【函館2歳S回顧】心身ともに規格外のサトノカルナバル 前走と真逆の適性差を埋めた対応力

勝木淳

2024年函館2歳ステークス、レース結果,ⒸSPAIA

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レース史上初、北海道デビュー馬以外の勝利

世代最初の重賞は一番星を決する舞台。求められるのはスピードと完成度であり、いわゆる速攻型にとって大きな目標となる。裏を返せば、将来性というフレーズは必ずしもコンセプトに入ってこない。たとえ伸びしろを期待しても、その後は思うように結果を残せない。これも世代一番星の宿命といえる。

そんな函館2歳Sのイメージにはまらないスケール感がサトノカルナバルにはある。つまり、例年の函館2歳チャンピオンとはひと味違い、将来性を感じさせる。まず、函館2歳S史上、勝ち馬の前走が札幌、函館以外だったのはサトノカルナバルが初めて。一般的には函館デビュー、滞在調整から重賞へ。まだ競馬に慣れていない若駒にとって環境が変わらず、同じコースで続けて走るアドバンテージは大きい。

それを跳ねのけたサトノカルナバルは2歳とは思えない精神面の強さがある。新馬勝ちは東京最終週。そこから中2週。いかにレース後にダメージが少なく、北海道へスムーズに輸送できたかが知れる。レース10日後、7月3日に美浦坂路で軽く時計を出し、北上。最終追い切りは函館とスケジュールには決して余裕があったわけではない。それでも馬体重は2キロ増の496キロ。出走中2番目に重く、2歳離れした雄大な馬体もこのローテを可能にした。心も体も2歳の範疇を超えている。これを完成度ともとれるが、やはり将来性への期待が大きい。


全兄ジャスティンスカイのようにマイルまで

東京の新馬戦は1400mで序盤600m36.5のスロー。中盤で12.8までラップが落ちたが、遅い流れでもリズムを乱さず、しっかり脚を溜め、後半600m11.6-11.1-11.6の34.3を余裕の手ごたえで乗り切って7馬身差。函館2歳Sは1200m戦らしく対照的なラップ構成になり、前後半600m34.0-35.2。馬場の重さも正反対の状況で、前走から2秒5も速い流れにも動じなかった。古馬でさえ戸惑うほどの適性の差を上手に走って埋めた。いったいどちらに適性があるのか分からない。これもまた底知れぬ魅力といえる。

今年の函館は天候に恵まれ、決着時計1:09.2は16年レヴァンテライオン、19年ビアンフェと並ぶ函館2歳Sレコード。函館としては速い時計になり、例年より軽さが必要だったのも東京芝1400mを勝ったサトノカルナバルに向いた。本質は広いコースの高速決着向きではないか。同血の兄ジャスティンスカイは3歳2月までに2勝をあげ、その後はマイル路線に矛先を変えて3連勝。さらに距離を縮めて、5歳春にはじめてスプリント戦に出走し、オープン勝ちを決めた。対応力の高さはこの血統特有で530キロ超の兄に似ている。ということは、決して1200mが限界のスプリンターではない。マイルまでは楽しめるので、秋以降の2歳戦線でも引き続き注目しよう。


強気に進め、粘りをいかせたニシノラヴァンダ

2着ニシノラヴァンダは開催2週目の芝1200mを1:09.3で逃げ切った。牡馬相手に前後半600m34.1-35.2で乗り切ったスピードと粘りが身上。函館2歳Sも上記の通りほぼ同じラップ構成に単騎で持ち込めたことが好走につながった。開催後半でもスピードが出る馬場を味方につけており、今後もスピード勝負で楽しめそうだ。安田記念を勝った父サトノアラジンは現役時代、1400mのGⅡ2勝と速い時計への対応力があった。今年が4世代目だが、産駒は7月7日までの通算で1600m3勝、勝率2.6%、1400m15勝、勝率9.6%、1200m20勝、勝率8.8%と総じて短い距離に強い。母系にはサンタアニタダービーを制したシドニーズキャンディがいる。米国血統特有のハイペースに強い粘りもポイントで、今後も自分のリズムで厳しい流れを演出し、血統が持つ粘り強さを生かしてほしい。

3着エンドレスサマーは新馬では逃げて前後半600m34.8-34.6。今回はさらに厳しい流れのなか、2番手に収まった。ペースへの戸惑いも抑え、ニシノラヴァンダのペースに乗るという課題はクリアできた印象。結果は残せなかったが、この経験はいかにも次につながりそうだ。母コケレールの系統は決して早期速攻型ではなく、この時点で完成度の高い走りからは、兄弟の上をいける可能性を感じる。父アルアインは皐月賞まで【4-0-0-1】と崩れず、その後は5歳の大阪杯でGⅠ・2勝目をあげており、息長く活躍した。エンドレスサマーの成長力は血統面があと押ししてくれる。

2024年函館2歳S、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。

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