【函館記念回顧】ホウオウビスケッツがエリモハリアー以来の巴賞から連勝 勝因は馬場と仕掛けにあり

勝木淳

2024年函館記念、レース結果,ⒸSPAIA

ⒸSPAIA

天候に恵まれた6週間

函館最終週の函館記念は開催を通して傷んだ洋芝で行われる差し比べを連想する。もちろん2分を超える決着時計になる年が多く、オープン馬ならどの馬でも、走れる時計になればゴール前は激戦になる。だが、運よく開催中に雨に見舞われないときは、たとえ開催最終週の函館であっても、時計は開幕当初よりわずかに遅くなる程度で収まる。傷みが早い洋芝もJRA馬場造園課は丁寧に手入れし、良好な状態を保つ。世界に誇る馬場管理技術の賜物だ。

今年、朝一番の芝の馬場発表が良以外だったのは7月7日の1回。それも稍重。最終日のクッション値8.3は今年の函館開催で最高値であり、良好な馬場のもと、函館記念は行われた。

勝ち時計1:59.2は良馬場に限れば特筆するものではない。最高の馬場状態であることを踏まえると、もう少し速い時計が計時されてもいい。1:59.2より速い函館記念は、2000年以降、2021年トーセンスーリヤの1:58.7、2013年トウケイヘイローの1:58.6など5回。逃げ切り2回、好位抜け出し3回と、高速決着になると例年のような差し比べには持ち込めない。速い時計が出るという予測が立った時点で、狙いは先行型に絞らなければいけなかった。


アウスヴァールを利用した巧みな仕掛け

勝ったホウオウビスケッツは巴賞逃げ切りから中1週。斤量0.5キロ増で決して楽な状況ではない。巴賞勝ち馬の函館記念制覇は1986年以降、1990年ラッキーゲラン、2005年エリモハリアーに次ぐ3頭目。19年ぶりの快挙だ。そして、同じく1986年以降の記録で巴賞を逃げ切った馬の函館記念制覇となると、ホウオウビスケッツが初となる。

巴賞を逃げ切った馬はまず間違いなく函館記念で執拗なマークに遭い、楽をさせてもらえない。この点、ホウオウビスケッツは巧みに包囲網をかいくぐった。伏兵のアウスヴァールがハナを奪いに来ると、ホウオウビスケッツはあっさり引いた。元来、折り合いに課題を抱えており、前走も内心は逃げたくなかったはず。だが、函館記念につなげるには賞金加算が必要だったため勝負に出た。当然、逃げた直後なので、折り合いが難しくなるのではという懸念もあったが、アウスヴァールを追いかけすぎない位置でギリギリ折り合いをつけた。この2戦をあわせて岩田康誠騎手の手綱が冴えた。

もう一点、3コーナー手前の残り800mからアウスヴァールが背後のホウオウビスケッツを引き離さんとラップをあげた。勝負所であり追いかけたくなるところをぐっと我慢させ、4コーナー手前から追い上げたことで、上がり600m35.3でまとめてみせた。脚の使いどころもホウオウビスケッツを知り尽くした鞍上だからこそ。アウスヴァールを追い、早めにレースを動かしていたらラスト200m12.0よりかかったはずだ。

マインドユアビスケッツ産駒はこれがJRA重賞初制覇。昨年のブリーダーズCクラシック2着デルマソトガケなどダートに強い種牡馬だが、米国ダートGⅠ馬らしく、スピードの持続力に長けている。軽い芝の瞬発力勝負を避け、持続力勝負に持ち込めれば芝でも重賞を勝てることを証明した。今回は前後半1000m59.6-59.6。前後半が等しい精緻なラップ構は強みを生かせる。マインドユアビスケッツ産駒の特徴を示す大きなヒントになった。今後は先行意欲を感じる産駒の好走が目立ってくるのではないか。


攻めて盛りあげたアウスヴァール

2着グランディアは良馬場が多かった函館で好調だったハービンジャー産駒。コーナーで動ける機動力と極端に上がりが速くならない馬場に適していた。スタートから1コーナーにかけて行きたがった分、伸びきれないところもあった。中団から勝負所の立ち回りも完璧に近かっただけに、展開面をたぐり寄せられなかったのも痛い。もう一列前で競馬をするためにも、前半の立ち回りが課題になる。

3着は逃げたアウスヴァール。14番人気での激走はいかにも函館記念らしい。ホウオウビスケッツという近況のいい先行型がいても、迷わず逃げたことが好走要因だ。結果的にホウオウビスケッツをアシストした形になったが、あえて3コーナー手前から後ろを引き離し、物理的な距離をとったことも3着に残れた要因だろう。待つのではなく攻める。アウスヴァールの強気は間違いなく函館記念を盛りあげた。

1番人気サヴォーナは4着。序盤で長距離ほど位置をとれず、久々の中距離戦に戸惑いを感じたようだ。最後はスタミナ型らしく伸びてきたが、前半の位置取りが着順を決した面は否めない。秋は長距離に目標となるレースが少なく悩ましいところだが、序盤が速くならない2400、2500mの重賞ならチャンスはある。

2024年函館記念、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。

《関連記事》
【函館記念】結果/払戻
【中京記念】小倉と中距離適性が重要 舞台巧者エスコーラやエルトンバローズが好走馬のイメージにピッタリ
【中京記念】過去10年のレース結果一覧

おすすめ記事