【キーンランドC回顧】堀厩舎の大幅馬体増は好走のサイン サトノレーヴがスプリンターズS制覇に向け好発進
勝木 淳
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大幅馬体増は好走サイン
サトノレーヴが達成した函館SSとキーンランドCの連勝はワンカラット、カレンチャン以来3頭目。ワンカラットはサマースプリントチャンピオン、カレンチャンはスプリンターズS制覇とその先への期待が大きく膨らむ勝利となった。
それにしても堀宣行厩舎とD.レーン騎手は2割増し、3割増しになる最強コンビだ。今年は短期免許を取得できないレーン騎手にとって、ワールドオールスタージョッキーズはまたとない機会。必ずなにかしら結果を残してくるだろうという予測はあり、サトノレーヴの連勝はなんら不思議ない。
堀厩舎の仕上げは在厩での調整が長く、調教タイムも把握しやすいにもかかわらず、我々にはなかなかつかみづらい。今回は間隔をつめ、当日の馬体重は+16kgで548kg。デビュー以来最高体重だった。中10週で、中間のコメントは「前走後は一旦、緩めた体も締まり、筋肉を強化できた」というもの。体が減るのかと思いきや大幅馬体増に頭を悩ませたファンは多かっただろう。筋力強化とはパワーアップを示しており、馬体増は筋肉が増えた分ということだったか。
堀厩舎の開業から今年8/18までのデータをみると、重賞で10kg以上増えた場合は【9-6-6-39】勝率15.0%、複勝率35.0%。基本、減るより増えた方が好走する厩舎で、10kg以上減は【3-3-2-41】勝率6.1%、複勝率16.3%にとどまる。堀厩舎の大幅馬体増は絶好調の証ととるべきだろう。
モーリスやドゥラメンテ、サリオス、カフェファラオなどGⅠウイナーには大型馬が多い。モーリスが転厩によって素質を開花させたのは有名な話だが、豊富な運動量で慎重、かつ着実に成長させる堀厩舎の仕上げは大型馬を開花させる。
サトノレーヴもまさにそのパターンだ。今春、阪急杯で544kgを記録し4着とはじめて馬券圏外に敗れると、そこから2走かけて12kg減らし、今回16kg増やして重賞連勝。余計なものを削ぎながら必要な筋肉を身につける。これこそ本格化と呼ぶべきだろう。堀調教師も最大目標はスプリンターズSと明言しており、いよいよ王手。次走が楽しみになった。
堀厩舎の屋台骨をつくった名スプリンターのキンシャサノキセキは470kgでデビューし、504kgで高松宮記念を制した。サトノレーヴはキンシャサノキセキを超える可能性すら感じる。兄ハクサンムーンのライバルであるロードカナロアの産駒、サトノレーヴへの期待はより高まった。
悲観しなくていい5着ナムラクレア
一方、1番人気ナムラクレアは5着に敗れた。1200mでは2年前のスプリンターズSに並ぶ最低着順に終わったが、やはり最内の狭いところに入った影響は否定できない。だが、1枠2番に入った時点で、ある程度決め打ちしていたのではなかろうか。
一団で進むハイレベルなスプリント戦では、なかなか内から外に持ち出すタイミングは見つからない。ならば、いっそ最内へと考えたはずだ。最後の直線では2番手エトヴプレに入りたいポジションをとられ、かなり狭い所へ突っ込んでしまった。ラチと接触するような場面もあり、ここで勢いを削がれた。ほかにどうしようもない競馬だっただけに、悲観することはない。こちらは馬体重+6kgで476kgと、本番に向け余裕もあった。戦歴をみると、460~470kg前半がベストなので、仕上げとしては先を見据えたものといえる。次は必ずよくなってくるだろう。
前後半600m33.6-34.3でハイペースというほど前傾ラップではなかったが、スキのない流れはレベルが高く、札幌の芝が徐々に差し優勢になりつつある状況も踏まえ、先行勢には厳しい競馬になった。2着エイシンスポッターはJ.モレイラ騎手が後方一気ではなく、中団につけ差す形をとったことが札幌にマッチした。京都での好走が多く、平坦は得意。展開待ちではなく、自ら位置をとれるようになったなら前進だろう。ただ、モレイラマジック炸裂といった印象もあり、今後、同じ競馬ができるかは不透明。次走以降にもいかしてほしい。
3着オオバンブルマイは1200m戦初出走。急流に付き合わず後方待機で対応した。結果的には大味な競馬になり3着止まりではあったが、上がり最速33.2を記録し、自身の能力は示した。母系は短距離色が濃いものの、走りやすいのは1400m前後であり、距離延長で見直そう。ベストは直線が長いコース。今回は色々と適性から外れていた。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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