【阪神大賞典】次は新緑の淀! ジャスティンパレスがもっとも輝ける舞台へ

勝木淳

2023年阪神大賞典、レース結果,ⒸSPAIA

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長距離戦で理想的な省エネ競馬

近年は4月の大阪杯、3月終わりにあるドバイの芝中距離に多くの馬が参戦する時代になり、2マイルの天皇賞(春)の空洞化を懸念する声も聞こえる。たしかにスピード主体の血が主流になった現代では豊富なスタミナを伝える血は個性派の部類になり、ちょっとアウトローな雰囲気も感じる。しかし、今週の日経賞で激突する菊花賞馬タイトルホルダーやアスクビクターモアの存在感は大きい。タイトルホルダーは2200mの宝塚記念をレコード勝ち、スピードだって負けていない。アスクビクターモアの力はタイトルホルダーとの結果次第の部分もあるが、3着だった日本ダービーでは2:22.2を記録している。

そのアスクビクターモアに菊花賞でハナ差まで迫ったのがボルドグフーシュであり、0.1秒差の3着がジャスティンパレスだった。阪神大賞典は久々にジャスティンパレスがボルドグフーシュに先着し、重賞2勝目をあげた。神戸新聞杯で先着したあとは菊花賞、有馬記念と2連敗中だっただけに3000mでの逆転は本番に向けて強気になれる。

勝因のひとつは展開と立ち回りの器用さだろう。阪神大賞典らしく序盤で隊列が決まると、あとは勝負所まで無理な動きに出る馬はおらず、実に淡々と流れた。ほぼ13秒台で流れた最初の1000m通過1:04.9。中盤1000mも13秒台が入り、1:03.3で、最後の1000mは57.9。好位にいないとまず勝負にならない。2000m走って最後に57.9を後ろから差し切れるような馬はまずおらず、ジャスティンパレスは物理的優位を活かした。神戸新聞杯も菊花賞も内に入りロスを軽減させ、脚を溜めて仕掛けた。長距離戦で力を出し切るには理想的な競馬を展開できる器用さがある。

最後の直線はアフリカンゴールドとディープボンドの間に入りかけたが、ルメール騎手が上手く立て直し最後まで脚を使わせた。危なかったのはその場面ぐらい。背後から攻めてきたボルドグフーシュを上がり600mで0.2上回る完勝だった。このレースに出走し、今年は7着と振るわなかった半兄アイアンバローズと同じくステイヤーとしてキャリアを重ねる上で、やはり天皇賞(春)は頂点にあたる。タイトルホルダー、アスクビクターモアが参戦する本番は阪神大賞典のような2000m通過まで遅い流れにはならない公算が高い。しかし、力をつけた今なら菊花賞以上の走りを披露できるだろう。まして舞台は京都であり、ディープインパクト産駒のジャスティンパレスにとって下り坂から直線平坦は好材料だ。

またも2着だったボルドグフーシュ

2着ボルドグフーシュは最内枠から川田将雅騎手が勝ちにいくべく早めに馬群の外へ持ち出し、進路を確保しつつの追走だった。着差も記録も4コーナーを外から追い上げた分であり、負けて強しの内容だった。福永祐一騎手の最後の有馬記念から川田将雅騎手への手替わりは見事で、ボルドグフーシュの特徴を上手く引き出した競馬だ。

しかし、これで3戦連続2着と勝ちきれなさは気になるところ。重賞勝利がなく、主な勝ち鞍は一宮特別。長距離戦線にはあと一歩勝ちきれないタイプが時々現れる。サウンズオブアースやエタリオウ、それこそステイゴールドと重なる部分が多くなってきた。どこかで勝ちたいという意味ではここは勝っておきたかった。競馬ファンはそんな歯がゆさを愛してくれるだろうが、やはり勝利がほしい。

ここにきて位置取りが前になり、取り口が安定してきたので余計に勝ちたい。焦る部分もあるが、父は晩成の血スクリーンヒーローであり、まだまだ強くなる。あとひと押しが効くようになる日は近いのではないか。

3着ブレークアップは前走有馬記念16着から巻き返した。阪神大賞典は前走有馬記念が強いレースで1、2着と同じくこちらもデータ通りの結果だった。徐々に控える競馬を覚え、強敵相手でも通用する末脚を使えるようになってきた。上手に流れに乗り、ひと脚使う競馬は1、2着と同じく安定感がある。昨年後半から増え続けた馬体重が今回10キロ減。古馬になって成長し、そこから研ぎ澄まされたステイヤーは強い。人気以上に走るタイプなので今後も味方につけたいところだ。

3連覇を狙ったディープボンドは5着。以前ほどではないがやはり勝負所でズブさをみせ、早めにステッキが入った。追って追って最後まで伸びるといういかにも和田竜二騎手と手が合うタイプだったが、今回は直線でのしぶとさが少し見られなかった印象。休み明けの分なのか、それとも年齢的なものか。今後はひと工夫必要になりそうだ。

前走有馬記念が4頭も掲示板に載った結果をみれば、4着アフリカンゴールドはがんばった。最後の1000mだけの競馬になり展開が向いたのは事実だが、8歳でも見せ場たっぷりの内容だった。無欲の逃げはいつでも怖い。


2023年阪神大賞典、レース回顧,ⒸSPAIA



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(星海社新書)に寄稿。

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