【阪神大賞典回顧】テーオーロイヤルが示した格の違い 6歳にして才能開花、今年こそGⅠ獲りへ

SPAIA編集部

2024年阪神大賞典、レース結果,ⒸSPAIA

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ダイヤモンドSとのちがい

2024年3月17日に阪神競馬場で開催された阪神大賞典は、ダイヤモンドSで復活Vを飾ったテーオーロイヤルが連勝。いよいよGⅠ獲りへ名乗りを上げた。本来は格なら最上位の存在であり、能力を発揮すれば、その先も開けてくる。

かつて12月に行われていた阪神大賞典が3月に移ってから37年間、ダイヤモンドSの勝ち馬がこのレースを制した年はなかった。同じ長距離でも、冬のハンデ戦と春の盾の前哨戦ではそもそも出走メンバーのレベルが違う。レース数が少ない長距離は出走馬の顔ぶれが似てくるため、格を忘れてしまいがちだが、ダイヤモンドSと阪神大賞典の間には明確な線が引かれている。決してまたぐことが許されない線だった。

1987年以降、昨年まで阪神大賞典の前走ダイヤモンドS組は【3-5-7-58】。1着馬は【0-2-2-6】。3勝は2~5着に敗れた馬たちがあげていた。連勝を目指した馬にはトウカイトリック、ユーセイトップラン、スルーオダイナなど名ステイヤーたちの名が並ぶ。テーオーロイヤルは、決してまたげない線をはじめて越えてみせた。

なんでもはじめて達成するのは価値あることだが、テーオーロイヤルの場合、いささか事情がある。なにせ2年前の天皇賞(春)3着馬で、そもそも格でいえば阪神大賞典で見劣ることはない。あの天皇賞(春)はタイトルホルダーが序盤1000m1.00.5と突っ込み、中盤で巧みに息を整え、ラスト1000m1.00.3でまとめた。4コーナーから直線に向いた時点で、馬群はバラバラ。ついて来られる馬は限られてしまった。必死に食い下がったのは当時5歳のディープボンドと、4歳だったテーオーロイヤルの2頭。あのゴール前をみれば、ステイヤーとしての格は一枚も二枚も抜けた存在だったと納得できる。

その後はジャパンCから翌年アルゼンチン共和国杯まで約1年の休養があり、ダイヤモンドSは往年の力を取り戻す過程で通ったレース。ニュアンスが違った。そのダイヤモンドSを制し、今回、阪神大賞典を5馬身差圧勝と、いよいよテーオーロイヤルはかつて自身がいた場所に戻ってきた。次の天皇賞(春)は忘れ物をとりにいく一戦だ。舞台は京都に替わるが、問題はない。真のステイヤーは場所を選ばない。


リオンディーズの奥深さ

それにしても父リオンディーズは不思議な種牡馬だ。3月10日終了時点で芝107勝、ダート80勝、障害4勝。勝率は芝もダートも互角だ。

距離は1800m以下の成績がよく、芝の重賞好走はテーオーロイヤルを除くとインダストリア、ストーリア、ロジリオン、アナザーリリックと中距離以下での好走ばかり。先日もディオが東風Sを勝った。オタルエバーも短距離路線を歩んでおり、産駒にステイヤーのイメージはない。

だが、テーオーロイヤルは3000m超【4-1-1-0】。異色といえばそれまで。だが、リオンディーズの現役はわずか5戦。マイルGⅠを制し、クラシック二冠は5着。中距離以上で活躍できた可能性を残し、種牡馬にあがった。母シーザリオはスペシャルウィーク×サドラーズウェルズ。オークスでみせた瞬発力はもはや伝説級だ。産駒には菊花賞馬エピファネイアがいて、一族にはオーソリティもいる。リオンディーズには父キングカメハメハ、母シーザリオの二面性がある。テーオーロイヤルはリオンディーズを介してシーザリオを感じる。

瞬発力のイメージは薄いかもしれないが、復帰後の3戦はすべて上がり最速を記録した。3000m超の決め脚比べなら負けない。6歳にして血統に秘める力を開花させたといっていい。


ワープスピードのジレンマ

レースは前半1000m1.03.7、中盤1000m1.05.2、後半1000m57.9。2000m通過まで13秒台連発の超スローから残り1000m勝負と距離適性がなければこなせない流れになった。ラスト1000mは11.7-11.1-11.7-11.8-11.6。格にふさわしいレースであり、その格に見合う馬でないと上位進出はなかった。

2着ワープスピードは中盤の超スローで内から動いた好判断が結果につながった。動いても脚をさして使わない地点で動き、勝負所ではインから攻め、テーオーロイヤルに相手を絞った作戦が2着へ導いた。

後半1000m勝負を乗り切っており、長距離適性は申し分ないが、テーオーロイヤルと5馬身差では現状、長距離GⅠ格の力は備わっていない。とはいえ長距離のGⅡ、GⅢならいつ手にしてもおかしくない。悩ましいのはこの先、適条件の番組がしばらくないこと。2400m前後だと追走に余裕がなく、最後思ったほど伸びないというケースは頭に入れておこう。

3着ブローザホーンは3000m超初出走だったことを考えれば、健闘したといえる。さらに転厩して間もない状況は馬にとって難しい。

予め計画されたものではあるが、ブローザホーンには理解できない。慣れた美浦から見知らぬ栗東への引っ越しは、それなりにストレスもあったと想像できるが、馬体重増減なしと馬自身、取り乱すことなく、レースに臨めた。そこにはじめての3000mとくれば、崩れてもおかしくない。ここを3着で乗り切ったので、この先も展望できるだろう。戦うごとに強くなる逞しさもあり、もうひと花、ふた花と期待できる。

3番人気サヴォーナは6着。少し位置取りが後ろになった分、着順を落とした印象で、もう少し位置をとって粘り込む形がベストだろう。切れないがバテないという典型的なキズナ産駒の牡馬。改めて見直そう。

4年連続出走のディープボンドは7着、久々だったシルヴァーソニックは11着に敗れた。ベテランステイヤーと言えど、阪神大賞典の過去10年データ、7歳以上【0-0-0-33】には抵抗できなかったか。特に今年のような一気にペースアップする競馬では、ギアチェンジで劣ってしまう。ラップタイムに緩急がない競馬がいい。


2024年阪神大賞典、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬中心の文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。

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