【阪神JF回顧】マイルで輝くダイワメジャー産駒 来春の活躍も期待できるアスコリピチェーノ

勝木淳

2023年阪神ジュベナイルフィリーズ、レース結果,ⒸSPAIA

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越後から仁川へ

牝馬は牡馬のように路線がマイルと2000mに分かれることはなく、舞台も桜花賞までは阪神芝1600mで変わらない。桜花賞まではひと続きで道は基本、一本に限られる。阪神JFは桜花賞の中間地点にあり、もはや前哨戦といっていい。しかし、今年はアルテミスSを勝ったチェルヴィニアや、後に重賞やOPを勝つ馬を輩出した新馬戦を勝ったボンドガールがいなかった。これをどうとるか。2頭が戦列に並べば、たちまち勢力図を塗りかえるのか。いやいや、王道に乗った組を上ととるのか。来春に向けて、ファンは早くも考えはじめなければいけない。

2歳女王にはアスコリピチェーノが輝いた。1991年に牝馬限定戦になってから、前走が新潟2歳(旧3歳)Sだった馬の優勝は初となる。新潟2歳Sが現在と同じ外回り芝1600mになってから、新潟2歳チャンピオンは昨年まで次走【2-2-0-17】。2勝はセイウンワンダーとセリフォス、2着2回はハープスター、ロードクエスト。ロードクエスト以外はすべてGⅠ馬であり、ロードクエストも重賞通算3勝をあげた。2歳の若駒が新潟の外回りで究極の瞬発力勝負に勝つと、その後、スランプに陥りやすい。そんなジンクスめいたものを覆しただけで、アスコリピチェーノの未来は明るい。これがチェルヴィニア、ボンドガール不在ゆえか、そうではなく、アスコリピチェーノの器の大きさなのか。答えは春を待ちたい。

北村宏司騎手の冷静な手綱さばき

レースは例年以上にペースが速くなる要因は少なく、スローもあり得る組み合わせだった。先手をとったシカゴスティングも無理なく先行し、序盤600m34.4、800m通過は46.4。平均といったペースに落ち着いた。

ただ、全体的にマイルの経験がない馬も多く、特に先行勢は手薄だったため、最後は差し馬の出番になった。後半800mは11.8-11.3-11.4-11.7。残り600m地点から最速ラップを踏む競馬はGⅠらしい厳しさもあり、先行勢はきつかった。馬群に入り、中盤までじっとしていたアスコリピチェーノは狭くなる場面が何度かありながらも、引かずにリズムを整えられた。鞍上の意志と馬の前向きさがかみ合ったレース運びだった。外を回りすぎず、最少手で先行勢の外に導いた直線入り口までのエスコートは見事で、北村宏司騎手の冷静な手綱さばきは印象に残った。

GⅠ制覇はキタサンブラックの菊花賞以来。ここ数年はケガが多く、リズムを崩していたが、今夏はアスコリピチェーノの新潟2歳Sの前後から上昇気流に乗ったようで、以前の安定感を取り戻しつつあった。ぜひ、この勝利をきっかけに来年は関東トップ戦線に戻ってほしい。

父ダイワメジャー、母系にデインヒル、サドラーズウェルズはレシステンシアと同じ配合。ダイワメジャーとサドラーズウェルズの組み合わせは以前からニックスとされる。一本調子なところがあるダイワメジャー産駒に欧州の至宝は緩急への対応や底力を伝える。格の高いマイル戦は軽さだけでは勝てず、かといってスピードがなければついていけない。だからこそ、この組み合わせが絶妙だろう。

前後半800mは46.4-46.2なので、19年レシステンシアの45.5-47.2、1:32.7とは競馬の形もニュアンスも異なるが、アスコリピチェーノの1:32.6は評価できる。レシステンシアのような危うさはなく、競馬の上手さは上だろう。それにしてもここを回避したボンドガールも同じダイワメジャー産駒。ここにきて、まだ世代上位クラスを送る父の偉大さにも感心しかない。

互角だったステレンボッシュ

2着ステレンボッシュは赤松賞の勝ち馬で、厩舎の大先輩アパパネと同じローテだった。その赤松賞は1:33.8なので、この馬も1秒2も時計を詰めた。アスコリピチェーノの背後の外から競馬を進め、最後の直線では1、3着の間に入れず、その内に進路を切りかえた分、足りなかった。レース内容を踏まえると、勝ち馬とは互角だろう。来年の再戦が楽しみだ。

3着コラソンビートはボンドガールが勝った新馬戦の3着馬で、GⅠでもきっちり結果を残した。マイルへの距離延長は不安材料ではあったが、好位の後ろ、外目からの運びはまったく問題なかった。だが、最後の最後、坂を上がってからは脚色が鈍り、阪神のマイルはギリギリだろう。春に向けてスタミナ強化を図ってくれば、まだ可能性は残る。

1番人気サフィラは4着だった。全兄弟のサリオスは朝日杯FSでマイル戦をこなしたが、当時はムーア騎手が相当激しく追い、なんとか対応させた印象がある。ハーツクライ産駒の距離への鈍さ、サロミナの系統に多いモタつき感はサフィラにも感じる。本質は中距離タイプであり、桜花賞よりオークス。それだけにこの先、楽しみはまだまだある。


2023年阪神JF、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。

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