【マイルCS】マイル女王グランアレグリア! 勝負を分けた残り400mの攻防を振り返る

勝木淳

2020年マイルチャンピオンシップレース展開インフォグラフィックⒸSPAIA

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レシステンシアの大人な逃げ戦法

先週のエリザベス女王杯は79年に阪神施行があったが、マイルCSは84年ニホンピロウイナーが勝った第1回からすべて京都で行われ、阪神での開催は史上はじめてのことだという。そんな阪神のマイルCSは海外遠征が難しい世情を反映、近年になく豪華なメンバーが集った。GⅠ馬8頭、その全馬がマイルGⅠ勝ち。ベストマイラー決定戦として申し分なかった。

阪神マイルGⅠといえば桜花賞と阪神JFと朝日杯FS。1、2番人気は19年桜花賞馬グランアレグリア、19年朝日杯FSを勝ったサリオス。そしてレースのカギを握ったレシステンシアは19年阪神JFを快時計で逃げ切った。奇しくも阪神のマイルGⅠ勝ち馬がこのレースの中心にいた。

レシステンシアが逃げ切った19年阪神JFは前後半800m45秒5-47秒2、1分32秒7だった。次走チューリップ賞は47秒1-46秒2、前後半が逆転、同じ馬が記録したとは思えないスローペースを演出し3着。本番の桜花賞ではスマイルカナにペースを譲ったレシステンシアが、NHKマイルC以来の出走となる今回どんな競馬をするのか。

レース全体を左右するレシステンシアの逃げは後続の脚を削るようなものではなかった。北村友一騎手はスタート直後こそハナに立つよう促したが先頭に立つとリラックスさせることを優先したようだ。ガンガン行く競馬はキャリアの浅いころのものだったのか。2ハロン目に11秒0を記録したあとは11秒4-12秒0と落ち着いたラップを刻んだ。

桜花賞でレシステンシアに乗った武豊騎手騎乗のラウダシオンが番手をとる。1~3着のグランアレグリア、インディチャンプ、アドマイヤマーズに乗る騎手たちはこういった流れを読み切り、好位につけた。

対照的に、後方馬群にいたサリオスはこの地点でノーチャンスとなってしまった。阪神マイルに出走した19年朝日杯FSの回顧で「マイラーとは思えない」と評したが、これはいい意味での反応の悪さを感じたからだった。サリオスはその後クラシック路線を歩んだことで中距離型になった。かかる心配が一切ないサリオスだけに、発馬後から馬任せに位置をとっては後方待機もやむなし。上がり最速33秒1で5着。正直レースに参加しないままに終わってしまった。

注目すべき残り400mの攻防

前半800m通過46秒9の緩い流れでしかも外回り、自然と上がりの競馬になる。後半600mは11.0-10.8-11.7の決め脚比べ。グランアレグリアの挙動は見所たっぷりだった。

緩い流れから最後はバテる馬が少ない、スペースの攻防になると踏んで動いたのはインディチャンプ。4角で外から早めに動いてグランアレグリアを外に出させない。アドマイヤマーズとラウダシオンもスペースを消し、グランアレグリアの進路を阻む。手応え抜群なグランアレグリアは動けない。

しかしさすがはルメール騎手。慌てずにこの2頭の様子を見ながら、インディチャンプの外へ馬を誘う。ロスといえばロスだが、グランアレグリアの脚であれば間に合うという確信があったか。アドマイヤマーズもインティチャンプもその隙に封じにかかるも及ばなかった。

この2頭、競馬としては完璧に近い形だったが、究極の瞬発力を繰り出した残り400~200m10秒8で脚を使い切ったか。対照的にスペースを待ったグランアレグリアはこの地点で脚を溜めていた。そうはいいつつ、その10秒8をいつでも動ける形で待てるわけだから女王には敵わない。スプリンターズS同様にルメール騎手のGOサインが出た瞬間にトップスピードを出せる、究極の瞬発力はほかに類を見ない。

藤沢和雄調教師からは2000や2400でも大丈夫だという声が漏れ聞こえる。さあ2021年はどこへ向かうだろうか。

敗戦組では不得手な瞬発力勝負になりながら3着だったアドマイヤマーズをあげる。叩いて変わる同馬らしくスワンSとは最後の脚勢が違った。先行して流れに乗れる自在性は父ダイワメジャー譲りの武器。その父は4歳マイルCS2着、5歳秋にGⅠ連勝とさらに成長した。父と似た戦歴をたどるだけに来年はマイル路線で大きく飛躍しそうだ。


2020年マイルチャンピオンシップレース展開図



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。YouTubeチャンネル『ザ・グレート・カツキの競馬大好きチャンネル』にその化身が出演している。


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