【天皇賞(春)回顧】菱田裕二騎手の完璧なレース運び テーオーロイヤルとともに初のGⅠ制覇
勝木淳
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菱田裕二騎手とテーオーロイヤル
テーオーロイヤルを管理する岡田稲男厩舎の所属馬は34回目のGⅠ出走(2回の障害競走を含む)、所属する菱田裕二騎手は30回目のGⅠ挑戦で栄冠を勝ちとった。最近は厩舎所属騎手という概念は薄れ、2、3年経験を積み、独り立ちできそうならフリーになり騎乗機会を求める。合理的といえばそれまで。どの世界でも師弟関係といった言葉は消えつつある。なにも時代を戻せとは言わない。しかし、人生の範となる師とその仕事ぶりをみて盗み、成長していく弟子という二人三脚はいつか人々を感動させるドラマを紡ぐもの。絆という見えないものは深く、心のより所にもなる。
菱田裕二騎手はデビュー13年目。9月で32歳だから決して若者ともいえない。キャリアでいえば中堅だ。序盤は1年目23勝、2年目52勝、3年目64勝でリーディング14位になった。その後は減量特典がなくなり、じわじわと成績が落ちていった。その間、北九州記念をアレスバローズで勝ち重賞初制覇。パンサラッサの重賞初タイトルだった福島記念も菱田騎手によるものだった。確かな騎乗技術をもちながら度重なるケガによる離脱もあり、上昇気流をつかめずにいた。そんな状況下で出会ったのがテーオーロイヤルだ。
テーオーロイヤルは初勝利が3歳4月。青葉賞で一発ダービーへの出走権を目論むも、0秒1差4着に敗れた。しかし、秋に復帰すると1勝クラスから4連勝。わずか5カ月で重賞タイトルをつかんだ。
上がり馬として挑んだのが2年前の天皇賞(春)だった。立ちはだかったのは同期の菊花賞馬タイトルホルダー。自らペースを作り、ライバルたちの末脚をすべて削りとっていく強烈な戦法はこの日も変わらず。2周目3、4コーナーで我慢できず、続々と脱落していくレース展開になった。だが、テーオーロイヤルは自慢のスタミナでタイトルホルダーに挑んだ。3~4角で2番手にあがり、タイトルホルダーに抵抗する姿勢をみせる。結果は3着だったが、挑戦者として胸を張っていい堂々たる戦いぶりだった。
完璧だったレース運び
あれから2年。人馬ともケガに悩まされた。テーオーロイヤルは約1年休み、菱田騎手はテーオーロイヤルが復帰する直前に落馬し、左肩を脱臼してしまった。その再会は2年前に初重賞制覇を遂げたダイヤモンドS。人馬の呼吸は以前となにも変わらなかった。阪神大賞典は5馬身差のワンサイドに終わり、負ける材料が見当たらない。そんな状況でこの日を迎えた。GⅠを勝つ千載一遇のチャンスとはまさにこのこと。「菱田よ、GⅠをつかみとれ」穴ばかり買い漁る私も今回ばかりはテーオーロイヤルに本命印を打った。
レースぶりは完璧といっていい。ゲートを決め好位を確保し、外枠で前に壁がなくても、テーオーロイヤルは静かにスパートのときを待った。菱田騎手との呼吸は語るまでもない。大逃げの形で沸かせたマテンロウレオに乗るのは菱田騎手が騎手を目指すきっかけになった天皇賞(春)でイングランディーレに騎乗した横山典弘騎手。序盤、突っ込んで入り、中盤でペースダウンするマジシャン得意の幻惑戦法にも動じなかった。
京都の下りだとスパートが楽になるディープボンドが早々にマテンロウレオをつかまえにいってくれたのも、テーオーロイヤルに味方した。4コーナー、生垣の向こうでの手応えは圧倒的といっていい。この時点で勝負あった。
チャンスがあってもそう簡単につかめないのが競馬というもの。だからこそ、いつか巡ってくるチャンスのためにどれだけ準備できるか。菱田騎手がキャリアを通じ、この日のためにどれほど準備してきたかわかった。そんな完璧なレース運びだった。
宝塚記念で買いたいブローザホーン
2着ブローザホーンはうまく後方で脚を溜め、直線にかけた。末脚の迫力は申し分なかったが、やはり位置取りが後ろすぎた。この辺は3200mへの適性と自信のあらわれだったか。阪神大賞典では強気な競馬をみせたが、その結果が今回の競馬につながった。やはり、ベストは2400m前後だろう。父エピファネイアらしく消耗戦にも強く、時計がかかるだろう宝塚記念で見直そう。
3着ディープボンドはこれまで天皇賞(春)3年連続2着。このレースだけはきっちり結果を残すあたり名ステイヤーといえよう。さらに京都の丘を利用したスパートが得意で、下り坂でズブさを軽減できる。この日もマテンロウレオを自らつかまえに動き、最後まで粘り通した。阪神とは勝負所の手応えがまるで違う。こういった個性はディープボンドに限らず、どんな馬にも必ずあるので、なんとか把握し馬券に役立てよう。
2番人気ドゥレッツァは15着と大きく負けてしまった。異常がなければいいが、レースが動いた勝負所で手応えが残っていなかった。なにもないのなら、距離適性の見直しが必要かもしれない。金鯱賞で徐々に順位を上げていたように、中距離の方が対応しやすそうだ。ドゥレッツァも宝塚記念に出てくるようなら、見直しが必要だ。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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