【新潟大賞典回顧】改装後の新潟2000m重賞(良)では最遅タイ しぶとさ生かしたヤマニンサルバムの逃走劇
勝木淳
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ヤマニンサルバムが7番人気はひねりすぎか
この春の新潟も例年通り、2週目には芝の時計がかかるようになり、見た目も悪そうな状態だった。秋のダメージが残っているとのことだが、芝の目覚めが遅い新潟特有の馬場はしばしば波乱の舞台となる。その象徴たる新潟大賞典はこの10年、2番人気以内の勝利がなく、今年も勝ったのは7番人気ヤマニンサルバム。2走前に中日新聞杯を勝った実力馬だけに、少し買う側がひねりすぎたかもしれない。
勝ち時計が2:00.1と遅く、外枠優勢の馬場状態がアシストした面もあるが、このぐらい走って不思議はなかった。2001年に新装された新潟芝2000mで2分以上かかった重賞は非常に少なく、04年新潟大賞典2:00.5(稍重、1着マイネルアムンゼン)、05年新潟記念2:00.1(良、1着ヤマニンアラバスタ)、18年新潟大賞典2.00.0(良、1着スズカデヴィアス)、23年新潟大賞典2:03.8(不良、1着カラテ)の4例しかない。ヤマニンサルバムは5頭目にあたる。このうち、道悪を除くと、3例目で2:00.1はヤマニンアラバスタの新潟記念と並ぶ最遅タイムだった。勝負服が同じだったのは不思議な縁だ。
決して速い馬場が苦手ではない
ヤマニンサルバムの母ヤマニンエマイユはヤマニンアラバスタの2歳年下だが、同じレースで走る機会は少なく、唯一同じレースに出走したのが08年府中牝馬Sだった。エマイユ5歳、アラバスタ7歳でのこと。結果は東京芝1800mの高速決着になり、どちらも敗れはしたが、エマイユ6着、アラバスタ11着と後輩が先着を果たした。エマイユは1400mの勝ち鞍もあり、08年NSTオープンで新潟芝1400mを1:21.0で乗り切った。アラバスタも07年新潟記念3着時は1:58.1を記録しており、決して速い馬場が苦手とはいえない。この辺はアラバスタの母父タマモクロス、エマイユの母父トニービンを感じる。2頭に血統的なつながりはないが、共通点があり、それが新潟芝2000mの重賞最遅記録でアラバスタと、エマイユの産駒サルバムが肩を並べた遠因だろうか。
ヤマニンサルバムはエマイユからスピードも譲り受け、父イスラボニータが軽さを伝える。中日新聞杯も1:58.8と遅くなく、ようは左回りの中距離戦でしぶとさを生かしたいタイプだ。これも母の血だろう。今回はその粘りと馬場状態を読んだ逃げの手に出たことも大きい。1000m通過1:01.6とマイペースを決め、残り800mから11.7-11.3-11.0-12.1。残り200mまで鮮やかな加速ラップを描き、追走する好位勢の末脚を削っていった。能力がないとできない芸当だ。ローカル重賞では格がひとつ上といえる。次はサマーステージだろうか。当然、新潟記念に出てくれば有力候補だろう。
キングズパレスは七夕賞でも
2着キングズパレスは中団から差して上がり33.6を記録したように、広いコースの瞬発力勝負にも対応できる。ヤマニンサルバムにマイペースで逃げられたのは想定外だろう。もう少し流れてくれれば、チャンスはあったはず。キングカメハメハ産駒らしく、瞬発力勝負だとサンデー系に対抗しきれない面があり、2、3着が多いが、地力勝負のスピード決着なら前進があってもいい。サマー2000転戦ならどこへ向かうのか。レース選択が悩ましい。新潟記念もいいが、七夕賞も近年は決着時計が速く、合うのではないか。
3着ヨーホーレイクは長期休養明け重賞連続3着と6歳でも衰えていない。クロウキャニオンの系統はPOG向けの早期血統のイメージが強いが、キラウエアやラベンダーヴァレイなど6歳でも活躍し、息長い産駒も多い。ヨーホーレイクもその口で、通算【3-1-3-2】でキャリアは9戦。まだまだ活力十分だ。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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