【クイーンS】すべてがハマったレッドアネモス 上位3頭の明暗を分けた動きとは

勝木淳

2020年クイーンS結果インフォグラフィックⒸSPAIA

ⒸSPAIA

戦前のデータが示していたもの

クイーンSが夏の札幌に移り、古馬混合戦になった2000年以降、3歳馬は【5-3-4-31】で4歳馬【9-6-5-58】、勝率、連対率、複勝率ともにほぼ互角。20回中14勝をこの二世代が占める。

今年は主力である3歳馬の出走がゼロ。過去20年で3歳の出走がなかったのは09年のみ、データ上の主力世代を欠く一戦だった。片翼にあたる4歳、それも過去10年で【3-4-3-11】前走ヴィクトリアマイル組の3頭、スカーレットカラー、コントラチェック、ビーチサンバが1、3、4人気と上位を占め、2人気は牝馬限定重賞連勝中のフェアリーポルカ。

結果的に馬券圏内の2、3着はビーチサンバ、スカーレットカラーなので、傾向をそれなりに踏まえた結果ではあった。ただし、前走ヴィクトリアマイル組は前走1秒以上負けていると【0-2-0-8】、過去10年では2着2頭。こちらもデータ通り。勝ったのは11人気の伏兵レッドアネモスだった。

1000m通過58秒2の厳しい流れ

1枠1番のレッドアネモスにとって内枠に逃げ先行馬がそろったのも幸運だった。ナルハヤの藤田菜七子騎手は好発から手綱を押して先手を主張、その挙動をみてある程度行かせて抑えたのがタガノアスワド。この2頭が作ったスペースを利して、1角で余裕をもってインを確保したのがレッドアネモスだった。

隊列は一旦すんなり決まったかに思えたが、1角から2角にかけて外からコントラチェック、モルフェオルフェが突っかけるような形になり、ペースが落ちなかった。前半1000mは12.1-11.2-11.5-11.5-11.9とリズムを整えるところなく、58秒2。コントラチェックは向正面で控えたものの、3番手で前2頭にプレッシャーをかける形はお互いに厳しかった。

中団のやや後ろにいたレッドアネモスにとっては絶好の流れ。フェアリーポルカ、アロハリリー、カリビアンゴールドらが進出するなか、インコースでその身を潜めていたレッドアネモスは目前のアロハリリーが4角でインから動かないとみるや、その外のスペースにきれいに入り、進路を確保。見事な省エネ騎乗だった。

明暗を分けた2、3着馬

前半に無理をしなかったレッドアネモスが弾ける一方、3着スカーレットカラーはその背後で同じような形になりながら、レッドアネモスの動きによってスペースを消され、4角で前にアロハリリーがいる最内を選択。

下がってくるタガノアスワドをさばき、レッドアネモスにやや遅れて同じスペースを抜けてきた。脚質的にどうにもスペース確保に時間がかかる点は歯がゆいが、レッドアネモスとは着差ほど力の差はないだろう。やはり昨年の府中牝馬S1着が示すように広いコースがベスト。

2着ビーチサンバは、道中でレッドアネモスの直後の外と同じような位置。こちらは福永祐一騎手が3角で早めに仕掛けたかったが、目の前にいたフェアリーポルカがひと呼吸置いたことで待たされてしまった。その分、外を回る形となり、最後はよく差を詰めたもののレッドアネモスを捕らえられなかった。

周囲の馬の動きに左右される宿命にある差し馬だが、それがポジティブに左右したのがレッドアネモス。2、3着馬はいずれもわずかながらスムーズさを欠いていた。つまりは、この着順が今後のレースでは容易にひっくり返るであろうことは忘れないでおきたい。

10着と大敗したコントラチェックは、逃げないと好走できないというモロさをまたも露呈した。戦前より先手をとりたい伏兵馬が多い状況で、それでも逃げるという選択はいかにもとりにくい。

このジレンマ、今後も続きそうな予感がするものの、ほかに逃げ馬がいない組み合わせであれば、逃げを選択可能。そうなれば圧勝というシーンも考えられるため、コントラチェックの取捨はこれからも慎重にいきたい。安易に終わったと消すと痛い目に遭うだろう。

2020年クイーンS結果インフォグラフィックⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。YouTubeチャンネル『ザ・グレート・カツキの競馬大好きチャンネル』にその化身が出演している。

おすすめ記事