【カペラS回顧】テイエムトッキュウがマイペース逃げで重賞V 判定はハイペースも前残りの展開

勝木淳

2023年カペラステークス、レース結果,ⒸSPAIA

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判定はハイペースだが

JRA唯一のダート1200m重賞の舞台は中山。芝スタートから下りながら3コーナーに突入する舞台は、毎年決まってハイペースになる。下級条件でも滅多に平均ペースになることはない。最後に急坂が待つため、後半は自然と時計がかかり、結果的に前傾ラップになる。ほぼすべてが前傾ラップになるということは、ハイペースが当たり前であり、判定はハイでも、実際はそこまで厳しいペースではないともいえる。つまり、先行馬にとって負担ならないハイペースが多いコースであり、その見極めが難しい。単純なようでそうはいかないコースだ。

今年のカペラSはその典型といっていい。昨年は前半600m32.2、その前が32.8。それぞれ後半600mは36.7(落差4秒5)、36.7(落差3秒9)で、逃げ馬は馬券圏外だった。落差が3秒5以上あれば、最後に差し馬に出番が回る。今年は33.5-35.8で落差は2秒3。ペース判定はハイペースでも、2秒程度だと逆転は難しく、前にいる馬も止まらない。先行馬とてダートのオープン馬。簡単に止まっては出世できない。

昨年より1秒3も遅い前半になったのはなぜか。先行勢の数が少なく、さらに最初600m32秒台を経験しているのは数頭しかおらず、今年記録した馬はいない。近況で超ハイペースを演出した馬がおらず、結果、ハナをとったのはテイエムトッキュウ。春の京葉Sを勝ったときは33.7-36.3で逃げ切った。この馬が労せず先手をとれれば、32秒台にはならない。前半600m33.5はテイエムトッキュウのマイペースといっていい。後半600mは11.3-11.8-12.7。残り400mでペースダウンすれば、差し馬も差を詰められるが、坂下まで11.8でマイペースを決めた逃げ馬は簡単には止まらない。ここを11秒台で乗り切られては、後ろは前半の差を縮められず、脚を使おうにも順位を逆転できない。急坂がある最後200mで12.7かかっても、すでに物理的に厳しいリードがついていた。


1、2着は展開次第でいつでも好走可能

勝ったテイエムトッキュウはマイペースで行けたことで、展開を味方につけた。3馬身ちぎるほどの力の差があったわけではなさそうだ。しかし、逃げ馬が展開にハマるのは差し馬のそれとは違い、組み合わせ次第であり、頻度が高い。なにより自身で演出できる強みがある。次も展開を味方につける可能性は十分あり、ライバルたちとのダッシュ力を比べ、ジャッジしたい。

テイエムトッキュウといえば、1999年カブトヤマ記念を勝ったテイエムトッキューを想像するオールドファンもいるだろう。「ウ」と音引きが違うため、正確には二代目とはいえないものの、響きはどこか懐かしい。ちょっとした巡りも競馬の面白さ。ぜひ、末永く競馬と付き合っていただきたい。

2着チェイスザドリームは10番人気。こちらもテイエムトッキュウのマイペースを利用し、残ることができた。番手で競馬できる分、崩れも少なく、近況も0.8、0.3差と着順ほど悪くない走りをしていた。馬券を買う側がハイペース、差し馬台頭といった近年のカペラSに引っ張られ、盲点だった。そこまで厳しくならないと踏めば、買えない馬ではなかった。テイエムトッキュウと同じく組み合わせ次第で、いつでも好走するだろう。

3着メタマックスは中団の前、隊列のポケットで上手く流れに乗った。差し馬で上位に来られるのはここまで。勝ち馬とは5馬身も差があり、この着順を鵜呑みにできない。とはいえ、前走1400mを逃げ切ってオープン入りしたばかりの3歳馬で、まだまだ強くなる。昇級初戦の重賞で最後にしっかり脚を使えたのはむしろ収穫だ。ペースに慣れれば、位置もとれるようになりそうだ。

1番人気リュウノユキナは4着。2年連続2着、それもハイペースを踏ん張る強い競馬でのものだけに、今回は三度目の正直かとみられたが、最後は伸びそうで伸びなかった。チェイスザドリームの背後から運んだだけに、ちょっと物足りない。さすがに8歳ともなると、JRAのスプリント戦は厳しいのかもしれない。今後は地方交流で注目しよう。ダートの一線級は簡単には衰えず、この4着で見限るには早い。


2023年カペラS、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。

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