【函館2歳S】馬場を味方にゼルトザームがJRA2歳重賞を制覇 3着スカイキャンバスは晩成型で今後が楽しみ
勝木淳
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条件そろえば芝ダート二刀流へ
今年最初の2歳JRA重賞、一番星をかける戦いは厳しい状況下で行われた。梅雨末期は太平洋高気圧が強まり、南岸にあった雨雲の塊が北へ押し上げられる。夏へ向かう証ではあるものの、北の大地の南に位置する函館はその影響を受けやすい。週中から雲に覆われた函館の空から降る雨は2歳馬には辛かった。キャリア1、2戦と浅い馬同士、ましてスピードが問われる1200m戦でそれを削がれ、粘り強さを求められては、対応しきれないケースが多い。
それにしても、ゼルトザームの勝利には正直、驚いた。芝の函館2歳Sで前走がダートだった馬の勝利は、グレード制導入後の1984年以降、初となる。レース名は違うが、1989年に新設された札幌芝コースを保護するために、函館芝1200mで行われた札幌3歳S(現2歳S)。ここを勝ったインターボイジャーは、前走が札幌ダート1000mだった。札幌競馬場の記録だが、芝1200m時代の札幌3歳Sでは91年ニシノフラワーも札幌ダート1000mの新馬と連勝を飾った。ニシノフラワーはご存じの通り、翌春に桜の女王に輝いた。
ゼルトザームは好位の外で流れに乗り、4コーナーで押し上げる勢いは明らかにライバルたちを圧倒しており、走りに集中しにくい馬場を味方につけた。その父ヘニーヒューズは内国産限定の数字だが、7/9まででJRAダート463勝、芝19勝と、もっぱらダート向きの種牡馬。芝の重賞は19年ニュージーランドTのワイドファラオ以来2勝目になる。ワイドファラオもユニコーンS勝利を機にダートへ転戦し、かしわ記念を勝った。
ゼルトザームの母ロザリウムはローズバド、ロゼカラーとつながるバラ一族。サンデーサイレンスにキングカメハメハが配された血であり、ヘニーヒューズ産駒といっても芝でも戦える血統構成ではないか。とはいえ、母の父キングカメハメハのヘニーヒューズ産駒は26勝すべてがダート。ダート5勝アドマイヤルプス、同4勝サトノロイヤルなど、東京ダートのような速いダートに適性がある馬が多い。また、3歳ではダート6戦【3-0-2-1】のエクロジャイトもいる。やはり今回はスピードに乗せて走りにくい馬場状態だったと覚えておこう。ゼルトザームは今後、時計を要する芝、ダートで注目だ。
楽しみな晩成の快速血統スカイキャンバス
2着ナナオは函館2歳Sの穴パターンのひとつ、「前走同条件の未勝利戦を逃げずに勝利、かつ上がり最速を記録」にハマる(過去10年で【2-0-1-3】)。前走ハイペースの未勝利戦を勝ちあがった粘り強さをここでも発揮した。412キロの小さな牝馬だが、この馬場でもしっかり走れた点は見どころがあった。さすがは函館芝1200mに強いロードカナロア産駒だ。母バイザディンプルはダート中距離2勝のオルフェーヴル産駒で、兄弟はJRAダート3勝のクリームソーダなどダート色が強い。ロードカナロアとの配合によって、こちらも時計を要する函館の芝にフィットした印象が強い。この2着を根拠に次走人気に推された場合は、適性をよく見極めよう。特にステイゴールド系の血が入ると、非根幹距離に強い傾向もあるので、マイルへの距離延長などは慎重に考えたいところだ。
3着スカイキャンバスは重い馬場で逃げて前半600m34.7のハイペースを演出した。行き切ったのが大きく、結果的に後ろの自滅を招き、スタミナがあった1、2着以外は完封してみせた。4着レガテアドールとは2馬身半差なので、こちらも粘り強い。前走は芝1000mの新馬を逃げ切ったが、ファインニードル産駒は2歳6勝に対し3歳12勝で勝ち星が倍もあり、父に似た晩成の傾向がある。
母アポロフィオリーナの母父、つまり、スカイキャンバスの3代父ウォーニングは日本ではカルストンライトオ、サニングデールを輩出した快速の血だ。どちらも長く活躍した晩成型でもある。このウォーニングに、早期から活躍する産駒が多い豪州スプリント王者スニッツェルという配合にファインニードルだから、スカイキャンバスのスプリント能力と成長力は今後も楽しみだ。
敗れた上位人気勢、6着バスターコール、8着ベルパッションはこの馬場で前に進まず、思うような競馬ができなかった。また15着ロータスワンドはブランボヌール、ビアンフェという2頭の函館2歳S勝ち馬を出した早期活躍の血だが、現状はスピードを活かし、自分のペースで走れないとモロそうだ。母ルシュクルの系統は芝の良馬場13勝、稍重5勝で、道悪をこなすイメージはない。徹底先行の快速ビアンフェのようにロータスワンドも先手さえ取れれば、巻き返すだろう。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『ゴールドシップ伝説 愛さずにいられない反逆児』(星海社新書)に寄稿。
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