【函館記念】展開利なし、力勝負になった一戦を制したローシャムパーク 今後も中距離路線で活躍を期待
勝木淳
ⒸSPAIA
ハンデ56キロのローシャムパークV
夏の重賞のなかでも特に6歳以上が強く、波乱傾向にあった函館記念は4歳ローシャムパークが勝利。2着に6歳牝馬ルビーカサブランカが入ったものの、3着も4歳ブローザホーンで決まり、1、4、2番人気と非常に堅く収まった。函館記念1番人気勝利は2019年マイスタイル以来4年ぶり。函館記念1番人気馬の勝利はそもそもグレード制導入後の1984年以降の39回で8例しかなく、貴重な記録だ。しかも4歳1番人気となると、87年ウインドストース、90年ラッキーゲラン(どちらも旧年齢5歳)とローシャムパークの3頭のみ。つまり、33年ぶりの記録だ。
直近10年間で4歳1番人気は半数の5頭いたが、ことごとく敗れた。巴賞を勝ったエアソミュールや鳴尾記念3着トリコロールブルーなど前走芝のオープン・重賞で結果を出していた馬たちですら勝てなかった。
今回のローシャムパークは3勝クラスを勝ちあがったばかりで昇級初戦だったため、56キロで出走できたのも勝因のひとつにあげられる。同じ4歳でも巴賞2着ドーブネは57キロ、オープンでの好走実績があれば、56キロでは出走できなかったはずだ。とはいえ、ローシャムパークは今年最初の重賞中山金杯の回顧で触れたように、同日同条件の最終レースを重賞と同タイムで勝った素質馬だ。その後、重馬場のスピカSは5着に敗れたものの、ここまで通算【4-2-1-1】。良・稍重の芝1800~2000mなら崩れることなく、走ってきた。函館記念はエアグルーヴ牝系と申し分ない好素材がその力をきっちり出した結果だ。
波乱要素が消された力勝負
函館記念は主流距離である芝2000m重賞でありながら、タフな洋芝の開催後半特有の馬場、札幌と比べると問われる坂適性、そして小回りにありがちな展開などが複雑に絡みあう。そいったことから主流距離で力を付けた馬たちが、その能力を出し切れずに終わることが多い。まさに「馬の能力は一定ではない」ことを証明する根拠ともなり得るレースでもある。
しかし、今年は稍重発表とはいえ、当日朝のクッション値は7.4で、そこから回復ライン上で開催われた。最終週らしくボコボコし、時計はある程度かかりながらも、前日の函館2歳Sほど走りにくい馬場ではなかったようだ。そんな回復傾向の馬場で行われたレースは内枠のユニコーンライオンがハナを主張し、徹底先行のテーオーシリウスが外枠に入ったがゆえに引き、そこまで急流にならなかった。前半1000m通過1:00.0は馬場を考えれば、少しタフだったが、同レースでよく生じるハイペースまではいかず、力勝負の流れとなった。
後半はタフな流れになり、後半1000m1:01.4。しかし、そのラップ構成は12.5-12.3-12.0-12.2-12.4とほぼ一定だったことで、スピードの持続力を問われる形になった。そして、波乱のレースにありがちな、最後200mのラップの落ち込みがなかった。函館記念も最後200mで全馬の脚があがり、そこに前半置かれていた伏兵が突っ込むパターンがよくある。今年は後半600m12.0-12.2-12.4と失速ラップであっても、落ち込みが少なく、いわゆるバテ比べにまで持ち込まれなかった。こうなると、最後まで能力勝負だ。極めて恵まれる要素が少ない形になったことも、堅く収まった要因だろう。展開の紛れがないパターンはビッグリボンが勝ったマーメイドSと同じ。波乱には波乱の理があるなら、その逆もまた然り。ローシャムパークは今後、中距離路線で出世していきそうだ。
1年ぶりでも見どころあったマイネルウィルトス
2着ルビーカサブランカは父キングカメハメハに見られがちな叩いて一変パターン。母ムードインディゴは自身が秋華賞2着で、産駒のユーキャンスマイルは阪神大賞典も勝ったスタミナ型だが、中距離重賞の好走は新潟記念1、2着、ほかに菊花賞3着など平坦に強みがある。ルビーカサブランカも平坦で新味をみせたが、もとは愛知杯勝ち、チャレンジC2着の実績馬であり、能力勝負になり好走できたといえる。コーナーでの立ち回りなど、本来もっていた器用さも引き出され、出せる力は出し切ったといっていい。
3着ブローザホーンは前半で流れに乗れなかったが、能力勝負の展開のなかでインから馬群を縫って攻めたのが好走要因だ。今回が昇級初戦という立場を踏まえた大胆な騎乗が3着に押し上げたといえる。連勝で挑み、いきなり重賞3着とくれば、次走も期待したくなる半面、本馬に関しては多少、ハマった感があったことは記憶しておきたい。
記憶したいといえば、4着に飛び込んだマイネルウィルトスだ。同馬は昨年の函館記念2着以来、繋靭帯を痛め、1年ぶりの出走だったが、後方から目立つ脚色で最後まで差を詰めてきた。よくあるハイペースのバテ比べだったら、馬券圏内に飛び込んできただろう。粘り強く向き合った関係者と函館に戻ってきたマイネルウィルトスの気力に胸を打たれた。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『ゴールドシップ伝説 愛さずにいられない反逆児』(星海社新書)に寄稿。
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