【新潟2歳S回顧】例年と違う“渋い展開”だからこそ価値あり トータルクラリティが示した「持続力」という強み
勝木 淳
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スローでも持続力勝負に
2024年8月25日に新潟競馬場で開催された新潟2歳Sはバゴ産駒のトータルクラリティが優勝。派手な決め手比べにはならなかったが評価できる馬は多く、秋以降、ポイントとして覚えておきたいレースだ。
スケールの大きい新潟外回りで行われる2歳戦は、直線での末脚比べが定番。レース上がり33秒台はザラで、今年も新潟外回り2歳戦では5レースで記録された。未勝利をちぎったアルレッキーノ、シルバーレインは大物の予感すら抱かせる。一方で、新潟2歳Sは味な競馬になった。
勝ったトータルクラリティは上がり600m34.5。早め先頭から2着コートアリシアンを差しかえした。抜け出すと内にササるなど若さをのぞかせつつも、差しかえす勝負根性は2歳離れしたものがある。武器は瞬発力ではなく、持続力。軽さがないのは、むしろ将来性を感じる。のちに本格派に育ってくるのではないか。
新潟2歳Sにしては軽くなかったのは、序盤600mが35.0とこのレースとしては速かったからだ。現在のコースになり、序盤600m35.0以下は過去にわずか3回。03年ダイワバンディット、08年セイウンワンダー、20年ショックアクション。スリールミニョンとシンフォーエバーがわずかに先行争いを演じたことで、ペースが早々に落ち着かなかった。
とはいえ、前後半800mは47.7-46.5とスローはスロー。後半の上がり勝負は必定だった。しかし、ラップ推移をみれば、12.5-10.8-11.7-12.7-12.0-11.7-11.1-11.7。中盤4コーナー手前800~600mで加速したことがわかる。
瞬発力勝負を避けようとした前が早めにペースを上げてくれたことで、トータルクラリティは自身の強みを表現しやすくなった。さらに自らも早めに勝負に出たことで、軽い競馬にさせなかった。
近親にスルーセブンシーズ
この強気の姿勢を可能にしたものはなにか。ノーザンファーム産のバゴ産駒というクロノジェネシスが出た大物血統ももちろんだが、トータルクラリティの母ビットレートが大きい。
その母スルーレート。さらにさかのぼるとスルーオールの名がある。スルーレートの妹マイティースルーはパッシングスルー、スルーセブンシーズの母だ。宝塚記念でイクイノックスに肉薄し、凱旋門賞4着と牝馬ながら持続力を武器としたスルーセブンシーズはトータルクラリティの近親になる。
持続力に特化した産駒が多いスルーオールの一族は、似た適性の父との間に活躍馬を出す。パッシングスルーはルーラーシップ、スルーセブンシーズはドリームジャーニー、そしてトータルクラリティはバゴ。GⅠを勝ち切るには軽さではなく、持続力。新潟2歳Sでの差しかえしは、その象徴といえる。
2歳としては厳しい競馬だったので反動は少し心配になるが、将来性はアルレッキーノ、シルバーレインには決して劣らない。むしろ、すでにクラシック出走に必要な賞金を稼いだ分、アドバンテージはある。
母の才能を引き出すキングカメハメハの系統
2着コートアリシアンは一旦、先頭に立ちながら最後に差しかえされた。ゲートで遅れをとった分、仕掛けて前につけたため勢いがつき、行きたがってしまった。コーナリングもぎこちなく、勝負所までに消耗した分、最後に力尽きた。
レース内容は荒削りにもかかわらず、一旦先頭から2着確保とスケール感は示せた。東京の新馬を上がり33.3で差し切った切れ味が身上。最後に根性を試されるレースは厳しかったか。とはいえ、適性から外れた競馬でも2着は確保したので、悲観することはない。
母コートシャルマンはデビュー3戦目の阪神JFで3番人気に支持された才女。母はその母の父スマートストライクの色が濃かったが、コートアリシアンは父系のキングカメハメハを感じさせる。
父ロードカナロアも牝馬の活躍馬が多く、サートゥルナーリア産駒も8月18日までの記録をみると、全6勝のうち5勝が牝馬。仕上がりが早く、瞬発力に長ける牝馬と相性がいい。
3着プロクレイアは4コーナー10番手から追い込んできた。道中は抑えながらの追走で、まだ位置をとりに行けない難しさはありそうだが、最後は進路を探して外に移動し追い込んだ。
横に動きながらの追い込みであり、実際の差は字面ほどない。フサイチエアデール、ライラプスの母系で、ちょっと勝ち身に遅い一族の出。エピファネイアも似たような産駒が多く、今後は自己条件であっても惜敗を繰り返す危険性があるものの、能力の一端は示した。
例年ほど派手な記録が出なかったレースだが、持続力が問われる渋い展開であったことは覚えておこう。似たような競馬になった22年勝ち馬キタウイングはその後、重賞2勝目を11番人気であげた。今年も好走馬を追いかけてみたい。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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