【日本ダービー】「ダービーポジション」は死なず 東大HCが東京芝2400mのデータから徹底検証

東大ホースメンクラブ

東京芝2400コース図,インフォグラフィック,ⒸSPAIA

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競馬の祭典・日本ダービー的中へ

「生き残る」という名を授かったユーバーレーベンが、今年亡くなった岡田繁幸総帥にクラシックのタイトルを捧げたオークス。興奮冷めやらぬ今週、競馬の祭典・日本ダービーが行われる。皐月賞を圧勝し、2年連続の無敗二冠馬誕生がかかるエフフォーリアを中心に、ウオッカ以来となる牝馬ダービー制覇を目指すサトノレイナス、青葉賞から史上初のダービー制覇を目指すワンダフルタウン、毎日杯から参戦する遅れてきた刺客、シャフリヤールとグレートマジシャンらが世代の頂点をかけて疾走する。

東京芝2400コースデータ,インフォグラフィック,ⒸSPAIA

先週は同コースのオークスをコースデータの切り口から分析したが、今週は続編として、よりダービーと結びつきが強いサンプルを調査。世代の頂点に立つ馬とともに、我々も的中という栄冠を手にするためのデータを紹介する(使用するデータは2003年4月26日〜2021年5月23日)。

ダービーは1枠だけでは好走できない

東京芝2400m・馬場改修後のGⅠ枠別成績ⒸSPAIA


<東京芝2400m・馬場改修後のGⅠ枠順成績>
1枠【14-10-7-75】勝率13.2%/連対率22.6%/複勝率29.2%
2枠【11-3-7-85】勝率10.4%/連対率13.2%/複勝率19.8%
3枠【6-5-9-89】勝率5.5%/連対率10.1%/複勝率18.3%
4枠【2-8-7-91】勝率1.9%/連対率9.3%/複勝率15.7%
5枠【6-10-5-88】勝率5.5%/連対率14.7%/複勝率19.3%
6枠【3-6-3-97】勝率2.8%/連対率8.3%/複勝率11.0%
7枠【9-4-11-131】勝率5.8%/連対率8.4%/複勝率15.5%
8枠【5-8-6-137】勝率3.2%/連対率8.3%/複勝率12.2%

まずは枠順成績。2003年の東京競馬場改修以後のGⅠ全レースのデータを検証する。

もはや知れ渡っているように1枠有利だが、ダービーで1枠から馬券になった10頭のうち、7頭が5番人気以内という点は見逃せない。残りの3頭のうち、7番人気で勝ったエイシンフラッシュはその後天皇賞(秋)を制覇し、10番人気2着のウインバリアシオンもオルフェーヴルの背中を追い続ける中でGⅠの常連となった。

内枠が力となったのは圧倒的にイン有利な馬場状態だった年のロジャーバローズのみで、人気に関わらず、基本的に強い馬でなければ1枠でも好走できない。大穴からホームラン狙いするほどの信頼度はなく、上記のデータ通り「外よりは内の方が若干いい」という程度の認識がちょうどいいのではないか。

本当にシビアに考えたいのは8枠で、ダービーでは【1-1-3-48】。好走した5頭はいずれも重賞を既に勝っており、乱ペースで3ハロン勝負ができたアドミラブル以外の4頭は4角4番手以内、2頭はのちに菊花賞を制している(ザッツザプレンティ・アサクサキングス)。2400mを外からねじ伏せるのはほぼ不可能に近く、不利な枠から先行できるスピード、最後の直線まで長く脚を使うスタミナという高いレベルでの総合力が必須条件。どちらか一方しか持たない馬では内枠勢に歯が立たない。

ちなみに長く勝ち馬が出ていないのは4枠。1984年の皇帝シンボリルドルフ以来、実に36年もの間勝利から見放されている。

東京芝2400m・馬場改修後のGⅠ脚質別成績ⒸSPAIA


<東京芝2400m・馬場改修後のGⅠ脚質別成績>
逃げ【3-5-2-46】勝率5.4%/連対率14.3%/複勝率17.9%
先行【14-16-12-160】勝率6.9%/連対率14.9%/複勝率20.8%
差し【32-25-33-349】勝率7.3%/連対率13.0%/複勝率20.5%
追込【6-7-8-236】勝率2.3%/連対率5.1%/複勝率8.2%

次に脚質別成績。同様に2003年以降のGⅠレースのデータを抽出した。

上級条件では逃げがやや厳しい。ダービーでは18年エポカドーロの惜しい2着があったものの、馬場改修後、逃げ切りは皆無。バスラットレオンやタイトルホルダーあたりがハナを主張するだろうが、ダービー馬の称号を手にするのは簡単ではなさそうだ。

先行・差し勢の数値は拮抗しているが、近10年のダービーの勝ち馬を見ると、三冠馬オルフェーヴル、ニエル賞で英ダービー馬を倒し、凱旋門賞でも4着に健闘したキズナ以外の8頭は全て4角8番手以内で通過していた。

上がり最速で勝ったのもキズナとコントレイル(4角4番手から楽勝)のみ。「ダービーポジション」という古くからの言葉の通り、最低でも中団前めにつけて4コーナーから進出し、直線で粘り切るのが勝ち筋。エフフォーリアはこの点にしっかり合致している。

格言を破る資格を持つのは後方待機から末脚だけで他馬をねじ伏せられる馬。皐月賞組はヨーホーレイクが上がり最速(36秒6)だが、先行して勝ったエフフォーリア(同36秒7)と差はなく、勝ち切るシーンは想像できない。

唯一チャンスがあるのはサトノレイナス。単純比較の難しい不良馬場だったオルフェーヴルの年ではなく、キズナのレースをサンプルにすると、アポロソニックが前半5F60.3秒で逃げてラスト4ハロン目から11秒台のラップを刻む展開だった。

今年はタイトルホルダーかバスラットレオンが逃げるだろうが、タイトルホルダーは皐月賞の前半5Fを60.3秒(雨の残る馬場)を差のない番手で通過しており、同様のペースが刻まれることになるだろう。

上がり3Fのベストタイムを比較すると、エフフォーリアが33秒4(共同通信杯など)・サトノレイナスが32秒9(桜花賞)。0秒5差で詰められるのはおよそ3馬身。後方待機から勝つにはもう一つ上のギアが必要だ。もっとも、位置取りを柔軟に決めるルメール騎手ならば、物理的に勝負になる位置からレースを運ぶ可能性が高い。

ダービーで走るディープ産駒の条件

東京芝2400m・馬場改修後のGⅠ種牡馬別成績ⒸSPAIA


<東京芝2400m・馬場改修後のGⅠ種牡馬別成績>
ディープインパクト【13-12-8-85】勝率11.0%/連対率21.2%/複勝率28.0%
ハーツクライ【4-4-3-38】勝率8.2%/連対率16.3%/複勝率22.4%
エピファネイア【1-0-1-1】勝率33.3%/連対率33.3%/複勝率66.7%
ルーラーシップ【0-2-0-12】勝率0.0%/連対率14.3%/複勝率14.3%

東京芝2400mはディープインパクトの庭であり、それはGⅠでも変わらない。ダービーの【6-3-3-30】は「ダービー馬はダービー馬から」の格言を地で行く好成績で、JC・オークスでも25%以上の複勝率を記録。大舞台でも全体的に信頼できる種牡馬だ。

目下6年連続でダービー好走馬を送り出しているディープインパクトだが、この期間で3着以内に入った8頭のうち、ロジャーバローズを除く7頭が既に重賞を勝っていた。同様の実績を持つのはシャフリヤールとレッドジェネシス。また、7頭のうち馬券圏内を2回以上外していた馬はおらず、データから浮上するのはシャフリヤールだ。

ハーツクライ産駒も悪くない数字で、ダービーはワンアンドオンリーの制覇など【1-3-0-10】。グラティアスとヴィクティファルスはともに皐月賞を凡走してしまったが、同様のケースにはワンアンドオンリーに加え、ダービーで2着に来たスワーヴリチャードがいる。両馬はともに皐月賞が差しこぼしのような形で、直線の不利がありながら6着まで追い上げたグラティアスを上位に取りたい。

エピファネイアはデアリングタクトのオークス勝ち・JC3着があり、先週のオークスでも17番人気のミヤビハイディが6着に頑張った。距離延長がマイナスにならないタイプの種牡馬で、エフフォーリアに割引は不要だ。

ワンダフルタウン・バジオウが該当するルーラーシップ産駒は微妙。オークス2着リリーノーブルとJC2着キセキの例があるが、ダービーでは【0-0-0-4】。青葉賞との二重のジンクスをワンダフルタウンが破れるか注目したい。

東京芝2400m・馬場改修後のGⅠ騎手別成績ⒸSPAIA


<東京芝2400m・馬場改修後のGⅠ騎手別成績>
ルメール【6-5-1-15】勝率22.2%/連対率40.7%/複勝率44.4%
福永祐一【5-5-2-29】勝率12.2%/連対率24.4%/複勝率29.3%
M.デムーロ【5-1-4-19】勝率17.2%/連対率20.7%/複勝率34.5%
横山武史【0-0-0-2】勝率0.0%/連対率0.0%/複勝率0.0%

最後に騎手別成績をチェックする。

まずはルメール騎手。2番人気以内に支持されたGⅠでは【6-5-0-1】、着外だったのは喉鳴りの症状が出ていたハーツクライの2006年JCのみという人間離れした安定感を誇る。サトノレイナスはエフフォーリアに続く2番人気が予想され、事実上100%の連対データに合致する。牝馬のダービー挑戦ではあるが、ウオッカやアーモンドアイのJCのように牡馬を向こうに回しても堅実に好走してきそう。

ワグネリアン・コントレイルのダービー2勝ジョッキー、福永祐一騎手はGⅠで単複とも回収率100%超えと頼りになる。シャフリヤールは前述2頭のヴィクトリーロードだった「4角4番手から抜け出し」のデモンストレーションを毎日杯で実行しており、こちらも高評価。

先週オークスを制覇し、返す刀で6年ぶりのダービー制覇を狙うM.デムーロ騎手は複勝率3割超え。ただアドマイヤハダルは皐月賞4着からの臨戦で、ダービー×前走4着以下は【0-0-0-4】と苦戦が続いている。

大本命馬エフフォーリアに騎乗する横山武史騎手はリオンリオンのダービーが15着、ククナのオークスが7着。22歳でのダービー、1番人気での挑戦は、くしくも横山典弘騎手がメジロライアンと戦った1990年と重なる。父はレコードで駆けのぼるアイネスフウジンの後ろで涙を呑んだ。あれから31年、息子が父を超えることができるか。

《ライタープロフィール》
東大ホースメンクラブ
約30年にわたる伝統をもつ東京大学の競馬サークル。現役東大生が日夜さまざまな角度から競馬を研究している。現在「東大ホースメンクラブの愉快な仲間たちのブログ」で予想を公開中。

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