【マイルCS】タイキシャトル・アグネスデジタルが世界的名馬へ 「3歳馬の挑戦」を振り返る

東大ホースメンクラブ

マイルCSに出走した3歳馬の成績,ⒸSPAIA

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マイルも3歳世代が席巻か

今週は阪神芝1600mを舞台に、秋のマイル王決定戦・GⅠマイルCSが行われる。史上6頭目の連覇がかかる女傑グランアレグリアに、同レース2年連続連対中の古豪インディチャンプ、長い不振からの復活を期すGⅠ馬サリオスなどが仁川に集結する。

以上のメンバーに加え、今年の見どころは勢いのある3歳勢。NHKマイルCを勝ち、返す刀で安田記念3着、秋初戦の毎日王冠を快勝したシュネルマイスターに、朝日杯FS覇者グレナディアガーズ、ホープフルSを制したダノンザキッドなど世代のトップクラスが歴戦の古馬に挑戦する。

天皇賞(秋)を勝ったエフフォーリアに続き、マイル界も3歳馬が席巻するか。今週のコラムは「3歳馬のマイルCS挑戦」をテーマに、1986年以降の同レースを振り返りながら馬券戦略を考えていく(なお、年齢表記はレース名を除き全て現在のもの)。

タイキシャトル、世界への飛翔

3歳のマイルCS優勝馬,ⒸSPAIA



1986年以降のマイルCSに挑戦した3歳馬は124頭いるが、勝ったのはわずかに5頭。栄光をつかんだ馬たちを紹介していこう。

まずは1988年のサッカーボーイ。父ディクタス譲りの狂気をはらんだ眼と、馬名から「弾丸シュート」になぞらえられた爆発的な末脚がトレードマークの馬。阪神3歳Sをレコードで大楽勝しながら春のクラシックはコンディション面や距離から結果を残せなかったが、中日スポーツ賞4歳Sで皐月賞馬ヤエノムテキを差し切り、函館記念では先輩ダービー馬2頭(メリーナイス・シリウスシンボリ)を相手にしなかった。勝ち時計1分57秒8は30年以上が経過した今に至るまで破られないアンタッチャブルレコードだ。

マイルCSは直線で逃げるミスターボーイをあっさり交わし去ると同馬の独壇場。飛ぶようなフットワークでぐんぐん後続を突き放し、冬枯れの京都に栃栗毛の馬体が躍る。追い込んだ2着ホクトヘリオスに0秒7もの着差をつけた派手な勝ちっぷりだった。

次走、結果的に引退レースとなった有馬記念ではゲートで暴れ歯を折りながらも4位入線(スーパークリーク失格により3着に繰り上がり)。わずか1年半・11戦という短いキャリアながら、きらびやかな一戦一戦のパフォーマンスは脳裏に残り続ける。産駒には菊花賞を勝ち、その後も古豪として長くターフを駆けたナリタトップロード、京都の長距離GⅠ・2勝の他、宝塚記念も制したヒシミラクルなどがいる。

サッカーボーイの9年後に3歳マイルCS制覇を果たしたのがタイキシャトル。3歳4月の遅いデビューだった同馬は芝・ダートを兼用しつつ勝ち上がり、ユニコーンS制覇から芝重賞に初挑戦したスワンSを勝利。6戦5勝のキャリアを引っ提げマイルCSに参戦した。

レースでは桜花賞馬キョウエイマーチが作るハイペースの中でスッと好位につけ、直線で横山典弘騎手が促すと残り1ハロンで先頭に立ち突き放す横綱相撲。ワンツースリーを3歳馬が独占したが、2着キョウエイマーチの松永幹夫騎手が「勝った馬が強すぎた」と白旗を挙げたように、世代の中でも格の違いを見せつける一戦となった。

翌年は着差を0秒8まで広げる大楽勝で連覇を達成。ドーヴィルを震撼させたジャックルマロワ賞など5つのGⅠタイトルを積み上げ、史上最強マイラーに推す競馬ファンも多い歴史的名馬となった。

「真の勇者は、戦場を選ばない」

3歳でマイルCSを制し、世界を制した馬はもう1頭いる。異能のスーパーホース・アグネスデジタルだ。

名伯楽・白井寿昭調教師がアメリカの地で見出した仔馬は、全日本3歳優駿・名古屋優駿・ユニコーンSとまずダートで重賞タイトルを重ねた。一方芝ではNZTの3着はあったがGⅠはNHKマイルC7着があるのみ、おまけに平場まで含めても未勝利だった。これでは13番人気の低評価も致し方ない。1番人気は同じ3歳馬、皐月賞2着など堅実派だったダイタクリーヴァ。レース当日の9Rで騎乗予定だった高橋亮騎手が落馬負傷、安藤勝己騎手に乗り替わっていた。

レースもダイタクリーヴァとダイタクヤマト、同じ勝負服の2頭が抜け出して勝ち馬は絞られたかに見えたが、残り100mを切ったところで大外からオレンジ帽の栗毛が飛んできた。直線に入ってもはるか後方にいたアグネスデジタルが他馬と桁違いの脚色で差し切ったのだ。同馬の鞍上は的場均騎手。翌春での引退が決まっていたいぶし銀のベテランジョッキーに、思い出の淀で最後のGⅠを贈る意義深い勝利となった。

その後の活躍は周知の通り。クロフネを除外に追いやったことでバッシングを受けながらも、世紀末覇王テイエムオペラオーに引導を渡す超大外からの差し切りを決めた天皇賞(秋)、盛岡からその天皇賞(秋)、香港を経由して東京ダートで完結させたGⅠ・4連勝、6歳でレコード勝ちを決めた安田記念…。シャティンで撮影された同馬の写真が使われたヒーロー列伝のキャッチコピーは「真の勇者は、戦場を選ばない」。引退から20年が経とうとする今もなお、常識の範囲を軽やかに逸脱していったGⅠ・6勝馬として、日本競馬界でただ一頭孤高の位置を占めている。

アグネスデジタル以降は長らく3歳馬のマイルCS制覇がなかったものの、2017年のペルシアンナイトが久しぶりに扉を開くと、翌年のステルヴィオも続いて連覇を達成。前者は今年の札幌記念3着で健在ぶりをアピールし、後者は芝の短距離戦線で確かな存在感を放つ。馬齢を重ねても頑張り続けるベテラン、今後も応援していきたい2頭だ。

シュネルマイスターにチャンス

3歳馬マイルCS、条件別成績,ⒸSPAIA



<3歳馬のマイルCS挑戦 条件別成績>
全体成績【5-6-9-104】勝率4.0%/連対率8.9%/複勝率16.1%
GⅠ馬【1-2-1-22】勝率3.8%/連対率11.5%/複勝率15.4%
前走古馬混合重賞連対【4-2-5-10】勝率19.0%/連対率28.6%/複勝率52.4%

最後に3歳馬のマイルCS成績を確認して今年の狙い馬を考える。

前述した通り3歳馬の勝利は少なく、全体成績で見ると苦戦ぶりがはっきりする。2005年のラインクラフト3着を最後に10年以上馬券にならなかった期間もあり、世代の壁を破壊するのは簡単なことではない。

厳しい傾向は実績馬でも変化がなく、GⅠ馬ですら26頭中馬券になったのは4頭のみ、勝ったのはサッカーボーイだけだ。シュネルマイスター・グレナディアガーズ・ダノンザキッドが該当するが、この観点からは狙いにくいように見える。

一方、前走で古馬混合重賞を2着以内にまとめた馬は複勝率が5割を超え、近年でもステルヴィオやサングレーザーが好走した。この該当馬はシュネルマイスターのみで、3年ぶり3歳制覇のシーンも視界に入ってくる。

《ライタープロフィール》
東大ホースメンクラブ
約30年にわたる伝統をもつ東京大学の競馬サークル。現役東大生が日夜さまざまな角度から競馬を研究している。現在「東大ホースメンクラブの愉快な仲間たちのブログ」で予想を公開。秋GⅠシーズンに合わせ、新入部員募集中。



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