【みやこS】勝利という事実に価値あり セラフィックコール、無敗でいざ頂点へ

勝木淳

2023年みやこステークス、レース結果,ⒸSPAIA

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古馬ダート重賞の壁

セラフィックコールはデビューから5戦無敗で重賞タイトルに手が届いた。ダートで前走3勝クラスから一発でタイトルを奪取したのは非常に価値あることだ。2013年~今年10月末まで、古馬重賞で前走3勝クラス1着馬は芝56勝に対し、ダートはわずか8勝にとどまる。層が厚く、重賞が少ないダート戦線ではメンバーレベルが著しく低い組み合わせはまずない。さらにじっくり強くなる傾向にあるダート馬は重賞初挑戦のハードルが高い。

8勝のうち、セラフィックコールと同じ1700m以上の中距離に限ると、6頭に絞られ、その顔ぶれは13年エルムSフリートストリート、15年シリウスSアウォーディー、16年エルムSリッカルド、19年東海Sインティ、同年マーチSサトノティターン、23年東海Sプロミストウォリアとなっている。アウォーディーはJBCクラシックを勝ち、インティはフェブラリーSを制した。セラフィックコールは3歳での勝利。アウォーディー、インティは5歳、プロミストウォリアは6歳と、みんな経験を積み、渋さも増す中でのものだった。

3歳、昇級初戦で古馬ダート重賞を制したのは、近10年ではセラフィックコールしかいない。芝をみても3歳となると、期間中ではサングレーザー、ミスパンテール、レイパパレの3頭だけなので、セラフィックコールは勝ったという事実自体に価値がある。


優秀な種牡馬ヘニーヒューズの血を次代へ

さらに後方から直線だけで2着メイクアリープに3馬身も差をつけた。外からやってきた脚色は明らかにライバルたちとは次元が違った。上がり600m36.1は次位を0.7も上回っており、ダートでこれほど決め手の差をつけられるケースは少ない。

母の母ハルーワソングなので、ハルーワスウィート一族と枝葉を分ける存在になる。ヴィルシーナ、シュヴァルグラン、ヴィブロスと少し遅咲きの一族と同じ血を持つだけに、これにて店じまいというわけではなかろう。ゲートが悪く、初手で位置をとれないあたり、まだまだ荒削りな印象が強く、GⅠ、ひいては世界に目を向け、ワンランク、ツーランクのレベルアップが見込まれる。

着実に日本のダート競馬で結果を残してきたヘニーヒューズだが、JRAのGⅠは米国けい養時代の産駒モーニン、アジアエクスプレスの2勝で、内国産はワイドファラオ(かしわ記念)、アランバローズ(全日本2歳優駿)といったぐらい。アベレージ重視で大物がいないだけに、そろそろ突き抜ける馬を送っても不思議ではない。日本のダート競馬を発展させるためにも、成功を収めたヘニーヒューズのラインを次代へ受け継ぎたい。セラフィックコールはそれだけ大きな夢を託したくなる存在だ。


メイクアリープは兄ヴェンジェンスより操縦性あり

レース自体は序盤600m36.3、1000m通過1.01.2と流れた。9Rもちの木賞が1.01.4なので、2歳1勝クラスとしてはハイペース。こちらは最後13.2-13.5とバタバタになったが、古馬重賞はそこまで崩れない。中盤でペースはさほど落ちず、後半800mは12.3-12.1-12.6-12.7と最後は我慢比べになった。特に3、4コーナーで12.3-12.1と加速していき、ここで好位勢は末脚を失っていった。これがセラフィックコールの末脚を際立たせる結果になった。その迫力は先行勢の早めの動き出しがアシストした面はある。ダートの超A級の先行馬はこれでも最後まで伸びてくる。よって、セラフィックコールはゲートを克服し、もう少し前で流れに乗れるようになりたいところだ。

そういった意味では2着メイクアリープも見所があった。前走太秦Sでハイペースを演出したが、今回は前走以前と同じく好位に収まり、流れに乗った。早めのスパートから最後まで我慢できたのは前走でハイペースの逃げを打ったからだろう。母スペシャルクイン。半兄にヴェンジェンスがいる。気難しいところがあるエーピーインディ系カジノドライヴ産駒で、若いころは外枠が好走条件だったが、幸英明騎手が競馬を丁寧に教え、19年みやこSを1番枠から勝ち切った。メイクアリープも同じくエーピーインディ系シニスターミニスター産駒で、同じ大根田裕之厩舎、幸英明騎手と重なる部分が多い。血統をよく知る陣営なので、安心感もある。兄より操縦性も高そうで、今後もダート重賞で安定して力を出せそうだ。

3着ウィリアムバローズは逃げ先行にこだわりたいタイプだが、今回はいつもより控える形になった。この形で競馬を組み立てられるなら、より一層、成績は落ち着いてくるだろう。展開に左右されず、力を出すには好位の後ろから自在に動ける方がいい。


2023年みやこS、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。

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