【オークス】63年ぶり無敗の二冠女王誕生!勝負を分けた残り400mの攻防とは

勝木淳

2020年オークス位置取りインフォグラフィックⒸSPAIA

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一瞬でも躊躇していれば……

時に、可憐な少女がしばらく見ない間に成長していることに驚かされる。桜花賞から6週間後、オークスのパドックに姿をみせた18頭は以前のあどけなさが消え、凛とした佇まいを見せてくれた。深まる府中の森の緑色が彼女たちの美しい瞳に映える。

舞台は東京芝2400m。この春一番の難所である。

ゴール前先に抜け出したウインマイティーを、インから同馬主ウインマリリンが迫る。その攻防を外から制したのがデアリングタクト。昭和32年ミスオンワード以来の63年ぶりに無敗の二冠女王が誕生した。

レース後に松山弘平騎手が「ホッとしました」とコメントしたが、レースは紙一重だった。内枠から最内に潜り込むと、1角でミヤマザクラに前へ入られ、2角でリアアメリアにぶつけられ、中団後方より。前半はリズムを崩しかねない場面が多く見られた。折り合いを欠きかけながらも松山騎手が冷静に位置を下げてそれをなだめた。

最大のピンチは最後の直線残り400m付近。リアアメリアとマルターズディオサの間にできたスペースへ入ろうとしたのを、瞬時に切り返してさらに内を選択。同じスペースをルメールのサンクテュエールが狙っていたのを察知したからだろう。寄られてスペースを消されてしまえば、ブレーキがかかる場面だった。

そして、自身が選択した内のスペースは、脚が十分に残っていたマジックキャッスル(最後の600m2位タイ33秒4)が狙っていた。一瞬でも判断が遅れていれば……その進路はなかったかもしれない。先を読んで選択する戦略と一瞬で答えを出す瞬発力。松山騎手、デアリングタクトによってそのポテンシャルを引き出された。

ウインの伏兵2頭、その好走要因とは

2、3着は伏兵のウインマリリンとウインマイティー。2頭はフローラSと忘れな草賞の勝ち馬。やや人気を落としすぎた印象だ。

ウインマリリンは、息子武史騎手の代打騎乗(昨年のダービーとは逆転)となった横山典弘騎手らしい頭脳プレーが目立った。外枠から逃げたスマイルカナの背後、インの3番手を確保。コーナリングがぎこちないスマイルカナの挙動をみてラチ沿いの進路を狙っていたとみえる。そこまではじっと動かずに静に徹し、ラチ沿いが開いた瞬間に飛び込んだ。枠順の不利を消し、距離ロスを最小限に抑え、仕掛けを待って溜めるだけ脚を溜めた結果だった。

ウインマイティーは和田竜二騎手らしい馬に負担をかけずロスを減らす騎乗。道中は先行集団のイン、勝負所で進路を求めて最低限の動きで抜け出した。先に抜けた分、目標にされる形になってしまったが、力は十分に発揮した印象だ。

レースラップは1000m通過59秒8とオークスとして締まった流れだった。その後残り1400~800m標識まで(3角手前から4角手前)が12秒7-13秒0-12秒6、後方勢が動きにくい区間で息が入ったことが、先行した伏兵2頭に向いた結果でもあった。

その緩んだところでいち早く反応したクラヴァシュドールは15着。今度ばかりはデムーロ騎手の積極性がアダになった印象だが、いつもミルコマジックがさく裂するわけではなく、可能性があればセオリー度外視も厭わない彼らしさは出せたのではないだろうか。

歴史上の馬ミスオンワードに続く快挙を達成したデアリングタクト

勝ったデアリングタクトは昭和32年ミスオンワード以来の63年ぶりに誕生した無敗の二冠牝馬。生産したのは日高の長谷川牧場。社台ファームが生産した母デアリングバードを、繁殖牝馬セールで長谷川牧場が購入したところからはじまった。

小さな牧場から生まれたデアリングタクトが、ほとんどの競馬ファンは知らない歴史上の馬ミスオンワードに肩を並べたのだ。ミスオンワードの姿を知る競馬ファンは、きっと日本のどこかの競馬場やウインズにいるにちがいない。会って話を聞いてみたくなった。そのためにも競馬場とウインズに再びファンが集まる日が早くきてほしいものだ。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』にて記事を執筆。YouTubeチャンネル『ザ・グレート・カツキの競馬大好きチャンネル』にその化身が出演している。

2020年オークス位置取りインフォグラフィックⒸSPAIA

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