【NHKマイルC】荒れるGⅠだが、強い馬が出走した年は波乱なし?
SPAIA編集部
Ⓒ三木俊幸
NHKマイルCの立ち位置が崩れだした原因は?
ひと昔前、クラシックに出走できない外国産馬の受け皿となる番組を求める声が相次いでいた。また、競馬の根幹をなす距離であるマイル戦がクラシック競走では桜花賞のみでしか実施されておらず、その充実を図る思惑も相まって、1996年に新設されたのがGⅠ・NHKマイルCである。
当初は外国産馬が大挙して出走し、シーキングザパールやエルコンドルパサーなどのビッグネームが優勝馬に名を連ね、一応は指針に従ったレースとして成立していた。しかし、その立ち位置がぼやけ始めたのは外国産馬にもクラシック出走の門戸が開かれて以降である。
近年の優勝馬を見渡しても、とても3歳マイル王との称号にふさわしい顔触れとは思えず、ここ2年は3連単10万超えの配当が簡単に飛び出すなど、目下のところは波乱の起こり得るGⅠとしてのイメージが定着しつつある。
力勝負となるはずの東京マイル戦で、レースが荒れる要因をいかに考えるべきか。その変遷の歴史に今一度注目することで探ってみたい。
「マツクニローテ」から見えたNHKマイルCの特徴とは
外国産馬が勝ちまくっていた黎明期を過ぎても、歴代の優勝馬にはキングカメハメハやディープスカイなどのダービー馬がいることで、一見はレースのレベルが保たれているように見えるが、実はこれがまやかしである。その理由が次にある。
2001年、外国産馬クロフネはNHKマイルCを勝った後にダービーへ出走して5着、翌年タニノギムレットは不利もあって当レースでは3着に敗れるも、続くダービーを制覇。そして2004年キングカメハメハがNHKマイルC、ダービーの変則二冠を成し遂げ、ここに松田国厩舎のいわゆる〝マツクニローテ〟が完成に至ることとなる。
このローテーションの利点として当時、松田国調教師は、ダービーを目指す意味で東京コースを経験しておけること、ダービーから逆算してちょうどいい間隔で行なわれ、消耗の少ない距離であると述べていた。ただ、力を削がれない程度の力関係である点も挙げていた。
つまり、ダービーを前にした叩き台のレースとして楽に走れる、それくらいのレベルまでメンバーの質が低下していたことの表れでもある。
時は経ち牡馬、牝馬ともに外国産馬がクラシック戦線に出走できるようになり、クラシック1走目から2走目に直行する流れへと仕向けられたことで、この先人が編み出した方法は機能しなくなった。だが、その狭間に置かれたGⅠは、いまだに迷走を続けるポジションにあり、それが波乱という結果として表れていると考えておくべきだろう。
今年は桜花賞馬が出走、今回も馬券は荒れるのか
高配当が飛び出した年度のメンバーを、そして掲示板を確保した馬の名前を改めて見返すと、後に条件戦へと降級、出走しても勝ち切れなかった馬が多いことに気づかされる。
これをGⅠレースとして紛れは起こり得ないとして予想する時、大きな読み違えが生じるリスクは高まる。ただし、今年は桜花賞馬がその距離適性を踏まえて、オークスではなくNHKマイルCへの出走を選択してきた。
過去には2005年にラインクラフトが桜花賞からNHKマイルCの連覇を果たし、最近では2016年に桜花賞で1番人気に支持されながらも4着に敗れたメジャーエンブレムが、このレースでうっぷんを晴らす快勝を見せた。
いわば名より実を取りに行く策に出れば、クラシック上位レベルの実力が大きくものをいうとみて間違いはなく、こういう年度はレース自体が締まったものとなり、大きな波乱はないとみるべきである。
それでも穴馬を探すなら、皐月賞や毎日杯など、高いレベルの中距離戦をステップにしたことで盲点となるような牡馬に再考の余地がありそうだ。
ダービーにつながらないNHK杯
NHKマイルCの前身として長く行なわれていたレースがNHK杯。東京の二千という王道をゆく設定のダービートライアルであった。オールドファンならいまだに〝NHK〟という冠のレース名を聞くと、ダービーを連想する方が多いのではないだろうか。
ここで強い競馬をした馬がなぜだかダービーでは結果を出せなかった。廃止直前の勝ち馬マイシンザンやナムラコクオーはNHK杯で鮮烈な印象を残すも、ダービーでは苦杯をなめることとなる。ともに極めて高い能力を持ちながらも、脚部不安をのちに発症というか、その当時からそれに悩まされているなかでのローテーションだった。
最高峰のダービーを目指すことがいかに厳しい道のりであるかを思い知らされた。その〝NHK〟の冠を持つレースが、マイルのGⅠという全く異質なものとなったにも関わらず、そこをステップにダービー馬が誕生したというのは、なんとも皮肉な話である。
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