【エリザベス女王杯】アカイイト激走を呼び込んだ中盤の攻防とは? 次走危険な好走馬に注意!

勝木淳

2021年エリザベス女王杯のレース結果,ⒸSPAIA

ⒸSPAIA

カギを握ったレイパパレ

秋の女王決定戦は昨年に続き、阪神芝2200m。宝塚記念と同舞台はタフな条件であり、今年の女王杯も事実、タフな競馬になった。そこには6週目を迎えた阪神芝の状態も関係していた。

昨年は開幕2週目。同じ2勝クラス芝2200mを比べると、昨年は1000m通過1.02.4、決着時計2.13.6、今年は1000m通過1.02.5、2.14.7。ラップ構成の違いもあるので単純な比較はできないが、昨年は最後の200m11.5、今年は12.4。先週の阪神は最後の200mで時計を要するレースが増え、ゴール前での逆転が多かった。力のいる馬場でタフな流れ、それが今年のエリザベス女王杯だった。

展開のカギを握ったのはレイパパレ。川田将雅騎手が隔離期間中でルメール騎手に乗り替わったので、控えるだろうという予感はあった。1枠1番を引いたが、それでもルメール騎手の選択はポケットの3番手。いつでもどこからでも動けるポジションが身上のルメール騎手らしい戦略ではあった。

逃げないとどうにもならないシャムロックヒルとロザムールが逃げを主張。枠順の差でシャムロックヒルがハナに行き、ロザムールはその外。レイパパレはこの2頭の背後に入った1周目のゴール板あたりから行きたがる仕草をみせる。なだめるためにウインマリリンの後ろに控えようとするも、ウインマリリンとてレイパパレにマークされてはと考え、譲らなかった。

息の入らない流れになり

先行勢が落ち着き切れないことで、その前にいた逃げ馬もペースを落とせなかった。スタートからのラップは残り800mまで12.2-10.7-11.2-12.5-12.4-12.3-12.1。決して無謀なラップではないが、2コーナーから向正面に入ってペースが落ちなかった。いわゆる息を入れる場面はなく、序盤800m通過後から1400m通過まで600m加速ラップが続いた。

今年の宝塚記念でユニコーンライオンが刻んだ同区間が12.5-12.4-12.3。中盤は宝塚記念と同等か、それ以上のタフさだった。さすがにこれでは逃げた馬は苦しくなる。レイパパレはもっと逃げ馬に粘ってもらって脚を溜めたかったが、シャムロックヒルもロザムールも4コーナー手前で下がってきたため、レイパパレは早めに先頭に立ってしまった。立った以上は、待つことはできない。ルメール騎手、止まる可能性もある覚悟のスパートだったにちがいない。

宝塚記念、オールカマーと2200m戦を走り、最後の200mで苦しくなることは分かっていた。そして、今回も最後の200mで末を失った。後半800mのラップは12.2-12.2-11.8-12.5。大阪杯ではタフな流れでも我慢できただけに、やはりレイパパレにとって距離がわずかに長く、最後は12.5と時計を要した。ここで差し込んで来たのが勝ったアカイイト、2着ステラリア、3着クラヴェルだった。

英国血統持ちに注意

勝ったアカイイトは序盤の折り合いに課題があった。横山典弘騎手が乗った前走・府中牝馬Sではドン尻待機。不発の7着ではあったが、その意図は馬にリズムよく走ることを教えることだったのではないか。横山典弘騎手はなにもなくそういった乗り方をする騎手ではない。幸英明騎手に乗り替わった今回は、序盤から気分よく首を動かして追走。典弘騎手の意図通りの競馬ができた。

これまで好走パターンは4コーナー16番手から差し切った垂水Sのような極端な待機策。序盤からリズムよく走ったことで、外から徐々に勢いをつけ、残り600mからロングスパート。阪神芝2200mにおける理想の競馬ができた。差し負けた2、3、4着との差は、先に勢いをつけてコーナーを回ったところにあった。幸騎手の強気が勝利を呼び込んだといっていい。

2着ステラリアは秋華賞で最後の最後に差してきて6着。アカイイトと同じキズナ産駒らしく、長くいい脚を使え、タフな流れに強く、ちょっと不器用なところがある。今回もエンジンのかかりがやや悪く、4コーナーでアカイイトに先を行かれてしまった。こういったタイプなので最後に時計を要した今回は2着まで来たが、流れによっては不発もあるタイプ。人気に推された際には買いにくい。

3着クラヴェルはさらに遅れ差しのタイプ。横山典弘騎手、3コーナーで背後のインにいたムジカを気にする場面もあり、今回は最初から一発イン狙いだった。最後は進路もクリア、流れも向いて差し込んできた。こちらも展開に左右される。6月マーメイドSから堅実に脚を使えるようになり、成績は安定してきたが、勝つのは難しいタイプ。GⅠ・3着で引き続き狙いたいともいえない。

同じことは4着ソフトフルートにもいえる。こちらも広いコースの軽い馬場より小回りや最後に時計を要する馬場向きで、今回はいくつも好走条件がそろった。次回以降は不発も十分ある。

2番人気7着アカイトリノムスメ、3番人気16着ウインマリリンはレイパパレと同じく先行勢に厳しい流れとタフな馬場に末脚を失った。ダメージは気になるところだが、こうも厳しいレースにさえならなければ、巻き返しは十分可能だ。

エリザベス女王杯はユニオンジャックを内馬場に掲げるレースらしく、16年クイーンズリングから英国血統を持つ馬が必ず3着以内に来る。今年も2着ステラリアの母の父モティヴェイターが英国産。来年も血統チェックは欠かさないようにしたい。


2021年エリザベス女王杯のレース展開,ⒸSPAIA



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース公式コメンテーターを務める。共著『競馬 伝説の名勝負 2000-2004 00年代前半戦』(星海社新書)。



《関連記事》
【マイルCS】グランアレグリア連覇を阻むのは3歳馬! シュネルマイスターよりも怖い3歳馬とは?
【東スポ杯2歳S】GⅡ昇格元年! ここを突破しクラシック候補へ名乗りをあげるのは?
2週連続G1制覇! 横山武史騎手の「買える条件・買えない条件」

おすすめ記事