【アルテミスS回顧】素質証明チェルヴィニアはクラシックでも楽しみ サフィラの特徴と逆転の可能性も探る
勝木淳
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チェルヴィニアをさらに強くする競馬内容
リスグラシュー、ラッキーライラック、ソダシ、サークルオブライフとのちのGⅠ馬が勝ち馬にならび、2着にはレッツゴードンキ、メジャーエンブレム、そしてリバティアイランドの名がある。言わずと知れた牝馬の登竜門的レースだ。2歳秋に東京芝1600mで勝負し、それを勝ち抜くには、豊かな素質と総合力が必要になる。言いかえれば、アルテミスSでの好走はその証左ともいえよう。
今年、その証を手に入れたのがチェルヴィニアだ。ハイレベルとされるボンドガールの新馬戦で2着。先手を奪い、ちょっと走りに集中しきれなかった。折り返しの未勝利戦はスローペースでも6馬身差つけた。この時点でスケール感は申し分なかったが、このレースを勝ったことで、確証を得たといっていい。まずスローに流れるこのレース、今年も予想通りペースは遅かった。先手は新潟2歳Sで遅い流れを演出したショウナンマヌエラがとり、隊列はすんなり決まった。
チェルヴィニアは好位の3番手に収まり、馬群に入っていった。前半800m48.0。このコースの重賞で12秒台が3回も刻まれれば、後半600m勝負になる。案の定、11.4-11.2-11.0の加速ラップが刻まれ、最後の直線は少しでも無駄な動きがあれば、ロスにつながるスキのない緊迫した攻防になった。馬群に入ったチェルヴィニアもその周囲の馬たちも手応えを残す。本馬は進路を失いかけたが、C.ルメール騎手は慌てず、仕掛けのタイミングを見逃さない。馬群に入って進み、抜け出す、そんなスマートな経験はチェルヴィニアをさらに強くする。
早期から走る牝系
母の母ハッピーパスは着実に枝葉を伸ばし、牝系の幹を強く太くしていく。シンボリクリスエスを父に持つパストフォリアはフィリーズレビュー勝ち馬サブライムアンセムを出し、フローラSを勝ったチェッキーノは新潟記念を勝ったノッキングポイントとチェルヴィニアを輩出した。デビュー済みのチェッキーノの仔はまだ2頭だが、どちらも重賞ウイナーだから恐れ入る。牝馬の活躍馬が目立つ牝系はじわじわと確実に根を張っていく。
ハッピーパスの系統はクラシック戦線で走る馬が多い。生産者にとってありがたく、クラブ馬主にとっても理想的な馬ばかりだ。チェルヴィニアは母も兄も中距離に適性があり、早くも来年の5月、そしてその先まで楽しみは広がった。無事にこのまま進めば、この世代の牝馬戦線をけん引するのは間違いない。
サフィラは阪神なら差を詰められる
上記の通り、スキのない流れだったからこそ、2着サフィラはわずかに外を通った分、最後に影響したようだ。もうひとつ、直線に入って、ややエンジンのかかりに遅い面を感じた。加速ラップに対応しきれなかったため、チェルヴィニアに外へ出すタイミングを与えたようにもみえる。
母サロミナの血統であるサリオスにもちょっと反応が悪い面があった。サラキアの有馬記念も差し遅れ気味の2着で、この血統の特徴だろう。とはいえ、中距離志向でもあり、この先、スローではなく、GⅠの底力勝負になれば、かえって強みになる可能性もある。サリオスもR.ムーア騎手が懸命に追い立てて2歳GⅠを圧勝した。急坂がある阪神ならチェルヴィニアとの差を詰めてくるのではないか。
3着スティールブルーはチェルヴィニアの目の前のやや外にいて、先に動いて最後は少し甘くなった。現状、切れ味勝負は分が悪そう。新馬でマイル戦を経験した分、すんなり流れに乗れた。この結果を踏まえ、強気な位置取りに出るなら面白い。ルーラーシップ産駒は持続力勝負に持ち込んでこそ。自分でレースを支配できる強みがこの先、武器になる。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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