【東海S回顧】鉄壁の立ち回りで重賞V 型を身につけ、崩れないウィリアムバローズ

勝木淳

2024年東海ステークス、レース結果,ⒸSPAIA

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紆余曲折を経て、型を身につけたウィリアムバローズ

現在、東京両国国技館で開催中の大相撲初場所。相撲の世界において、稽古の次に大切なのが相撲の型だといわれる。自分の型を持った力士は強く、若さを味方に荒削りなまま番付を駆けあがる力士は、必ずどこかで壁にぶち当たる。その壁を打ち破ろうと模索するなかで、型は完成されていく。型の完成こそが、成長そのものといっていい。

東海Sを勝ったウィリアムバローズは競馬の型を完成させた。ダート競馬は特に型の完成は重要で、重賞で通用する型を身につけた馬はまず崩れない。ウィリアムバローズもまた、コーナー4回の1800m戦なら、堅実に重賞で結果を残せるだろう。そう思う根拠が、型の完成までの紆余曲折にある。

未勝利脱出から3連勝、積極策から4コーナー先頭を得意な形とし、クラスを駆けあがってきた。オープンでも結果を残し、挑んだ22年みやこSは逃げて14着大敗。その後もオープンでは逃げきれても、重賞は勝てない。いわば重賞の壁にぶち当たった。積極的な競馬は思わぬハイペースに巻き込まれるリスクや、目標にされる危険性をはらむ。重賞は甘くない。しかし、昨年みやこS3着が東海Sにつながった。鞍上は同じ坂井瑠星騎手。このとき、外から控える形でレースを進め、4コーナー4番手から3着に入った。この控えた経験が、東海Sでのリラックス加減につながった。

先手を主張するバビットを行かせ、番手に控えたウィリアムバローズは逃げ馬のペースに付き合わない。レースをコントロールしたのはウィリアムバローズ自身で、その支配者たる立ち回りに型の完成を感じる。ペースを落とし、向正面に入ったものの、バビットは残り1000mから12.2-12.1-12.2-11.7-12.1と息を入れないラップを刻んだ。このロングスパートに余裕で対抗したウィリアムバローズは、バビットの脚色をよく見定めて、3コーナーでスパート開始。相手のペースに付き合わず、自分のペースに持ち込む。これがウィリアムバローズの型だ。自分のレースさえできれば、崩れない。絶対的な型をもった横綱が早々敗れないのと同じだ。追いすがるオメガギネスを寄せつけず、最後は1馬身差。完勝といっていい。


コーナー4つの中距離戦がターゲット

上村洋行厩舎は2019年JRA10勝から着実にステップアップし、22年32勝、23年40勝。昨年は重賞3勝と存在感をみせた。今年もこれで6勝目と好調を維持している。上村厩舎の飛躍は的確なレース選択にある。ダービー4着ベラジオオペラは体調が整わないとみるや、菊花賞を見送り、チャレンジCで重賞タイトルを獲得させた。ウィリアムバローズも適性は明らかにコーナー4つの中距離戦であり、フェブラリーSは適性外。おそらく使ってこないだろう。ダート中距離は地方、海外と選択肢は多く、無理することはない。型を崩さず、どこまで戦えるか、注目だ。

母ダイアナバローズはオープン特別時代の紫苑Sを勝つなど、芝、ダート問わず中距離で3勝をあげた。シンボリクリスエス産駒らしく、極端な緩急を必要としない競馬に強かった。ウィリアムバローズも母から持続力を受け継いだ。今回の決着時計は重馬場1:49.2。ダートのスピード競馬への適応力も証明した。ますます崩れにくい。


見直すなら、ブライアンセンス

2着は1番人気オメガギネス。ウィリアムバローズに対し、外から並びかけにいった分、末脚が足りなかった。ベストは完勝だったグリーンチャンネルCの東京ダート1600mであり、今回は適性の差がモロに出た。高速馬場になった分、抵抗できたが、良馬場だとさらにスタミナを問われ、厳しくなるだろう。こちらはフェブラリーSで見直したいところだが、東海Sで権利をとれず、2着賞金のみでは本番除外の可能性もある。しかし、今年のフェブラリーSはレモンポップをはじめ、多くがサウジ遠征に回る。空洞化したGⅠであれば、出走できるかもしれない。デビューから3着以下がない好素材であり、一気にGⅠへ。そんな可能性もある。

3着ヴィクティファルスはダート転向で息を吹き返した。太秦Sほど鋭い脚が使えなかったが、積極的な立ち回りと高速馬場も影響した。この経験から今後はもう少し最後に鋭い脚を繰り出せるだろう。とはいえ、そこまで速い脚をコンスタントに使えるタイプでもなく、芝からの転向組だからと東京で即通用とはいかないかもしれない。

見直すなら、4着ブライアンセンスだ。ユニコーンS3着後、京都で連勝してオープン入りと充実具合を感じさせる。古馬重賞初挑戦で外を通って4着に入ったのは、可能性を感じる。ベストはウィリアムバローズと同じコーナー4つの中距離戦で、良馬場なら重賞でもやれそうだ。


2024年東海S、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。

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