【中京記念】セルバーグが得意舞台で重賞初V 勝利に導いたエピファネイア産駒の強み
勝木淳
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行けるだけ行く、セルバーグの迷いなき逃げ
夏の中京ラストを飾る中京記念はセルバーグが逃げ切った。これで夏の中京3重賞はすべて逃げ切りが決まった。やはり、中京は展開が結果をわけ、つかみにくい。開催後半で差し馬勢が台頭する中京記念では、マイル戦になった2012~19年の9回で逃げ切りはゼロ。3着以内すらなかった。逃げ切りは旧コース2000m時代の04年16番人気1着メイショウキオウ以来、19年ぶりになる。
勝ったセルバーグは今回含め中京マイル【2-0-2-1】。崩れたのは3戦目のシンザン記念11着しかないコース巧者だ。これで5勝のうち3勝を逃げてあげたことになる。オープン昇級後はマイルの六甲Sで差して0.4差4着があるなど、徐々に控える競馬を試みていた。それが一転して逃げの手に出た。相手関係や枠順などを読んだ陣営の柔軟な戦略の勝利だろう。
というのも今回のメンバー中、近2走で逃げたのは、1800mのカシオペアSを勝ったアドマイヤビルゴ1頭しかおらず、同馬もマイル戦で逃げるイメージはない。セルバーグを含め、以前逃げていた馬もいるが、控える競馬を覚えた馬ばかりで、ここで逃げそうな雰囲気はなかった。これなら内枠からスタートさえ決めれば、セルバーグはハナへ行ける。実際、スタートがよかった隣のアナゴサンが引いてくれて、早々に単騎逃げの形をつくった。
しかし、それだけならスローペースの切れ味比べになり、決め手で劣ってしまう。セルバーグと松山弘平騎手が素晴らしかったのはここからだ。12.3-11.2-11.1-11.3、序盤600m34.6、800m通過45.9とセルバーグはハナに行ってからもペースを緩めなかった。後半は3、4コーナーにかかる地点でもペースを落とさず、11.5-11.4-11.8-12.4。後半800m47.1と上がりがかかったが、直線に入る残り400mまで飛ばして、リードを作るだけ作った。最後の直線はそれをいかにゴールまで使いきるか。伏兵らしい思い切った組み立てだったが、セルバーグも急坂を11.8で乗り切り、最後は時計がかかりながらも、12.4で踏ん張った。中京巧者らしく、最後の直線の乗り越え方をよく知っている。
エピファネイア産駒の好走パターンとは
エピファネイア産駒は7/16までで、このコース【16-15-8-85】勝率12.9%、複勝率31.5%と得意だ。このうち前走がマイル戦だと【9-9-4-22】勝率20.5%、複勝率50.0%とさらに確率が上がる。これはエピファネイア産駒全体の特徴で、距離延長や短縮など距離変化があると、勝率はそれぞれ7.8、6.5%だが、同距離の勝率は9.0%と上昇する。延長はまだいいが、短縮でさらに下がるのもポイントで、前回よりペースが速くなるのは得意じゃない。セルバーグは昨年秋から一貫してマイル戦に出走し、成績が安定した。さらに前走米子Sは800m通過44.9のハイペースだったのもよかった。今回の前半45.9で踏ん張れたのは前走経験が活きたといえる。
全てではないにしろ、エピファネイア産駒はペースが前走と同じか、前走より遅くなりそうなときにツボがある。中京マイルや東京マイル、2000mに強いのはスピードの持続力に長けたロベルト系シンボリクリスエスの影響であり、ペースが遅くなった際に好走するのはスローに強い母シーザリオの血だろう。エピファネイア自身も現役時代全6勝のうち、新馬を除けば、3勝が距離延長で、菊花賞もジャパンCもこのパターン。また同距離は2勝で、距離短縮は1度だけ。菊花賞後の産経大阪杯1番人気3着だった。これを基準に考えれば、次走はペースが遅くなる関屋記念がよさそうだが、間隔的に厳しい。京成杯AHの場合はペースが中京記念より上がらないなら、可能性はある。
関屋記念で狙いたいのは
セルバーグがハイペースで逃げ切った展開を考えると、2着ディヴィーナは上がり2位34.9の末脚を繰り出しても、1馬身半差が精いっぱいだった。父モーリス、母ヴィルシーナという血統を考えると、ハイペースのマイル戦は適性ピタリだが、セルバーグにあそこまで粘られては仕方ない。スローの阪神牝馬S12着、持続力勝負のヴィクトリアマイル4着という戦歴からも持続力を問うマイル戦はベストで、次走がスローになることが多い関屋記念ならば、馬券の取り扱いに注意したい。
3着ルージュスティリアは父ディープインパクトであり、ディヴィーナの逆で、スローのマイル戦で瞬発力を活かす形がベスト。3コーナーの不利を考えても、ハイペースを最後まで伸びて3着はよく頑張ったといえる。母の父ストームキャットの血も騒ぎ出し、充実期を迎えた。詰めて使ってこない厩舎なので、間隔的に難しいかもしれないが、関屋記念はこちらの方が面白い。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『ゴールドシップ伝説 愛さずにいられない反逆児』(星海社新書)に寄稿。
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