【チャンピオンズC回顧】大外枠からの逃走劇でデータを覆したレモンポップ その勝因は序盤にあり
勝木淳
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勝因は前半にあった
今年のチャンピオンズCは、距離に不安を抱えるレモンポップがどういった手に出るのか。最終的なポイントはそこにあった。セラフィックコールはゲートに不安を抱え、自分では競馬を作れず、自力でレースを支配できない。ゆえにライバルたちの競馬に乗るよりほかに道はなく、どこまで末脚が通用するか。このレースの支配者は間違いなくレモンポップだった。そして、同馬は大外枠から逃げ、後続を封じてみせた。
中京に移ってから10年目、大外枠から勝ったのも逃げ切ったのもレモンポップが初めてだった。同一年春秋ダートGⅠ制覇はウイングアロー、トランセンド、ゴールドドリームに次ぐ4頭目だが、1800m以上初出走で達成したのはレモンポップが初になる。色々と記録づくしのレース、ポイントはスタート直後、いやゲートに入る前にあった。
支配者たるレモンポップは距離不安とどう向き合うのか。当たった枠は大外、最後の急坂が体力を削る中京、なにかを行かせてスタミナを温存するのか、思い切って行くのか。作戦はおそらくゲートに入る前から決まっていた。スタート直後、大外から一気にラチ沿いに切れ込み、先手を主張した。折り合いに気をつかうより、先頭に立たせて、馬の気持ちを楽にしてあげる。坂井瑠星騎手のこの作戦がすべてだった。マイル戦で培ったダッシュ力があれば、中距離中心の馬たちに負けるわけがない。
幸い、先手を主張したい馬はおらず、思惑通りダッシュ力で後ろを制した。内ラチ沿いの経済コースに飛び込み、馬も納得してくれた。序盤600mは12.5-11.0-12.9。1、2コーナーで12.9と遅いラップを刻めたのが勝因だろう。歴戦の兵は賢く、競馬をよく知っている。コーナーで緩めたければ緩められる。そして、後ろからプレッシャーをかける馬もいない。この11.0-12.9の緩急がレモンポップの距離不安を払拭したといえる。
動けなかった後続
向正面に入ればもう隊列は崩れない。動けるポイントは過ぎてしまった。残るは勝負所のスパートのタイミングだけ。坂井瑠星騎手がシンプルにそれだけを考えればいい状況をつくった。いや、つくらせてもらえたともいえる。
後半800mは12.4-12.6-12.1-12.6。3、4コーナーを利用してもうひと息入れられ、スパートは残り400mまで待てた。もっともスパートするに適した坂下から急坂で脚を使えたとなれば、もう後続はなす術なし。最後は12.6。これだけ自由な競馬をしても最後は少し時計を要した。脚色をみても距離は現状、1800mがギリギリだろう。とはいえ、騎手の戦略と馬の賢さ、能力がこれほど合致するレースはそうはない。完璧な競馬だった。
ただ、角度を変えればまたレースは違う見え方をする。レモンポップが距離に不安を抱えており、大外枠から先手をとるのは予測できた。もう少し意欲的に機先を制する馬がいてもよかった。相手は1番人気。負かさないことには勝てない。
だが、番手をとったのは短期免許のB.ムルザバエフ騎手。外国人騎手は状況を踏まえた深追いはあまりしない。さらに勝負所で早めに動いて出る馬もいなかった。レモンポップのマイペースを崩さないと勝てないなか、向正面後半から3、4コーナーでプレッシャーをかける場面もなかった。番手の外国人騎手が動かなかったからでもあるが、もう少し挑む馬がいてもよかったのではと思わざるを得ない。
好位勢のクラウンプライドが早々に手応えを失くし、テーオーケインズも強気に出られなかったなど、状態面の問題もあったかもしれない。選択肢が多いダート界で、GⅠにピッタリ調子を合わせるのは案外難しいのではないか。
原優介騎手の胆力
2着ウィルソンテソーロは後方から運んだが、前半から余裕があった。おそらく、状態面になんら不安がなかったのではないか。スタート直後、行けないとみるや、ラチ沿いをとり、4コーナー出口までそのポジションでじっとしていた。徹底した距離ロス削減が最後の末脚につながった。
GⅠ騎乗2度目の原優介騎手は、ダート中距離の差しが上手く、自身が培った経験をすべて出した。セラフィックコールが動いて大外へ行き、スタミナをロスするなか、4コーナーの出口でやっと外へ動いた。ここまで我慢できる胆力は、関東の平場戦でよく目にする原騎手の素晴らしさ。もっと騎乗馬を増やしてほしいと個人的に願う。
にしても12番人気は盲点だった。JBCクラシック5着、その直前は交流重賞3連勝で力は十分証明していた。今年の正月、3勝クラスを勝ったばかり。ダート界はまさに戦国時代。この馬もまた今年の上がり馬だった。
3着ドゥラエレーデはレモンポップに並べそうで並べなかったが、3着は確保。自身が生きる競馬を選択したといえ、この辺の嗅覚はさすがムルザバエフ騎手だ。だが、ドゥラエレーデが無理をせず残った結果、レモンポップは楽になった。展開は難しい。だからといって3着に残れた同馬を責めるのも違う。一方、ドゥラエレーデは適性を判断しにくい難しい馬だ。とりあえず、ムルザバエフ騎手が乗ると走る。もっというと、外国人騎手が乗ったときは好走する。ホープフルS勝ち、UAEダービー2着の芝ダート兼用だが、今回でまたもダートへ舵を切りそうだ。
2番人気セラフィックコールは10着だった。ゲートの克服が第一だろう。現状では自力でレースを作れない。ダートの頂上決戦で展開待ちはそうそう出番が回ってこないだろう。スタート直後の反応も悪く、前半のダッシュ力を強化できれば、通用するのではないか。勝ち馬が逃げ切る競馬、差しにくい中京ダート1800mで後方まくりは厳しかった。だが、まだ経験が浅い3歳馬であり、まだまだこれからの馬だ。じっくり鍛錬して、また来年挑戦してほしい。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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