【中山牝馬S】まさかの雪中競馬!2番人気コントラチェックの敗因は?

勝木淳

中山牝馬SインフォグラフィックⒸSPAIA

ⒸSPAIA

2着は14番人気リュヌルージュ

冬開催は雪の影響を受けなかった暖冬の終わり、しかも東京で桜の開花宣言が出された日に遠くに霞むような幻想的な雪中競馬とは自然のいたずらとしか思えない。

2020年の第38回中山牝馬Sの映像をのちの世の人々が観たとしたら、きっと信じてもらえないだろう。だが、14番人気の伏兵リュヌルージュの2着はうなずかれるかもしれない。なぜなら軽量の伏兵の一発は珍しいことではないからで、改めて中山牝馬S、春の牝馬の難儀さを知らしめられた一戦となった。

リュヌルージュは3勝クラスに所属、それも前走で2勝クラスを勝ち上がったばかりの昇級かつ飛び級、最軽量ハンデタイ50キロだった。このハンデも好走要因だろうが、なにより重賞初騎乗の団野大成騎手が先行させたことが大きい。前走先行したとはいえ、これは2勝クラスでのもので、重賞で同じような競馬はそうはできまい。

プレッシャーが少ない外枠は幸運ではあるが、1角まで距離がない中山芝1800mでは楽に先行できるような枠ではない。6枠にいたコントラチェックが行く気を見せず、その外のモルフェオルフェが先手を奪う動きに合わせて番手に導いたあたりは冷静だった。

4角でも馬の手応えは抜群。馬場改修後初の不良まで悪化した馬場を走っているとは思えない手応えに母父メジロマックイーンが重なる。この母父はオルフェーヴルやゴールドシップで再浮上した血統で勝負強いステイゴールドとの相性は抜群。ステイヤーの血を受け継ぐとともに逆境への強さを身につける血だったのだろう。オルフェーヴルの日本ダービーは泥沼のような馬場で、ゴールドシップは皐月賞で他馬が避ける極悪状態のインからワープした。逆境の強さとスタミナと若武者・団野騎手の冷静さがもたらした2着だった。

厳しい競馬が引き出したフェアリーポルカの強さ

そうはいっても番手からリュヌルージュが粘ったことで展開的には先行勢有利だったといえるだろうか。このレースの1000m通過は60秒8。マイル戦で逃げて好走していたモルフェオルフェが作ったペースは楽ではない。不良馬場を考慮すると1000m通過60秒8はかなり厳しい。このレースのラップは、

12.7-12.0-12.3-12.0-11.8-11.6-12.2-12.3-13.3

向正面でペースは極端に落ちず、その後半から3角にかけて11秒8-11秒6はいかにも厳しい。それが証拠に本来ペースがあがる地点からゴールに向けて失速するラップ。先行勢にはかなり辛いハイペースのようなラップである。

勝ったフェアリーポルカは中団の前というポジションで、楽ではない位置にいた。ただし距離ロスを最小限にする騎乗が目立つ和田竜二騎手がインコースをずっと意識しながら競馬をさせ、4角は下がってくる馬を避けるように斜めに外へ持ち出した。距離ロスは覚悟で外を回りながら鋭く伸びてリュヌルージュをきっちり捕らえるあたりにこれまでにない力強さを感じた。フェアリーポルカもまた極悪な条件下で能力を開花させたのだろう。

こちらの母父アグネスタキオンは母系に入ってさらに力のいる馬場への適性を産駒に伝える。重賞惜敗は軽い条件下でのものが多く、今後も安定して力を出せないかもしれないが、この快走は忘れずにおきたい。競馬とはみんなそのときの条件次第で結果が左右されるもの。大事なことは好走パターンを忘れないということだ。

雪を気にしたコントラチェック

最終的には道悪巧者のエスポワールに1番人気を譲ったコントラチェックだが、このレースの主役は断然この馬だった。結果は最下位の16着。難しい中山牝馬Sを象徴するような結果となってしまった。4角では勝ったフェアリーポルカと同じような位置にいただけに解せない点は多く、ルメール騎手から「雪を食べようとした」というコメントまで飛び出す謎の凡走である。

ひとつ言えることは、やはり極端に抑えようとするのは無理があったということだろう。重賞2勝はいずれも後続に脚を使わせるような強気な逃げ、スピードを自ら殺すような作戦で道中は口を割り、鞍上とケンカしてしまった。前半で冷静になれななかった上に合わない極悪馬場ではしかたない。だからといっても評価は下げられないのが競馬である。良馬場で以前の強気な競馬さえすれば平気で巻き返してくるだろう。フェアリーポルカと要は同じである。この馬だって条件が変われば結果は変わるのだ。

そんな意味では3着エスポワールはもったいなかった。ゲートでやや後手を踏み、挽回するために外から追い上げ、1、2角はかなり大外を回ってしまった。中山芝1800mは1角までの距離が短いため、無理に挽回しようとするとスピードを殺しきれずに膨れるようなコーナリングになってしまう、よく中山芝1800m戦で見かけるロスではある。道悪巧者もこのロスが響いて届かなかった。条件的に重賞制覇には願ってもない設定だっただけに痛いとしかいいようがない。ふたたび好走条件が訪れるのを待つか、鍛え上げて強くなるしかないだろう。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて「 築地と競馬と」でグランプリ受賞。中山競馬場のパドックに出没。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌「優駿」にて記事を執筆。

中山牝馬SインフォグラフィックⒸSPAIA

おすすめ記事