【阪神大賞典】さらに進化したディープボンド! 春の盾王手の決め手とは

勝木淳

2022年阪神大賞典のレース結果,ⒸSPAIA

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いまだからこそ問われるステイヤー資質

大阪杯がGⅠに昇格したことで、中長距離路線も住み分けが進み、最強ステイヤーを決める天皇賞(春)はレースの質が充実しつつある。かつては長距離を避けるか、なんとか我慢して3200mをこなそうとする傾向もあり、ステイヤー資質を生かしにくい内容も多かったが、中距離型は大阪杯、ないし香港(今年は遠征不可)に行き、純粋にステイヤー同士の争いになり、頭数は揃わないものの、質は向上しつつある。最強ステイヤー決定戦としての価値はむしろ上がったといっていい。

ちょっと時代遅れな向きもあったステイヤー資質は、ディープインパクト産駒フィエールマンの連覇やディープボンドのフォワ賞優勝や有馬記念2着といった実績と大阪杯昇格によるレース体系の変化によって再び見直されつつある。そんな流れは長距離戦を愛するオールドファンを喜ばせる。

そんな流れにある阪神大賞典は天皇賞(春)の前哨戦。かつては前哨戦らしく本番ほど厳しい流れにならないこともあり、ステイヤーではない中距離型の好走もあった。ところが、ユーキャンスマイルが勝った20年は1.02.6-1.00.3-1.00.1、3.03.0。中盤でペースがあがり、後半さらに上昇するスタミナ比べとなった。昨年は重馬場で1.02.4-1.03.2-1.01.7、3.07.3。道悪もあり、最後に速い脚を使えない重厚なレースになった。もともと阪神芝3000mは京都芝3200mと比べると、内回りでもあり、後半のペースアップが早く、タフなコースで、近年は特に厳しい傾向にある。

苦手を消したディープボンド

今年は上がり馬キングオブドラゴンが注文をつけたため、前半1000mが速くならず、1.03.1。正面スタンド前から2コーナーにかけて動きはほぼなく、中盤1000m1.02.9。ただ、この中盤でゴーストやアイアンバローズがキングオブドラゴンとの間合いを詰め、ディープボンドら中団勢が追いかけなかったため、馬群は縦長になり、先行勢には若干だが厳しくなった。

中盤がこれほど静かであれば、良まで回復した芝なら後半1000mは当然速くなる。最後の1000mは11.9-11.6-11.6-11.5-12.4、59.0。ここ2年と比べれば、軽いレースにはなった。だからこそ、ディープボンドの勝利は価値がある。なぜなら昨年は重馬場で5馬身差圧勝。生粋の長距離ランナー、ディープボンドにとって速いラップが連続する競馬は必ずしも得意ではない。この日もこれまでと同じくラップが上昇した地点から先に手応えが悪くなりはじめ、かなり追っつけながら4コーナーを回り、一瞬、2着アイアンバローズに届くかどうかと思わせた。しかし、以前なら届かなかったところを力でねじ伏せた。これはディープボンドの進化といっていい。

そういった意味で中身の濃い連覇だった。ライバルが苦しくなった急坂からゴールまでの12.4でしっかり伸びる。これこそステイヤーだ。この内容ならたとえ良馬場で、中盤まで緩くても天皇賞(春)を勝てる。まして今年も舞台はタフな阪神芝3200m。ディープボンドにとってタイトル獲得に向け、最高のチャンスが訪れた。

マカオンドールの課題

2着アイアンバローズは中盤でキングオブドラゴンに離されまいと詰めた時点で厳しい流れになったが、それでも最後の直線では先頭。最後の12.4でディープボンドに屈したものの、中盤を考えれば、こちらも適性を見せた。逃げて粘った前走ステイヤーズSは、残り1000~200mまで4ハロン連続で加速し、先行勢には厳しかったレース。ステイヤーズS3着シルヴァーソニックがここでも3着だったことを踏まえると、昨年のステイヤーズSは例年以上にレベルは高い。日経賞出走予定のディバインフォースにも注目したい。

3着シルヴァーソニックもアイアンバローズと同じ文脈で評価していい。現状の力は出した印象で、アイアンバローズとの1馬身半は素直に力差と考えたい。そうなるとこの先GⅠでも、とはまだいえず、となるとレース選択が難しくなる。

ハナ差4着マカオンドールも適性距離出走で期待されたが、結果としては少し足りなかった。最後はしっかり伸びたので、やはり長距離は合う。だが、強いステイヤーになるにはディープボンドのように前半からしっかり位置を取る必要がある。中団より前で流れに乗るからこそ、しぶとく伸びて前に届く。現状だと今回のように最後は伸びてきているが…という評価から抜けられない。気性面やゲートの不安定さなど克服したい課題は多いが、その分伸びしろはある。

2022年阪神大賞典のレース展開,ⒸSPAIA



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。共著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ全4作(星海社新書)。

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