【神戸新聞杯回顧】タフな流れのマイペース決めこんだメイショウタバル 父ゴールドシップを想起させる、魅力と狂気

勝木淳

2024年神戸新聞杯、レース結果,ⒸSPAIA

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父譲りの愛され力

夏から秋の連続開催も後半に入った。芝はさすがに内を避けるような場面もみられるが、かといって極端に時計がかかってもいない。使ったなりの傷みはあるものの、雨が少ないことで馬場はそこまで悪化していない。

だが、この日は昼前後から雨が降り、後半は良から稍重へワンランクダウン。じわりと悪化した馬場を前に神戸新聞杯は距離以上のスタミナを問う状況で行われた。それもメイショウタバルの存在が大きい。つくづくダービーの出走取消は多くの馬の運命をかえたといっても過言ではない。そう感じさせるだけの走りをメイショウタバルはみせた。

大外枠だろうと、メイショウタバルは逃げる。というより、自分のリズムで走るには逃げざるを得ない。折り合いの危うさは皐月賞で証明した。巧みなペース配分をしようにもメイショウタバルはそれを受け入れない。心底、難しい馬だ。

だが、そんな気性と表裏一体なのが競馬というもの。道悪を一気に逃げ切った毎日杯はこの世代のなかでもインパクトでいえば上位に位置する。あの圧倒的な強さがあるからこそ、皐月賞はメイショウタバルを信じて競馬に挑んだ。

暴走と好走は紙一重。サラブレッドの魅力と狂気を秘めており、どうしても応援したくなる。そんな愛される素質は父ゴールドシップから譲り受けたものだろう。走る馬とはこうも難しいのか。ゴールドシップの戦歴はそれを伝える。


難しいコントロールの先に菊の大輪あり

秋になり、メイショウタバルは変わらなかった。抑えにかかれない分、ハナに行くことで馬自身が納得してくれるのを待つしかない。浜中俊騎手は今回も祈るような気分だったのではないか。思えば、父ゴールドシップもよく横山典弘騎手に祈られていた。序盤600mは35.4と入りはメイショウタバルらしい。1コーナーに入るころには、ライバルたちは追いかけるのを諦めた。

他馬が深追いできないのはメイショウタバルの強みそのもの。4ハロン目から12.4-12.2-12.0とペースダウンはできない。だが、先頭に立ったことで、馬も我を取り戻したかのように映った。決して暴走してない。

ある程度のスピードをキープできており、マイペースを決めこんだ。これが最大の勝因。とはいえ、その後も11.8-12.0-11.8-11.7-12.5と坂を上がったラスト200mまでペースは落ちない。ペースを落とさず、2000mを1:59.3で走ったので、最後は一杯になったものの、そこまでの持続力を思えば十分すぎる内容だった。

さすがに菊花賞をこのペースで走るのは厳しいが、神戸新聞杯を踏まえれば、ライバルたちは決して追ってこない。ひとり旅に持ち込めれば、メイショウタバルが納得してくれる可能性は出てくる。距離への意識を鞍上がどう考えるか。ポイントはこの一点に尽きる。

抑え込めば、逆に暴走しかねない。浜中騎手は百も承知。非常に難しいコントロールを迫られることになるが、それさえ乗り越えれば、距離は問題ない。なにせ父ゴールドシップは強気にまくって菊花賞を勝ち切った。いかに機嫌を損ねずに乗れるか。

次走は父と同じテーマに挑む。うまくメイショウタバルの気を逸らせられれば、今度は直線に急坂はない。


巧みさとスタミナで勝負したジューンテイク

ジューンテイクは昨年のサトノグランツに次ぐ京都新聞杯、神戸新聞杯制覇を惜しくも逃した。どちらのトライアルも非根幹距離であり、コースは違えど共通点が多い。父キズナ産駒はこのレースに大挙7頭も出走した。牡馬は非根幹距離を得意とする産駒が多く、2~4着に入ったのは納得できる。

また、この世代から明らかにキズナ産駒は変化した。前哨戦で強く、本番では足りないというイメージはジャスティンミラノが払拭してくれた。ジューンテイクは好位から運び、最後は唯一、メイショウタバルに迫った。内を立ち回った巧みさと最後まで伸びたスタミナに菊花賞への可能性が高まった。

出走権最後のひと枠を獲得したのがショウナンラプンタ。終わってみれば、取り消したメイショウタバル以外はどちらもダービー出走馬。実績馬が上がり馬を上回った形になった。

メイショウタバルが飛ばす持久力戦になり、厳しい流れでも最後に末脚を使えるタフさが問われたということだろう。末脚は確かでも、追走で厳しくなっては、思うような脚を使えない。そういった意味ではトライアルにふさわしいレースだった。

後方からしぶとく伸びたショウナンラプンタも自力で勝ちに行けない弱みこそあれど、流れに対する耐久力はみせた。叩いた次はもう少し自在に動けるかもしれない。

2024年神戸新聞杯、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。

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