待
山崎エリカ
ⒸSPAIA
8月5週目の2歳戦
このコラムでは古馬のレースと比較しながら2歳戦の指数を算出し、出走馬を評価していく。今回は小倉2歳Sで高指数勝ちしたエイシンワンド、札幌2歳Sでハイレベルな争いを制したマジックサンズなどが出た、8月31日、9月1日の2歳戦について指数と評価を掲載する。なお、この週は週中に大雨が降り、馬場がだいぶ渋ったなか開催されていた点には留意いただきたい。
8月31日(土) 新潟5R 優勝馬 ヴィンセンシオ 指数-2 評価A
6番枠からやや出遅れ。高脚(足を高く上げること。馬の癖の一つ)を使ってややテンに置かれたが、騎手が気合いをつけて逃げ馬の外2番手まで挽回した。5F通過67秒0とかなり遅いスローペース。最後は瞬発力勝負となり、4角で先頭列に上がって早々と先頭。そのまま押し切るのかのように見えたが、ラスト1F手前で内からキャピタルリッチに交わされ、苦しい展開となった。しかし、そこからもうひと伸びして、フットワークがグンと大きくなりクビ差で差し切った。
芝2000mで走破タイム2分8秒4はかなり遅いタイム。本馬の上がり3Fタイムは35秒2でこの走破タイムでは評価できない。しかし、ラスト2Fは11秒6-11秒1。これが最後にグンと伸びたことを示す数字だろう。今回の走破タイムは平凡で疲れを残しにくく、今後順当に上昇が期待できる。成長力に期待したい。
9月1日(日) 新潟1R 優勝馬 マリノトニトゥルス 指数-6 評価A
8番枠から好スタートを決め、ダッシュ良く楽に先頭へ。指数最上位だったルチアーナにぴったりマークされていたが、そのままマイペースで逃げた。最後の直線では外から同馬が襲い掛かかり2頭の追い比べ。こうなると逃げていた方が明らかに不利だが、最後まで交わさせずクビ差で逃げ切った。
本馬は今回がデビュー3戦目。新馬戦もスタートは速かったが、当時は競り合いを避け、2列目の内に控えて4着。次走の未勝利戦もスタートは速かったが、13番枠だったこともあり、そこから抑えて中団馬群の後方外目を追走。直線は伸びていたが、ここでも4着だった。
しかし、今回はゲートの速さとダッシュの良さを生かしてそのまま逃げ、3着馬に5馬身差をつけて勝利。今回はそのまま行かせたことが良かったようで、好指数勝ちとなった。
毎回スタート直後のダッシュが速いのは減量騎手起用の面もあり、現状は気性面の危うさも感じる。ただ今回の指数、レース内容は優秀で普通に考えれば昇級しても通用するはず。また2着のルチアーナは並の未勝利戦ならば勝利できる指数を記録。順調なら近いうちに未勝利クラスは突破するだろう。
9月1日(日) 新潟5R 優勝馬 エンジェルマーク 指数-5 評価AA
レースは1番人気のグロスビークが押し出されるようにして逃げる展開。同馬は母アドマイヤセプター、祖母アドマイヤグルーヴ。半きょうだいにはGⅠ級の高い素質を秘めていたスカイグルーヴ、デシエルトがいる超良血馬。やはりフットワークも美しかった。
エンジェルマークは5番枠から好スタートを決め、グロスビークの後ろをぴったりマークして追走する形。グロスビークが先頭で直線に入ってきたときは順当に勝利するようにも思えたが、ラスト2Fで同馬が追い出されると、エンジェルマークもその外から上がり、2頭が後続を大きく引き離してのマッチレースに。こうなると追う方が有利でエンジェルマークがグロスビークを競り落としてクビ差で勝利した。
エンジェルマークの上がり3Fタイムは32秒9。同日の新潟記念の上がり最速が32秒8で、これはかなり高く評価できる。ただ同日の1勝クラス直線1000mには大きく劣るタイムだった(リバティアイランドの新馬戦の上がり3Fタイムが同週の直線1000m出走馬たちよりも速かった)。
ラスト2Fは10秒6-11秒0と減速。これはかつての新潟新馬戦で高い評価を受けながらも、実は過剰評価だった馬に多かったラップ構成。しかし、エンジェルマークも最後の直線で後続を一気に引き離して、なかなか優秀な指数を記録。高い素質を秘めていることは間違いない。今後もかなりの活躍が期待できそうだ。
今回2着のグロスビークは逃げたことが敗因だろう。おそらくC.ルメール騎手は新馬戦で能力を全開にさせないために逃げたものと推測する。今後、順当な上昇が見込まれ、悲観する必要はない。きょうだいは高い素質を持ちながら、全力で走ったときのダメージが大きく残ってしまい大成しきれなかった。グロスビークはその点を考慮して、うまく仕上げてほしい。能力を出せるようになれば、当然重賞を狙える馬に育つだろう。
9月1日(日) 新潟6R 優勝馬 マックアルイーン 指数-3 評価A
8番枠から五分のスタートだったが、じわっと先行策。そのまま先頭に立ってマイペースの逃げになった。3~4角で8枠両馬が上がってきたが、手応え十分で直線へ。直線序盤で軽く追われると後続を引き離して3馬身差。ラスト1Fでさらに差を広げて3馬身半差で圧勝した。
新潟芝1400mの走破タイム1分23秒3は速くない。だがこの舞台はオーバーペースで消耗度の高いレースとなってしまうことが多い。その点、このタイムならそこまで疲労を残さず理想的だ。今回は逃げての勝利だったが、差す形でギアが一段階上がるようならなかなか面白い存在になりそうだ。
8月31日(土) 中京2R 優勝馬 カロローザ 指数-7 評価A
5番枠からやや出遅れたが、押して勢いをつけてハナを主張して逃げた。週中に大量の雨が降った重馬場を考慮するとやや速いペースの逃げ。最後の直線序盤で追い出されると、後続の馬たちの方が苦しくなった。ラスト1Fで後続をどんどん突き放し、結果6馬身差の圧勝だった。
今回はデビュー2戦目。1番人気だった新馬戦は五分のスタートからじわっと2列目の外まで進出。早めに前を負かしにいったが、逃げ馬にそのまま押し切られての2着だった。
今回は逃げたことで能力を引き出し強かった。記録した指数は1勝クラスでも上位入線のレベル。昇級後も当然通用するだろう。勝ったり負けたりしながら上のクラスに上がっていく馬だ。
8月31日(土) 中京5R 優勝馬 カレンラップスター 指数-3 評価B
3番枠からやや出遅れたが、すぐに内に進路を取り2列目の最内を確保。道中は逃げ馬の後ろにスペースを作って中団最内を追走した。このレースは雨が降っており5F通過67秒4のかなりのスローペース。最後の直線は他馬が馬場の悪い内を避けて外に進路を求めたが、この馬は4角で最短距離を通って直線序盤で先頭列へ。ラスト1Fでしぶとく抜け出し、2馬身差で勝利した。
このレースは徹底してインにこだわった松山弘平騎手のファインプレーもあるが、かなり豊富なスタミナを感じさせる勝利でもあった。走る舞台を選びそうな馬だが、なかなか楽しめる存在となりそうだ。
9月1日(日) 中京5R 優勝馬 フードマン 指数-3 評価B
3番枠から好スタート、好ダッシュでハナを主張。先手を取ると馬場の悪化した内を避け、外目に進路を取った。3~4角でも外目を回っての逃げ。そうなると距離ロスを嫌い、内から上がってくる馬がいた。それでも4角も外を走り、最後の直線ではさらに外に出した。3~4角で内から上がってきた馬たちは直線で伸び切れなかった。最後は本馬の外からきたチムグクルとの一騎打ち。最後に半馬身差まで詰め寄られたが、3着馬に6馬身半差をつけて逃げ切った。
走破タイム、上がり3Fタイム、ラスト2Fはどれも秀逸とまでは言えない。着差ほど高い指数とはならなかった。ただし、逃げて勝利した馬は次走、差す競馬で大きく前進することもあるので要注目だ。
このレースで光ったのは松山騎手。この週の2歳戦ではメインの小倉2歳Sこそ枠に泣いて結果が出なかったが、2歳戦での絶妙なコース取りは、大胆さに繊細さが加わった騎乗だった。
9月1日(日) 中京11R 優勝馬 エイシンワンド 指数-11 評価A
8番枠から五分のスタートだったが、そこから押して先行争いに加わっていった。道中は2列目の外3番手で進め、3~4角は楽な手応えで先頭列に押し上げて直線へ。直線序盤で先頭のレイピアを捉えて半馬身ほど前に出た。ラスト1Fでやや甘くなり、外からクラスペディアに迫られたが3/4差で勝利した。
本レースの出走馬で前走評価AAだったのは、10番人気アブキールベイのみ。他は評価Aの馬が多かった。同馬は新馬戦のラスト2Fが優秀でAA評価としたが、計算すると指数は平凡だった。無難にいくなら前走出遅れながら2列目の外まで挽回し、良い指数で勝利したエイシンワンド本命という選択だったが、配当面も考えてアブキールベイを本命とした。
アブキールベイは3番枠から出遅れ、最後方付近から馬場の悪化した最内を通って中団までポジションアップ。3角で3列目の最内、4角で2列目まで押し上げ4番手で直線へ。直線も外へ出すことができず進路は内。いったん3番手に上がったが、外を通った馬たちに伸び負けして5着。馬の強さはある程度証明できたが消化不良な一戦だった。
勝利したエイシンワンドは、理想的なコース取りから抜け出しての勝利で強かった。指数は例年の小倉2歳Sとほぼ同等レベル。今後も勝ったり負けたりしながら芝短距離路線で活躍していくだろう。
本レースの2着は、エイシンワンドが勝利した新馬戦で逃げて2着だったクラスペディア。未勝利馬の重賞連対には驚いた。前走の新馬戦は逃げたことで能力を出し切れなかったのだろう。今回は差す競馬で大きく前進。4角では2列目の外にいたが、直線で外に出した騎手のコース取りが良かった。
8月31日(土) 札幌5R 優勝馬 ダイシンラー 指数-2 評価A
7番枠からはっきり出遅れ、後方2列目付近からの追走。ペースは3F通過38秒6とかなりのスローペースだった。後方2列目の外キングピラートは道中で先頭列まで進出したが、ダイシンラーはそこで外に進路を取りじっくりと構えた。3~4角ではかなり外を回りながら進出して、好位の直後まで上がって直線へ。最後までしぶとく伸びてアタマ差で勝利した。
レースの流れを考えれば好位の最内を立ち回った1番人気ダノンミッションが明らかに有利な展開だったが、ダイシンラーは馬場の良い外を走りしっかり構えたのが勝因か。
芝1500mの走破タイム1分34秒0は超平凡。上がり3Fタイム36秒2、ラスト2F12秒2-12秒1もそこまで高く評価できない。ただ出遅れ、ペース、コース取りの不利がありながら勝利した内容は数字以上の価値がある。長く良い脚を使えることから、距離が延びて良さそうなタイプ。なかなか面白い存在に成長してくれそうだ。
8月31日(土) 札幌11R 優勝馬 マジックサンズ 指数-12 評価AA
2番枠からやや出遅れ、そこから促されてもあまり進まなかったが、中団中目のスペースを拾って挽回した。道中はそこから外に出してうまくモンドデラモーレの後ろから3角へ。3~4角で中団外から早めに仕掛け、4角では馬場の良い外を通って先頭列に並びかけて直線へ向いた。そのまましぶとく伸び、最内から抜け出したアルマヴェローチェとの叩き合い。ラスト1Fで内からステッキを入れると外に張っていたがハナ差で勝利した。
出走馬のなかで新馬戦時の評価AAはマジックサンズ、ファイアンクランツの2頭。どちらを本命にするかで悩んだ。マジックサンズは新馬戦で出遅れながら好指数で勝利した馬。順当に上積みが計算でき、次走重賞でも期待できると評した。
ファイアンクランツは新馬戦で好位から抜け出し、ラスト2F11秒8-11秒1とかなり優秀な瞬発力を見せ勝利。GⅠ級の潜在能力を持つ可能性を感じさせる内容だった。ただ同馬のようなタイプは意外と次戦で順当に伸びない可能性も理解していた。今回のレースでもファイアンクランツは中団の外から伸びたが3着止まり。スケールの大きさよりも、今回に向けての隙のなさが勝敗を分けた。
今回驚いたのは2着に入った牝馬アルマヴェローチェだ。中団の内から3~4角で最内を選択した鞍上の判断が光ったが、新馬戦は特筆すべき内容ではなかった。ただ同馬のように、逃げて新馬戦を勝利した馬は内容平凡でも次走で大きな上積みを見せることがあり、まさしくそのパターンだったようだ。
今年の札幌2歳Sは指数が世代トップにはならなかった。しかし上位入線馬は当然、今後も重賞級の活躍が期待できるだろう。
9月1日(日) 札幌1R 優勝馬 ヒシアマン 指数-9 評価AA
8番枠から好スタートを決め、絶好の手応えで先行するも中団中目に控えて折り合った。3~4角で後続各馬が動き、4角では先頭7~8頭の横並びとなったが、本馬は内から4~5頭のところを抜け出し、軽く仕掛けた程度で先頭。そこから突き抜けて6馬身差で圧勝した。
本馬の前走7月札幌の新馬戦は、セレクトセールである程度高額取り引きされた馬が集結した一戦だった。勝利したアルテヴェローチェとヒシアマンが3着以下を5馬身以上引き離しての追い比べとなり、なかなかの好指数を記録した一戦だった。
今回の出走馬のなかでは断然の指数1位だったが、デビュー2戦目は順当に上昇する馬ばかりではない。単勝オッズ1.4倍ほどの信頼度があるとは見ていなかった。しかし、終わってみれば明らかに力が違った勝利だった。
ラスト2F12秒0-11秒5の数字はまだ余裕を感じさせた。今回で記録した指数は1勝クラス勝ちが期待できるもの。また、これでデビューから2戦続けて上がり最速をマークした。数字はプラス要素を示すものだらけ。今後は重賞での大活躍が期待できるだろう。
9月1日(日) 札幌9R 優勝馬 カワキタマナレア 指数-11 評価AA
4番枠から出遅れて後方からの競馬。しかし、鞍上は前走時のように慌てた様子はなく、中団馬群の後方中目でジックリ脚を溜めさせた。3~4角では馬群の一番外から進出、4角では大外。随分と距離ロスが大きく、直線序盤でもまだ中団だったが、ラスト1Fでしっかり脚を伸ばして1馬身3/4差で完勝した。
本馬は新馬戦で上がり3Fタイム33秒8と素晴らしい瞬発力を披露。2着馬に3馬身半差、3着馬に7馬身半差をつけて好指数で圧勝した。重賞でもチャンス十分と評価AAにした馬だ。次は重賞に出てくると思っていたが、OPのシンガポールTC賞(昨年までのすずらん賞)に出走してきた。ここなら明らかに能力上位。勝つのは当然として、どのように勝つか注目していたが、力の違いを見せる完勝だった。
これで2戦2勝。2戦連続の上がり最速。荒っぽいレースぶりから今後は結果にムラが出そうだが、瞬発力は間違いなく重賞級だ。血統面から一度負ければすぐに距離不安説が出て、マイル以上の距離では人気薄となりそうだが、どこかの重賞で激走を期待したくなる馬だ。
※パワーポイント指数(PP指数)とは?
●新馬・未勝利の平均勝ちタイムを基準「0」とし、それより価値が高ければマイナスで表示
例)ヒシアマンの指数「-9」は、新馬・未勝利の平均勝ちタイムよりも0.9秒速い
ライタープロフィール
山崎エリカ
類い稀な勝負強さで「負けない女」の異名をとる競馬研究家。独自に開発したPP指数を武器にレース分析し、高配当ゲットを狙う! netkeiba.com等で執筆。好きな馬は、強さと脆さが同居している、メジロパーマーのような逃げ馬。
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