【アルゼンチン共和国杯】秋の名物GⅡの歴史 日本競馬界の分岐点となった2008年スクリーンヒーローの勝利

緒方きしん

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好メンバーが集う出世レース

天皇賞(秋)はエフフォーリアが勝利。2着コントレイル、3着グランアレグリアも良い競馬をしているだけに、鞍上の横山武史騎手の手腕とエフフォーリアの底力に凄みを感じる結果となった。古馬GⅠではスプリンターズSに続き3歳馬が勝利していることから、世代の勢いを感じているファンも少なくないだろう。

今週はアルゼンチン共和国杯。出世レースなだけに今後を占う上でも注目の一戦となる。昨年の覇者オーソリティ、目黒記念3着馬アドマイヤアルバ、京都大賞典4着馬ディアマンミノルらが出走するが、ここから3歳世代を倒す古馬は出現するだろうか。

過去にはトーセンジョーダン、シュヴァルグラン、スワーヴリチャードといった名馬を輩出したレース。その次走や翌年にGⅠで好走する馬も少なくないため、目の離せない一戦となる。今回はアルゼンチン共和国杯の歴史を振り返る。

1〜3番人気は互角の戦い

アルゼンチン共和国杯、過去5年間の優勝馬,ⒸSPAIA



ここ5年で1番人気は1勝。範囲を過去10年間に広げても、1番人気の勝利は2つのみとなる。昨年の1番人気ユーキャンスマイルは4着、2016年モンドインテロも4着と馬券圏外に沈むこともあり、信頼度はそこまでは高くないだろう。

同じく近5年において2番人気が2勝、3番人気が2勝を挙げるなど、人気の上位2・3番手が互角以上の戦いを繰り広げている。また、2013年〜2016年の間は4年連続で4番人気が2着。2019年には1着ムイトオブリガード(2番人気)と3着アフリカンゴールド(1番人気)の間に5番人気のタイセイトレイルが食い込んだ。人気馬が強い一戦ではあるが、5番人気以内であれば圏内として魅力十分と言ってよさそうだ。

過去には12番人気のユーセイトップランや14番人気のエルウェーウィンといった二桁人気馬が勝利していた時代もあった。しかし2009年にミヤビランベリが11番人気で制して以降、二桁人気馬の勝利はない状況である。ただ、2018年には条件馬のマコトガラハッドが11番人気ながら3着に食い込んでいるように、2・3着であれば伏兵の台頭も十分視野に入れておきたい。

日本競馬界の分岐点となった、08年アルゼンチン共和国杯

2008年の覇者はスクリーンヒーロー。前年の菊花賞2着馬アルナスライン、条件戦を3連勝していたジャガーメイルといった勢いある4歳馬が人気を集める中、同じく4歳馬のスクリーンヒーローが勝利した。

前年のラジオNIKKEI賞2着やセントライト記念3着はあったものの、スクリーンヒーローにとってこれが重賞初制覇となった。また、父のグラスワンダーにとっては前週のスワンS(マイネルレーニア)に続く2週連続の重賞制覇でもあった。

父、息子とも、勢いはこれでは終わらない。スクリーンヒーローはその月末にジャパンCに挑戦。9番人気ながらウオッカやディープスカイ、メイショウサムソン、オウケンブルースリ、マツリダゴッホらを相手に勝利した。

グラスワンダー産駒も12月にはサクラメガワンダーが鳴尾記念を制覇、セイウンワンダーが朝日杯2歳Sを制覇。さらには同年のJRA賞において、セイウンワンダーが最優秀2歳牡馬に、スクリーンヒーローが最優秀4歳以上牡馬に輝いた。

スクリーンヒーローはジャパンC制覇も後押しして引退後に種牡馬となると、そのポテンシャルを発揮。2015年の年度代表馬モーリスや、同年の有馬記念勝ち馬ゴールドアクターらを輩出した。

ゴールドアクターはアルゼンチン共和国杯を制したその次走・有馬記念を8番人気で制して、父のスクリーンヒーローを彷彿とさせる道のりを歩んだ。また、モーリスは種牡馬として、早くも今年のスプリンターズSを勝ったピクシーナイトを輩出している。

こうした活躍から見ても、日本競馬界のその後に大きな影響を与えることとなったのが、2008年のアルゼンチン共和国杯といえるだろう。

今年もステイ・ハーツの血が躍動するか

昨年はオルフェーヴル産駒のオーソリティが勝利した。さらに2019年の3着馬アフリカンゴールドや2018年覇者パフォーマプロミスはステイゴールド産駒。また、2017年の覇者スワーヴリチャード、2016年勝ち馬シュヴァルグラン、2019年の2着馬タイセイトレイルらはハーツクライ産駒である。ステイゴールドやハーツクライの血がアルゼンチン共和国杯では躍動している。

今年はオルフェーヴル産駒のアイアンバローズやオーソリティ、ディアマンミノルが登録。ハーツクライ産駒からはアドマイヤアルバやゴースト、さらにはハーツクライの血を受け継ぐジャスタウェイ産駒のロードマイウェイが挑戦する。また、スクリーンヒーロー産駒のフライライクバードやマイネルウィルトスも出走を予定。血統的な観点から見ても、面白いメンバー構成となった。

自らに流れる血のポテンシャルを発揮するのはどの馬か。そしてここからGⅠを制する出世馬は出てくるのか。秋冬のGⅠ戦線を占う一戦に、ご注目いただきたい。

ライタープロフィール
緒方きしん
競馬ライター。1990年生まれ、札幌育ち。家族の影響で、物心つく前から毎週末の競馬を楽しみに過ごす日々を送る。2016年に新しい競馬のWEBメディア「ウマフリ」を設立し、馬券だけではない競馬の楽しみ方をサイトで提案している。好きな馬はレオダーバン、スペシャルウィーク、エアグルーヴ、ダイワスカーレット。


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