【アルゼンチン共和国杯】ゼッフィーロが勝利し鬼門の2500mを克服 ディープインパクト産駒の変化とは

勝木淳

2023年アルゼンチン共和国杯、レース結果,ⒸSPAIA

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土日11勝のJ.モレイラ騎手

ゼッフィーロはデータ上、好走ゾーンに一致するオールカマー上位馬ではあったが、週明け登録段階では除外対象だった。それが出走にこぎつけ、さらにJ.モレイラ騎手を確保し1番人気に支持され、勝ったわけであらゆる流れがゼッフィーロに味方したとしか思えない。まずはJ.モレイラ騎手だ。BC週であり、関東の戸崎圭太騎手、三浦皇成騎手と東京大好きC.ルメール騎手が不在とはいえ、土日で11勝は恐れ入った。

人気馬に乗っているからといえばそれまでだが、ゼッフィーロの騎乗にもそのヒントはあった。道中は中団の後ろのインコースに位置し、まず動かない。1番人気馬だけにどこかで外へという考えもちらつきそうなものの、とにかく動かなくていい地点では一切、ダンマリを決め込む。息をひそめるとはまさにこのことだ。

一団で進む流れだと、当然、最後は目の前に馬の壁が立ちはだかる。包まれかけてもモレイラ騎手は動じない。いつでもスパートできるよう馬を促しつつ、そのチャンスを待つ。だから、わずかにスペースが生まれた瞬間にそこへ入れる。ここしかない。そんな勝機を逃さない嗅覚の持ち主だ。イン追走も待たされた時間もすべてプラスに転化できたからこそ、ゼッフィーロはゴールまできっちり伸びた。馬が最後まで元気よく走れるのは、モレイラ騎手の超一流の手腕あってこそだ。


力強さを押し出すディープインパクト産駒

ディープインパクト産駒は早朝からBCターフのオーギュストロダンで話題を集めたが、アルゼンチン共和国杯をゼッフィーロが勝ったのは何気に快挙だ。

東京といえば同産駒の庭であり、芝2400mは今年10月末まで通算【74-52-52-337】勝率14.4%、重賞19勝、GⅠ・15勝、日本ダービー7勝とえげつないほどの成績だが、2500mは【1-6-4-44】勝率は1.8%。1勝は2012年目黒記念スマートロビンなので、もう11年以上勝っていなかった。当然、アルゼンチン共和国杯はゼッフィーロが初勝利となった。わずか100mだけゲートが4コーナーに寄っただけでこの成績だから、競馬は不思議なものだ。

坂の途中からスタートする2400mと坂下からはじまる2500mでは問われる適性がスタミナ志向になるようだ。今年もそうだったが、東京芝2500mのレースを見ていると、確かに残り100mがさらに長く感じる気がする。それだけ、あと100mで苦しくなる馬が多いということだ。これがディープインパクト産駒に響く。

オーギュストロダンもそうだが、晩年に近い産駒はデビュー当時の産駒と比べると、軽さより力強さを前に押し出す馬が目立つ。配合の工夫もあるかもしれないが、ゼッフィーロの勝利もその象徴なのではないか。以前より切れ味特化のタイプが減るかわりに、スタミナやパワーに寄った産駒があらわれ、活躍する。これぞまさにスーパーサイアーである所以だ。

サンデーサイレンスも最後はダートに強い馬がたくさんいた。ゼッフィーロは従来のディープインパクト産駒ほど鋭く伸びないかわりに、残り100mでもバテない。この特性を利用して今後も付き合っていこう。


適性を味方に好走した馬たち

2着マイネルウィルトスは昨年の目黒記念2着馬で、東京芝2500mに適性があった。ディープインパクト産駒とは対照的に、残り100mでしぶとく食い下がれるスタミナを秘める。長期休養明けから4戦目にして、状態をかなり戻したようだ。父スクリーンヒーローの持続力と粘り強さを見事に体現する一頭で、7歳秋でここまで走れるのは頭が下がる。もっとスタミナを要する流れになるか、道悪になれば、勝利も視野に入れてよさそうだ。

3着同着ヒートオンビートは目黒記念の勝ち馬。東京芝2500m実績を考えれば、このぐらいは力を出せる。ただ目黒記念より流れが厳しく、ペースが落ちなかったため、もうひとつ伸びきれなかった。後半1600mは11.9-11.8-12.0-11.9-12.0-11.8-11.6-11.8。もう少し12秒台が入り、息を入れられれば、反応が違っていたのではないか。本質はスタミナより緩急を利用したいタイプで、2500mは展開次第で長く感じるのではないか。

もう一頭の3着チャックネイトは堀宣行厩舎らしいじっくりとした育成と堅実さで同着に持ち込んだ。リラックスし、リズムを整えた走りに持っていくのが得意な厩舎で、常に力を出させる手腕はここでも光った。ハーツクライ×ロベルト系Dynaformerであり、最後の苦しいところでも力を発揮できる。瞬発力勝負だと少し足りないが、今回のような持続力を問う流れだと粘れる。出走するからには走れる態勢にあり、上がりがかかる舞台では狙っていきたい。

2023年アルゼンチン共和国杯、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。

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