【札幌2歳S】出走馬が国内GⅠ計37勝の出世レース 2000年、2020年の名勝負を振り返る

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札幌2歳S出走馬の着順別国内GⅠ勝利数,ⒸSPAIA

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出世レースとして名高い一戦

今週土曜、札幌競馬場でGⅢ札幌2歳Sが行われる。今年は、有馬記念優勝馬ブラストワンピースの全弟・ブラストウェーブ、デビュー前から素質を高く評価され、初戦を余裕たっぷりに制したダイヤモンドハンズ、東京芝1800mの新馬戦を快勝したシャンドゥレールなどがエントリー。これまでに施行された2歳重賞の中では最もタレントが揃った一戦、世代最初の大一番となりそうだ。

同レースといえば、昨年覇者ジオグリフが皐月賞を勝利したことが記憶に新しい。ジオグリフの他にも多数のGⅠ馬を輩出し、ここを経由してGⅠウィナーの座に就いた馬は20頭を超えている。今週は札幌から羽ばたいた名馬たちの走りを振り返る。

2000年、ダービー馬と二冠馬の邂逅

まずは2000年。「札幌3歳S」として施行された最後の年だった。新馬戦・2戦目ともに1200m戦ながら、1番人気に支持されたのはテイエムオーシャンだった。特に2戦目が先行して2着に1秒差をつける大楽勝、まさにワンサイドゲームといった内容でここに駒を進めてきた。同馬以降、牝馬の1番人気は2010年のアドマイヤセプター(ドゥラメンテの全姉、スカイグルーヴの母)まで皆無となる。

レースはテイエムオーシャンが先手を取り、前半5F61.0秒のスローペースを淡々と進んでいく。道中、タガノテイオーがじわじわとポジションを上げて4角では2番手に進出。直線では2頭の叩き合いの様相を呈していた。

そこに割り込んできたのが5番人気のジャングルポケット。ラスト100mだけで前を行く2頭を捉え切り、2着タガノテイオーに1馬身半差をつけた。垣間見えた別次元の末脚は圧巻の一言。翌年ダービー馬に輝くと予感させる鮮やかな勝ちっぷりだった。

3着に敗れたテイエムオーシャンも1800mの経験が血肉となり、次走の阪神3歳牝馬Sを皮切りに翌年の牝馬二冠(桜花賞、秋華賞)を制し、GⅠ・3勝馬の栄誉に輝いた。馬齢表記の変更に伴い2年連続で「JRA最優秀3歳牝馬」のタイトルを獲得した珍しい馬でもある。

また、次走の東スポ杯3歳Sを制し、朝日杯FS2着後に予後不良となったタガノテイオーも、無事ならば翌年のクラシックを賑わせたに違いない大器だった。

2020年、白毛馬のアイドルと岡田総帥の夢

時は飛んで2020年。新型コロナウイルスの流行に伴い無観客競馬として施行された。主役は同コースの新馬戦を逃げきったバスラットレオン。前半5F65.1秒の超スローペースではあったものの、後半3Fは11.4-11.0-11.2と上々の内容だった。函館芝1800mを逃げて快勝した、同型ピンクカメハメハとの争いに対応できるかが不安材料だったが、素質を評価されて単勝3.9倍の1番人気となった。

本番はピンクカメハメハが前半5F59秒2の流れを刻む。のちにサンバサウジダービーを制す同馬が持ち前の快速でレースを引き締めた。バスラットレオンも未経験の流れながら対応して2番手につけた。

この2頭を前に、道中で進出してきたのがソダシとユーバーレーベン。直線ではバスラットレオン、ソダシ、ユーバーレーベン3頭の叩き合いとなった。抜け出して先頭に立ったソダシをマクってきたユーバーレーベンが捉えるかといった展開で、ギリギリソダシがクビ差しのいでゴール。白毛馬として初めての芝重賞勝利で、勝ち時計1分48秒2は2012年にコディーノが記録したタイムをコンマ3秒縮める、堂々のレースレコードだった。

ノーザンファーム生産馬で金子真人氏所有、「輝き」という名の通り白毛馬としてアイドル的人気を誇るソダシと、マイネル軍団の結晶といえる血統背景に「生き残る」と名付けられたユーバーレーベン。プロフィールは対照的な2頭が、このレースから長い戦いを繰り広げることとなる。

次走のアルテミスSから阪神JFはソダシの連勝。GⅠ馬にまで上り詰めたソダシがデビュー5連勝を飾った桜花賞に、ユーバーレーベンは出走できなかった。フラワーCとオークストライアル・フローラSをともに3着に敗れ賞金不足の危機に陥ったものの、何とか出走枠に滑りこむ。4回目の対決で断然人気のソダシを見事差し切り、ライバルをついに撃破した。フラワーCの前日に亡くなったマイネル軍団の総帥・故岡田繁幸氏に捧げるクラシック勝利は実にドラマチックだった。

5度目の対決となった秋華賞を機に、ソダシは芝・ダートを問わないマイル路線、ユーバーレーベンは中距離路線へと道を分かつこととなる。4歳シーズンの今年も順調にキャリアを進めており、ライバルたちが離脱した2021年牝馬クラシック世代の生き残りとして頑張りを見せている。

札幌2歳Sを経由したGⅠ馬の特徴は?

今年も好素材が揃った札幌2歳S。ではどのような走りを見せた馬が出世街道を歩むのか。

1986年以降、札幌2歳Sを経由した馬が獲得した国内GⅠはのべ37を数える。このうち札幌2歳Sで上がり最速を叩き出した馬が21勝。前述のジオグリフ、ユーバーレーベンに加え、2011年のゴールドシップ(2着)、2008年のロジユニヴァースなど、中長距離の本格派として成長するタイプが多い。後方から差し切るかマクりを決めるとなお期待度は高まる。

上がり2位以下だった馬たちはソダシやロゴタイプ、レッツゴードンキなどマイル路線が主戦場となる馬が多い。締まったペースを先行して粘るのは、のちのハイレベルなレースに対応する素地の証明といえる。レースレコード決着で正攻法の競馬を見せたソダシは、後に桜花賞でコースレコードを記録。2012年のレコード決着で4着に逃げ粘ったロゴタイプも、次走のベゴニア賞でレコード勝ちを決めた。このように、上がり2位以下だった馬たちは世代トップクラスのスピード能力を見せていた。

またGⅠ・37勝中、札幌2歳Sで3着以内に入っていた馬が28勝とやはり大半を占める。前述のロゴタイプのような特殊条件がない限り、最低限着順をまとめている馬を追いかけたいところだ。

札幌2歳S出走馬の着順別国内GⅠ勝利数


《ライタープロフィール》
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約30年にわたる伝統をもつ東京大学の競馬サークル。現役東大生が日夜さまざまな角度から競馬を研究している。現在「東大ホースメンクラブの愉快な仲間たちのブログ」で予想を公開中。

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