【北九州記念回顧】ジャスパークローネが重賞連勝 斤量増でも勝ち切ったワケとは

勝木淳

2023年北九州記念、レース結果,ⒸSPAIA

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ハンデ増は好走のサインもオープン連勝は厳しい

CBC賞を斤量55キロで逃げ切ったジャスパークローネが、今度は57キロを背負い再度逃げ切った。ハンデ2キロ増は不安材料ではなく、むしろ買い材料だった。2018年1/1から今年8/13の小倉記念まで、クラスを問わず芝のハンデ戦は743レース行われた。このうち前走がハンデ戦だった馬は195勝している。なかでも、前走から斤量が減った馬の勝率6.7%、増減なし5.3%に対し、斤量増の勝率は9.2%と高い。ハンデ戦からハンデ戦という流れは夏競馬の重賞に多いパターンだが、再びハンデキャッパーの評価を受けるにあたり、斤量が増えることは、評価の上昇であり、斤量減は評価の下降を意味する。だから、斤量増は追い風と考えていい。

だが、このパターンでオープンでしかみられない前走で同じクラスを勝った馬は、【3-9-7-62】勝率3.7%と大幅に確率が落ちる。理想は前走同クラスのハンデ戦で掲示板以内に入り、今回斤量が増えた馬なわけで、この方程式に当てはめれば、CBC賞2着サンキューユウガが候補に残る。だが、実際は最下位18着に敗れてしまったから、競馬は難しい。

で、ジャスパークローネと同じく勝ったのは、期間中3例しかない。23年ダイヤモンドSミクソロジー(53→56キロ)、19年小倉大賞典スティッフェリオ(55→57キロ)、そして、18年北九州記念アレスバローズはジャスパークローネと同じくCBC賞と連勝を飾った。このときの斤量は54→56キロ。2キロ増はジャスパークローネと同じだ。

ジャスパークローネも合わせた4例のうち、3例は小倉という共通項がある。残る1例ダイヤモンドSも東京の長距離戦で坂の勾配はきつくない。斤量増の連勝には平坦という斤量増の負の影響を抑える要素が必要になる。実際、2走目が中山や中京の場合、複勝圏に入る馬はいるものの、勝ち馬はいない。好走ではなく、連勝をたぐり寄せるには、様々な要素がかみ合わなければいけない。


理想的な絵図を現実に

ジャスパークローネが連勝を成し遂げたもう一つの要因が展開だ。CBC賞は伏兵でもあり、うまくプレッシャーを受けずに先手を奪えたが、北九州記念はそうはいかない。今度はプレッシャーを受けるどころか、先手を奪い返される可能性すらあった。全5勝の決まり手は逃げ切りであり、函館SSのように番手だと惨敗もあるモロさが同居していた。

しかし、葵Sでロケットスタートを決めたモズメイメイは大外枠に入り、内にいるテイエムスパーダは前走でハナ争いに勝った相手だ。スタートを決めて、きっちりハナを主張すれば、競りかけてくる相手はいない。その目論見通り、レースは進んだ。スタートから11.6-10.4で先手争いを制したジャスパークローネのハナを叩き返すのは無謀というもの。前半600m32.9は同日1勝クラス33.0と比べても速いとはいえない。

後半600mは11.2-11.3-11.9と失速していっても、先頭に立ち、マイペースを決めた貯金が残っていた。斤量が増え、平坦の小倉を味方につけたとはいえ、連勝を決めたのは、ジャスパークローネのハナへ行った際のしぶとさも大きい。今後、どの程度マークされるかはわからないが、スプリンターズSでも単騎で行ける状況なら好走の目は十分ある。


2着ママコチャの可能性

ママコチャは1番人気2着に終わり、2008年スリープレスナイト以来、15年ぶりの1番人気勝利を惜しくも逃した。過去10年、前走OP・Lで1400mだった馬は【0-0-0-8】で極めて短縮が機能しないレースながら、2着まで来たのは立派ともいえる。姉ソダシと同じくマイル前後がベストであり、むしろ初のスプリント戦で、速い流れを好位追走できたのは収穫だろう。

ジャスパークローネに展開を握られてしまったがゆえの2着であり、ここまで強力な逃げ馬がいなければ、スプリント重賞も視野に入った。ただ、器用にスプリントとマイルを行き来するのは容易ではなく、単純に選択肢が広がったとはいえないのではないか。北九州記念の結果を受けて、陣営がどちらの路線に腹を決めるのか注目したい。

3着は名牝クロウキャニオンの仔ストーンリッジ。下はヨーホーレイク、ダンテスヴューとクラシック路線に乗る中距離型だが、こちらは徐々に距離を短くし、花を開かせようとしているから、血統は奥が深い。弟ダンテスヴューは前週同じ小倉で博多Sを勝ってオープン入りを決めており、そこは伏線でもあったか。ストーンリッジは今年に入って各地の1200m戦に5回出走し、3、3、7、3、3着と、結果は残している一方で、ちょっと詰めが甘いところはいかにもクロウキャニオンっぽい。スプリント戦線でひと花咲かせられるか、今年後半が正念場のような気もする。


2023年北九州記念、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。

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