【青葉賞回顧】レースセンス光ったシュガークン 好走ゾーンの幅に見た、兄キタサンブラックの面影
勝木淳
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キタサンブラックとの共通点
青葉賞を勝ったシュガークンはキタサンブラックの弟という少しプレッシャーになりかねない属性を背負い、この世に生を受けた。この勝利で兄が立ったダービーへの出走権を獲得し、プレッシャーに押しつぶされることなく、クラシックの舞台に立つ。それだけで立派のひとことだ。勝ち時計2:24.2は絶好の馬場や前半をパワーホールが引っ張ったことなど恩恵を受けた面こそあるが、過去5年と比べてもそん色なし。3歳春に東京芝2400mをこの時計で乗りきれれば前途は明るい。
シュガークンの前走は中京の大寒桜賞だった。19年リオンリオンが同じローテで勝ち、青葉賞との相性が強調されるが、その後の4年は【0-0-0-6】と人気を裏切ることも多かった。近年、春の中京は馬場状態が悪い開催が増え、時計の遅い決着も多いため、東京の高速馬場とのギャップに苦しむ。シュガークンも大寒桜賞は重馬場で2:17.4もかかった。青葉賞2:24.2は遅い時計と速い時計のどちらにも対応したという意味でも価値が高い。
おもえば、兄キタサンブラックも天皇賞(秋)2:08.3(不良)、天皇賞(春)で3:12.5のレコード樹立など時計の幅があり、好走するゾーンが広かった。前年の天皇賞(春)は3:15.3。同コースで2秒8も違う時計で勝てる馬はそうはいない。大寒桜賞との連勝に兄の面影を感じる。兄はダービー14着と崩れたが、同舞台をクリアしたシュガークンには兄以上の成績を期待したくなる。まだまだ兄の実績には遠く及ばないものの、秘めるスケール感、将来性は大いにある。
光るレースセンス
それを感じる根拠として、レースセンスをあげたい。今回も発馬を決め、一旦は先頭に立たんとする勢いで先手をとる。武豊騎手が隣のパワーホールの出方をうかがう余裕もあった。行きたければ行けばいい。そんな受け流し方でパワーホールを先にやり、好位のインで流れに乗る。深追いするような仕草は一切なく、自然体で位置をとれた。中団馬群のインで揉まれる形になっても動じない。直線手前で10馬身以上のリードをとったパワーホールに対し、周囲は先に仕掛けていく。ダービーへの出走権がかかったレースだけに当然のことだ。
ここで仕掛けを待った武豊騎手の好判断も大きい。残り400mまで先行勢の後ろでじっとし、絶妙なタイミングで外へ持ち出され、最後までしのいだ。好位でしっかり溜め、末脚を繰り出せる理想的なレース運び、そして最後にショウナンラプンタが猛追すると闘志を全面に出すあたり、兄キタサンブラックを思い出す。レースセンスもまたシュガークンの魅力だ。青葉賞からダービーというローテは決して簡単ではないが、それでも期待したくなる。夢を託したい一頭がダービーへ向かう。
ショウナンラプンタにみる厩舎力
2着ショウナンラプンタは馬体重-10キロ。発汗もみられ、輸送の影響を感じた。向正面で壁を作れずムキになるなど、大敗してもおかしくないなか2着確保は力の証といっていい。新馬から東京スポーツ杯2歳S、ホープフルSと結果は残せなかったが、近年の王道ローテを歩ませ経験を積み、疲れをとって1勝クラスで一発回答と素質がないと乗りきれない道を通ってきただけある。
高野友和厩舎といえば、スタニングローズも似たような形でオークス2着まできた。競馬を使いつつ、タイミングよく休養させ、心身を充実させる。そのさじ加減は光るものがある。クラシックへの道は長いようで短く、必ずしもストレートで進めるとは限らない。それだけに、メリハリあるローテーションを歩ませることは大切だ。ショウナンラプンタも2歳時の経験が3歳に結びつき、ダービーへの出走権確保につながった。
出走権を逃したが3着デュアルウィルダーは未勝利を勝ったばかりのキャリア3戦目だったことを考えると、健闘した。その未勝利戦は逃げて0秒8差の圧勝。今回は後方に控え、直線で外から伸びてきた。大抵はこの形になると崩れてもおかしくないだけに、素質を感じる。父ヨシダはハーツクライ産駒で、その母ヒルダズパッション。セレクトセールにて1億152万円(税込)で取引され、母が生まれた米国へ渡った。キャリアのピークは4歳ターフクラシックS、ウッドワードSの芝ダートGⅠ2勝。ハーツクライ産駒らしい成長曲線を描いた。デュアルウィルダーも明らかにこれから先、強くなる可能性を秘める。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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