【スプリングS回顧】レース史上最速の上がり戦を制したシックスペンス 混沌としたクラシック戦線に躍り出る
勝木淳
ⒸSPAIA
異質の流れだったスプリングS
中山芝1800mの重賞は年間4回。同1600m重賞は年間5レースなので、1800mも中山主要コースのひとつだ。1600m重賞は1、3、4、5回と開催が散らばっているのに対し、1800m重賞はすべて2回開催でまとめて行われる。中山記念、中山牝馬S、フラワーC、スプリングSとこれほど同舞台の重賞が続けて施行されるのは珍しい。比較しやすいので、並べてみると、スプリングSは4レースのなかでかなり異質な流れだった。
●中山記念(稍重)
1:48.1 前半1000m58.6 後半800m49.5 上がり37.6
●中山牝馬S(稍重)
1:49.0 前半1000m1:01.5 後半800m47.5 上がり36.2
●フラワーC(良)
1:48.0 前半1000m1:00.0 後半800m48.0 上がり36.0
●スプリングS(良)
1:49.4 前半1000m1:03.1 後半800m46.3 上がり33.7
並べてみると、確かに中山記念はレースレベルがワンランク抜けているが、3歳牝馬同士のフラワーCは全体的に緩みがない流れであり、レベルの高い一戦だったことがわかる。オークスへ向けてポイントになりそうだ。
スプリングSは全体時計ではフラワーCより1秒4も遅く、一見すると物足りなさを感じてしまう。だが、ほかの3レースのような中山芝1800m重賞にありがちなイーブンペースではなかった。緩急がつきにくいコースのため、前半もある程度流れ、後半は少し上がりがかかる。そんなコースで前半1000m通過1.03.1と特筆すべきスローペースになった。同週フラワーCより3秒1も遅かったことを考えると、勝ち時計の1秒4差はむしろ評価してもいいくらいだ。
進化するノーザンファームのキズナ産駒
後半800mは46.3でフラワーCより1秒7速く、ラスト600mは2秒3も速い。Aコース4週目で上がり33.7は異例で、スプリングSで上がりが34秒を切ったレースはなく、レース史上最速を記録した。近年では2020年ガロアクリークが勝った年が1000m通過1:03.2、後半800m46.6、上がり34.3だった。同じ良馬場で前半のペースがほぼ同じだったことを踏まえれば、レース全体の上がり33.7は際立っている。ガロアクリークは上がり33.8で差し切り、次走皐月賞で3着だった。今年の勝ち馬シックスペンスは3番手から上がり33.3。皐月賞で軽く扱えない。
ラスト600mのラップタイムは12.0-10.9-10.8。この高速上がりで逃げたアレグロブリランテに3馬身半もつけた脚力は少しレベルの違いすら感じるほどだ。これで3戦3勝。混沌とした状況にあるクラシック戦線に中心視していい存在があらわれた、と言っても過言ではないだろう。課題は10頭立てと少頭数になったことか。フルゲートになった際の立ち回りは気になるところ。3戦して最多は新馬の13頭でフルゲートの経験はない。とはいえ、先行力があるシックスペンスなら、さばく必要もない。本番も今回と同じく強気にいってほしい。
それにしてもキズナ産駒はこの世代ぐらいからイメージを一新しつつある。かつて牝馬は切れるが、牡馬だと切れ味不足を露呈するタイプが多かった。シックスペンスの瞬発力はキズナらしからぬもの。血統や育成面などノーザンファームの血を磨いていく力には恐れ入る。国枝栄調教師、いよいよ牡馬クラシックで頂点に立つチャンスが巡ってきた。
恵まれただけではない、アレグロブリランテ
アレグロブリランテは超スローの逃げから2着。上がりはシックスペンスより1秒も遅く、コース、流れ、位置取りが着順を押し上げたといえる。不良馬場だった若竹賞2着もかなり粘り強い競馬であり次走以降、恵まれた2着と甘く見られるようなら再考する余地は残る。本来は厳しめの流れでいきる粘り腰がある。
3着ルカランフィーストはその若竹賞の勝ち馬。ハナ差、同着の3着争いを制し、権利を獲得したのには執念を感じた。新馬戦では高速上がりを粘り込んでおり軽いレースが不向きとはいえず今回も3着と好走しているが、ベストは時計がかかる展開だろう。逆の展開での好走をどう評価するかわかれるところだ。ただ、基本的な能力値は高く、この先も軽く扱えない。
2番人気ウォーターリヒトは9着、3番人気ジュンゴールドは10着と大敗を喫した。ウォーターリヒトの近2走は京都の重賞で、自身の上がりは35.2、33.8でそれぞれ上がり1位2位だった。レース全体が33.7では太刀打ちできない。適性とは逆の展開でモロさを出した。ジュンゴールドは年明けから中山の重賞で二桁着順。坂適性や小回りへの対応を求められる中山は合わない。コース替わりで見直そう。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬中心の文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
《関連記事》
・【高松宮記念】昨秋王者・ママコチャに前哨戦勝ち馬が挑む 最有力候補は能力、ローテ申し分なしのルガル
・【日経賞】中心は2500m巧者ヒートオンビート AJCC組のアドマイヤハレー、12着から巻き返しなるか
・【高松宮記念】過去10年のレース結果一覧
おすすめ記事