【アイビスSD】レース間隔、ペース対応力で明暗ハッキリ データで導く「過信禁物の注目馬」

藤川祐輔

アイビスSD 過信禁物な注目馬の特徴,ⒸSPAIA

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唯一無二の「千直」重賞

2023年7月30日、新潟競馬場ではアイビスSD(GⅢ・芝1000m)が行われる。当レースは中央競馬で唯一、直線コースを舞台に行われる重賞レース。競馬ファンにとっては真夏の風物詩とも言える「電撃の5ハロン戦」に今年も期待が膨らむ。

同レースは唯一無二ともいえる条件で行われるレースであり、19年~21年まで3年連続で連対を果たしたライオンボスのような「千直のスペシャリスト」の活躍が印象的だ。一方で昨年は1番人気に推されたヴェントヴォーチェが9着に惨敗したように、特殊な条件故に下馬評通りには決着しない年も多い。

波乱含みのレースだからこそ、予想の肝となるのは人気馬の取捨選択。今回は当レースの過去10年データから、「過信禁物の注目馬」を導いていく。

レース間隔で明暗がハッキリ

出走間隔別成績(過去10年),ⒸSPAIA


まず注目したいのは、「前走からの出走間隔」別の成績である。間隔が1~10週だった馬の成績は【10-10-10-106】勝率7.4%、連対率14.7%、複勝率22.1%となっており、馬券に絡んだ馬は全てこのグループに含まれている。一方で11週以上空いた馬の成績は【0-0-0-24】と振るわず、レース間隔の違いで明暗がハッキリと分かれた。

このグループの24頭は決して人気薄ばかりではなく、ネロ(17年・3番人気)、ダイメイプリンセス(19年・2番人気)、トキメキ(22年・3番人気)といった上位人気の馬も含まれている。ネロ、ダイメイプリンセスの2頭はそれぞれ前年に連対を果たしており、トキメキも前走の駿風S(3勝クラス)を同コースで勝ち上がっていた。3頭共にコース適性は疑いようが無かったが、間隔の空いたローテーションで惨敗を喫している。

出走間隔11週以上馬 芝の距離別成績,ⒸSPAIA


これを補足する興味深いデータとして、20年以降の芝・全レースにおける「間隔が11週以上だった馬」の距離別成績を取り上げたい。2500m以上の長距離のレースでは【50-43-44-409】勝率9.2%、連対率17.0%、複勝率25.1%となっているが、距離が短くなるにつれて右肩下がりに成績が落ちていく。1000mでは【20-10-19-347】勝率5.1%、連対率7.6%、複勝率12.4%となり、2500m以上のレースと比べて複勝率は半分以下に留まっている。

このように距離が短くなる程、間隔の空けたローテーションの馬は好走が難しくなる傾向が存在する。短距離戦での速い追走ペースを鑑みれば、最も速いラップが刻まれるアイビスSDで休養明けの馬が結果を残せていない点には納得がいく。馬券を検討する上でも、各馬の前走からのレース間隔には注意したい。

問われるハイペースへの対応力

前走距離別成績(過去10年),ⒸSPAIA


次に注目したいのが、前走の距離別に見た成績である。最も好相性なのが前走でも同距離の1000mを使っていた馬であり、【4-6-1-30】勝率9.8%、連対率24.4%、複勝率26.8%となっている。前走で1200mを使った馬についても【6-4-9-80】勝率6.1%、連対率10.1%、複勝率19.2%と悪くない。一方で前走が1400m以上の馬は【0-0-0-20】と全く好走できていない。

重賞転戦組が含まれる前走1200mよりも前走1000mの馬が好成績である点からも、直線競馬の速いペースを前走で経験していることは大きなアドバンテージだと分かる。反対に2ハロン以上の極端な距離短縮で結果を残すのは難しいようだ。

前走・新潟1000m 前半2F位置別成績(過去10年),ⒸSPAIA


では、前走1000mの馬は全て積極的に狙うべきなのか。このグループの「前走の前半2ハロン通過順」に着目すると、より興味深いデータが得られる。2ハロン目の通過順が3番手以内の馬は、【2-6-0-1】勝率22.2%、連対率88.9%、複勝率88.9%と驚異的な成績を残している。それに対して4番手以下だった馬は、【2-0-1-29】勝率6.3%、連対率6.3%、複勝率9.4%と、多くの馬は馬券圏外に沈んでいる。

後者からも2頭の勝ち馬は出ているものの、傾向としては前走で先行していた馬が優勢だ。直線競馬の頂点を決めるレースだけに、相応の追走スピードが問われることがデータにも表れている。

データから導く「過信禁物の注目馬」

ここまでに紹介したデータを総括すると、当レースを予想する上での「不安要素」は以下の3点となる。

・間隔11週以上
・前走1400m以上
・前走1000mで、前半2ハロンが4番手以下

これを踏まえて、今回「過信禁物の注目馬」として挙げるのはジャングロ、オールアットワンスの2頭である。

ジャングロは2歳時の中京2歳Sで、後にスプリンターズS(G1)を2着に好走するウインマーベルに3馬身半差で快勝した素質馬。昨年のニュージーランドT(GⅡ)の覇者でもあり、今回のメンバーでは実績上位の存在だ。だが今回は脚部不安からの復帰戦であり、実に1年3か月振りのレース。大きく空いたレース間隔に加えて、前走が1600mのNHKマイルC(GⅠ)である点も不安データに該当する。3歳時からの能力の上積みも未知数な中で、今回は初めて58kgを背負う。これだけの不安材料を抱えながら上位人気に推されるならば、積極的には買いにくい。

オールアットワンスは21年に当レースを制しており、リピーターの活躍が目立つ傾向を踏まえれば狙いたくなる1頭だ。だが勝利したのは3歳時の話であり、当時は51kgの軽斤量、有利な外枠と好条件が揃っていた。その後の4戦では掲示板に1度も絡めておらず、古馬になっての成長力には疑問が残る。今回は昨年の同舞台から1年ぶりの出走であり、前走で前半2ハロン・10番手と後手を踏んだことと合わせて不安データに該当。リピーターである点が評価されて人気を集めるならば、馬券的な妙味は薄そうだ。

わずか54秒程で1000mを駆け抜ける1戦だけに、今回取り上げた2頭のような長期休養明けの馬は追走に不安が残る。「夏は格より勢い」と言われるように、近走戦績・ローテーションを重視して馬券を組み立てたい。

《ライタープロフィール》
藤川祐輔
98年生まれの現役大学院生。競馬好きの父の影響を受け、幼いころから某有名血統予想家の本を読んで育った。幸か不幸か、進学先の近くに競馬場があり、勉強そっちのけで競馬に没頭。当然のごとく留年した。現在は心を入れ替え、勉強も競馬も全力投球。いつの日か馬を買うのが夢。

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