【スワンS回顧】ウイングレイテストが待望の重賞初V 令和に甦るサクラユタカオーの血
勝木淳
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距離短縮で目覚めたウイングレイテスト
1400m巧者がそろうなか、1400m出走は3歳ファルコンS以来となる関東馬ウイングレイテストが勝ち、6歳にして初重賞タイトルを獲得した。前走から装着したブリンカー効果もあり、1400m戦であっても前走と同じく番手で流れに乗れた。その行きっぷり、活力には頭が下がる。重賞はデイリー杯2歳S2着、ニュージーランドT3着と、2歳秋から好走し、6歳秋にタイトルを手にする、そんな息の長さは父スクリーンヒーローを想像する。
その父グラスワンダーも2歳王者(当時は3歳)になり、ケガを乗り越え、有馬記念連覇や宝塚記念を勝った。ブランクがあったのは確かだが、早期から古馬になっても変わらない力で魅了した。
ウイングレイテストの魅力はなんといっても母の父サクラユタカオーだ。令和の世に馬柱にサクラユタカオーとあるだけで熱くなるファンは多いだろう。1986年の秋、サクラユタカオーは毎日王冠と天皇賞(秋)を連勝、どちらも当時の日本レコードだった。天皇賞(秋)1.58.3は現代の競馬と比べても決して色あせない。
そのスピードは父テスコボーイ譲り。そしてこのスピード能力はサクラバクシンオーら産駒にも伝わり、東京競馬場での強さはエアジハード、ウメノファイバー、さらにエアジハードからショウワモダンと受け継がれた。サクラユタカオーを母父に持つ産駒としては、タムロチェリー、ロジック、クィーンスプマンテがいる。勝負強さも内包し90年代から2000年代前半の競馬シーンに欠かせない血だった。
13頭の産駒を送ったグレートキャティ
このサクラユタカオーの復活はウイングレイテストの母グレートキャティの功績だ。英国から輸入されたルーシームーンとの間に生まれたグレートキャティは99年デビュー、9戦2勝だったが、着外はわずか2回しかなく、堅実に走った。初仔は02年生まれ、5番仔ベストメンバーは京都新聞杯を勝った。その最後の産駒が17年生まれのウイングレイテスト。繁殖入りから17年間、13頭もの産駒をこの世に送った。
交配相手を初年度からコマンダーインチーフ、エルコンドルパサー、そしてマンハッタンカフェ、ステイゴールド、ダイワメジャー、スクリーンヒーローと並べれば、繁殖として過ごした時の長さが伝わってくる。
サクラユタカオーのスピードとスクリーンヒーローの成長力を秘めるウイングレイテストがついに惜敗続きにピリオドを打った。ここにきてレース巧者ぶりに磨きがかかっており、これは陣営と松岡正海騎手の努力が結実したもの。母と同じく崩れないタイプだけに、馬券的にも味方につけよう。
2、3着は引き続き1400m重賞で
レースはウイングレイテストが正攻法で押し切ったように、前半600m34.1、後半600m34.5のイーブンペースで基本は先行勢に優位な流れだった。先手をとったトウシンマカオは飛ばすタイプではなく、あくまで自然な流れ。タテ長にならず、中団馬群は密集したため、スムーズに運べなかった馬も多かった。実力拮抗の戦いだけに、わずかな不利も結果を左右する。
そんななか、2着ララクリスティーヌは外枠を利用して、4番手の外、前にウイングレイテストがいて、位置取りは絶好だった。なるべく外を回りたくなさそうに見えるも、4コーナーは突けるところがなく、外へ。ここでついた差が最後まで響いた。とはいえ、状況的に外へ行かざるを得なかったとみる。それよりも重賞で好位につけ、最後までしっかり走れた点を評価すべきだ。やはりベストは1400mであり、重賞を勝った舞台で行われる阪神Cが楽しみだ。
唯一、後ろから差してきたのは3着ロータスランドだ。4コーナーで空いたインへ飛び込み、そこから馬群を捌いて伸びてきた。鞍上の好プレーといっていい。1200m、1600mでもそれなりに走るが、重賞勝ちがある1400mがいい。2月の京都牝馬Sも上がり最速32.8で伸びて3着。1400mだと最後まできっちり伸びてくる。
ロータスランドとハナ差だった4着ルガルはまだ3歳で伸びしろ十分だ。同じく後方で脚を溜めて伸びた。展開的に向かず、力量は重賞でも通用する。今秋も存在感を見せつけるドゥラメンテ産駒だが、母の父ニューアプローチならば、もう少し距離を延ばしてもいいかもしれない。まだまだ色々と試して可能性を広げてほしい。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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