【阪神C回顧】アイルハヴアナザー産駒は芝重賞2勝目 血統から見えるウインマーベルの適性とは
勝木淳
ⒸSPAIA
母系にあるサンデーサイレンス×ニジンスキー
種牡馬アイルハヴアナザーは2018年、米国へ戻った。ケンタッキーダービー、プリークネスSを勝ち、ベルモントSは直前で出走回避し、そのまま引退。その後ビッグレッドファームが購入した。2016年産駒デビューからわずか2年で帰国したのは、日本の芝に適応する産駒が出なかったのもある。
ダートはアナザートゥルースをはじめ、地方で重賞勝ち馬を出すなど活躍できたが、高速馬場への対応が難しかった。種牡馬の生存競争が激しいことを物語る事例のひとつだ。そんなアイルハヴアナザーが日本に残した最後の世代にウインマーベルがいる。葵Sは産駒初の芝重賞勝利であり、阪神Cは2勝目にして初のGⅡ制覇となった。帰国後に活躍馬が出るのは皮肉だが、ウインマーベル以外に芝で目立つ馬はいない。
では、ウインマーベルはなぜ芝で活躍できるのか。母コスモマーベラスは父フジキセキからサンデーサイレンスの血を引き、母系はニジンスキーの血をもつ。ニジンスキーは仕上がりが早く、スピードとスタミナ兼備のチャンピオン種牡馬。それでも日本の高速馬場だとスピード不足を招き、スタミナ寄りに力を発揮する傾向がある。一方でサンデーサイレンスと相性がよく、スペシャルウィーク、ダンスパートナー、ダンスインザダーク、ダンスインザムードとGⅠ馬を多く出した。ウインマーベルもサンデー×ニジンスキーの相性と、アイルハヴアナザーの持続力が融合し、芝短距離で活躍できたといえる。
だが、それでも軽い芝に適応できるわけではない。京都のスワンSは5着と、伸びそうで伸びきれなかった。しかし、阪神Cは前半600m33.1、後半600m35.0とハイペースになり、後半は11.4-11.6-12.0とゴールが近づくにつれ失速していった。最後はゴールまでスピードを落とさず走れるかという争いになったことで、ウインマーベルにとって力を発揮しやすい流れになったといっていい。
スワンSを勝った同馬主のウイングレイテストが大外枠からハナをとりに行き、内のエエヤン、ピクシーナイトを制したことで、前半600m12.3-10.2-10.6と速くなった。目立った逃げ馬がいないと、得てして先行争いは激化する。そんな典型的なレースのなか、内枠から好位につける積極策で押し切ったウインマーベルはハイペースの1400mがベストだろう。スプリント戦だとこの作戦がとれず、位置が下がってしまい、最後の末脚で見劣ってしまう。GⅠを狙うなら、やはり前半のスピードが必要になる。ハイペースになりにくい高松宮記念なら、チャンスは巡ってくるかもしれない。計画的に進んでほしい。
夏場にピークを迎える難しさ
阪神で後半が失速ラップとなれば、急坂で前後が大きく入れ替わる。2着グレナディアガーズはスタート五分も序盤の行きっぷりが悪く、後方待機。結果的にこの位置取りがハマった。R.ムーア騎手が先入観なく、馬の行く気に任せたことが功を奏した形だ。直線の走りは迫力十分で、やはりグレナディアガーズにとって阪神芝はベストだった。朝日杯FS勝ち、阪神C(21~23年)を1、2、2着と特に暮れに強い。リピーターが強い阪神Cを象徴する現象でもある。グレナディアガーズは今年で引退だが、来年の阪神Cも今年の結果や傾向を頭に置いて、予想しよう。
3着アグリは阪急杯の勝ち馬。当時は好位2番手から前後半600m33.9-34.3を抜け出した。今回は中団待機で上手くハイペースを味方につけたともいえるが、ベストは阪急杯のような軽いレースだろう。ウインマーベルとの差は適性の違いであり、流れや馬場が変われば、逆転は十分考えられる。
1番人気ママコチャは5着。スプリンターズS覇者とはいえ、経験は1400mの方が豊富で、適性はあると思われていた。実際、ハイペースを好位で流れに乗り、競馬のスタイルとしてはスマートだった。最後にひと伸びできなかったのは、ハイペースに泣いたというより、冬場の状態面ではないか。スプリンターズSと阪神Cは間隔が2カ月半空くため、相性がよくなく、2013~22年まで【1-1-0-12】。夏場に研鑽し、GⅠでピークを迎え、さらに冬に体調を上げていくのはGⅠ馬とて、簡単ではないということだろう。今回は致し方なし。この敗戦で評価を下げる必要はない。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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