【七夕賞】福島コースの醍醐味はペースと位置取り セイウンハーデスが展開を味方に重賞初制覇
勝木淳
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福島コースの面白さ、表の裏がスタンダード
織姫と彦星の年に一度の逢瀬というロマンチックな物語をレース名に冠した七夕賞は、夏の重賞のなかでも牝馬が苦戦を強いられる。牝馬で馬券になったのは最近では21年2着ロザムールぐらいで、少し前だと09、10年2着アルコセニョーラ、11年イタリアンレッド(この年は中山施行)など多くはない。3着以内に牝馬が2頭入ったのは11年イタリアンレッドの時ぐらいで、福島の七夕賞では1987年ダイナシュート、ダイナフェアリーと牝馬がワンツーを決め、3着に牡馬レイレナードが入ったのが最後だった。
今年は牡馬セイウンハーデスが勝ち、2、3着に牝馬のククナとホウオウエミーズが入り、36年ぶりに牡馬1頭、牝馬2頭で決まった。この日の福島は4Rで53年ぶりに枠連最高配当が更新されるなど、珍しい記録が連発していた。
枠連最高配当も七夕賞も、福島コースの面白さと読みにくさゆえの記録だったと考える。基本的に小回り、ほぼ平坦、直線部分が短く、コーナーがコースに占める割合が大きい小回りは、レース展開で「レースの顔」が大きく変わる。通常は最後の直線が短いので、逃げ、先行勢が優勢で、これは最短距離を通れるからである。占有率の高いコーナーで外を通れば、短い直線での挽回は難しい。まして、差し勢はコーナーで加速する器用さを問われる。差し馬の多くは、器用さに欠けるために後ろから競馬を組み立てざるを得ない面もある。
しかし、七夕賞の舞台である芝2000mは最初の正面直線部分が長く、先行争いが激しくなる可能性も高い。開催2週目に移った七夕賞は、まだ先行優位な馬場状態でもあり、それを味方につけようとハイペースを誘発することが多い。そして、この展開によって福島コースは顔を変える。フラットに考えれば、先行勢に肩入れする福島コースはかえってハイペースが発生しやすく、こうなるとラスト200mを切ってから時計がかかり、最後に差しが間に合ってしまう。
と、ここまでが実は福島コースのスタンダート。ハイペース誘発は裏目ではなく、表。このコースが難しいのは、その裏になりやすいからだ。表の裏の裏。この「ふたひねり」を読み切れる人こそが馬券上手といえよう。
たとえば、4Rのダート1700m未勝利戦はこの時期の未勝利戦らしいハイペースになりながらも、番手ボールドトップと逃げたダズリングダンスで決まり、枠連の記録を更新した。速かったのは序盤500mまでで、向正面は13.0-13.3と一気にペースが落ちた。さらに序盤が速すぎて追走する3番手以下がそこで脚を使ってしまい、追走しきれなくなったことが加わった。
この暑い季節に序盤から突っ込んで入られ、その差をじわじわ詰めるには相当な体力がなければならない。気がつけば、短い直線では挽回しようがないリードができる。動きにくい地点でペースを落とされると、こういうことがある。
着実にパワーアップしているセイウンハーデス
七夕賞はこの逆の現象が発生したといえる。セイウンハーデスやフェーングロッテンら先行しそうな馬たちが外枠に固まったので、序盤の先行争いは激しくなると推測されたが、実際は内枠のバトルボーンが好発からいい位置を狙ったのを察知し、外枠の先行勢が引く形になった。序盤600m35.5で前半1000m通過1:00.7のスローペース。これは牝馬同士の織姫賞1:00.6とほぼ同じ。重賞でこの流れでは、もはや好位にいないとチャンスは来ない。3、4コーナーで一気に速い脚を使えない限り、差し馬は間に合わない。あるとすれば、最後の直線までインを突き、距離ロスを抑えるぐらいだろう。
好位にいたセイウンハーデスは思惑通りの展開をしっかりモノにした。菊花賞のハイペースを経て、この春、確実に力をつけた。極端に速い時計にならなければ、今後、脚質的にも安定しそうな気配がする。そして、2着ククナも今年に入って身についた、好位につける競馬で流れに乗った。3着ホウオウエミーズは道中、徹底してインを狙っていた。人気薄に騎乗した際の丸田恭介騎手らしい作戦だった。
前後半1000m1:00.7-59.1と後半が速かったことが、牝馬2頭の好走につながった。七夕賞で牝馬が苦戦するのは、平均からハイペースのまくり合戦になった際に、最後にスタミナを問われるからだ。今年は後半が1秒6も速かったため、後続馬もそこまで速い脚を使えず、まくりも厳しくなった。七夕賞としては上がり勝負になったことが牝馬の好走を呼び込んだといえよう。最後に速い脚を競うとなれば、ハンデ戦で斤量が軽い牝馬に利がある。
上がり1位34.6は3着ホウオウエミーズと9着カレンルシェルブル。2位34.9は1着セイウンハーデス、2着ククナ、5着レッドランメルト、7着ヒンドゥタイムズの4頭が記録した。福島でスローペースになると、東京よりさらに上がりタイムに差がつかない。つまり、位置取りが着順を決する。今年の七夕賞は、先行優位という基本に立ちかえった。サマー2000シリーズは幕が開いたばかり。5着レッドランメルトや9着カレンルシェルブルなど展開に泣いた馬たちは次走以降もマークしておこう。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『ゴールドシップ伝説 愛さずにいられない反逆児』(星海社新書)に寄稿。
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