【ホープフルS回顧】レガレイラが牝馬初V 見せたパフォーマンスはすでに皐月賞レベル

勝木淳

2023年ホープフルS、レース結果,ⒸSPAIA

ⒸSPAIA

前後半のラップバランスは皐月賞級

牝馬路線は阪神JFで無敗のGⅠ馬が出現し、選択肢もそう多くなく、勢力図もみえてきた。対して牡馬は抜けた馬が出現しないまま終わり、来春に向けて混戦を呈してくるだろう。そして、ホープフルSを牝馬のレガレイラが勝ち、さらに牝馬戦線まで難しくなった。おまけに同馬は皐月賞を目標に進めるという話が出ている。ウオッカは桜花賞からダービーへ向かった。皐月賞からダービーへ二冠をかける牝馬があらわれるか。可能性は広がる。

さて、ホープフルSがGⅠになって7年目。勝ち時計2:00.2は最速タイムだ。これは多角的な視点も必要で、中山の芝は最終日になって内側が掘れてはいたが、時計の出方は例年より速く、有馬記念当日も芝は全体的に昨年より速かった。馬場管理の賜物と天候に恵まれた開催だったといえる。さらに前後半1000m1:00.0-1:00.2とバランスがとれており、これは序盤、内枠のヴェロキラプトルとアンモシエラが競り合い、200~400m10.8と突っ込んで入ったためだ。さらに後半600mは12.4-12.0-11.5の加速ラップでレース全体に緩みがなかった。2歳暮れ、中山芝2000mで皐月賞なみのレースになれば、力がない馬は上位に来られない。

仕上がり早のスワーヴリチャード産駒

これだけのレースを4コーナー大外から差し切ったレガレイラが、皐月賞挑戦に意欲を燃やすのもうなずける。母ロカは2014年1戦1勝の身ながら阪神JFで1番人気に推された。結果は8着に敗れ、その後は賞金加算できず、クラシックに出走できなかった。同馬とドゥラメンテの間に生まれたドゥラドーレスは春二冠には出走できず、菊花賞ではじめてクラシック出走を果たした。ロカもゆったり成長できるよう歩みたかったかもしれない。

レガレイラの父は新種牡馬スワーヴリチャード。ハーツクライ産駒で出世は遅めかもしれないと予想されたが、今年、2歳新種牡馬リーディングを獲得し、いい意味でファンを裏切ってくれた。本格化は確かに古馬になってからだが、東京スポーツ杯2歳S2着、共同通信杯勝ち、皐月賞6着、ダービー2着ときっちりクラシック戦線を歩んだ。母系の米国血統が早めに仕上げを前へ進めてくれる。レガレイラの勝利は、父と母の長所を見事にマッチングさせた結果といえよう。

このレースでは3番手ショウナンラプンタが中山の3、4コーナーを回りきれず、馬群が乱れる場面があるなど、2歳戦らしい不安定な場面があった。ここで大きな不利を受けた馬も多かった。レガレイラは勝負圏内を意識し、3コーナーからじわりと馬群を縫うように進出、先行勢のゴチャつきに巻き込まれはしなかったが、大外しか進路がなかった。末脚全開になったのは直線に向いたわずか300m。牝馬特有の切れ味が光った。加速ラップを後ろから差し切った点をどう評価するかだが、力がなくては乗り切れないレースだった以上、レガレイラの評価は世代最上位クラスだろう。

負けて強しのシンエンペラー

2着シンエンペラーは前走で後方からの競馬を強いられたが、今回は好位のインをとり、軌道修正できた。ソットサスの全兄弟ということで能力値は認めつつも、高速トラックの日本でどこまで通用するかという課題はあった。だが、このペースを好位から先に抜け出して2着なら、その心配はもうない。前走で見せた鈍さはなく、今回の形で競馬できれば、有力グループの位置づけでいい。ただ、ここ2戦はしっかり動かせる外国人騎手が騎乗しており、来春に向けて鞍上は課題だろう。

3着サンライズジパングは13番人気単勝万馬券ながら激走した。最後、シンエンペラーとレガレイラに挟まれ、ブレーキをかける場面があり、着差ほど負けていない。JBC2歳優駿2着などダートで重ねてきた経験が、今回はダートのような緩急の少ない競馬だったことでプラスに働いた。芝らしい緩急を必要とするスローペースだとここまで走れないかもしれない。賞金加算が必須だけに、3歳重賞ではスローにハマる可能性もありそうだ。キズナ産駒の牡馬はパワー寄りの持久力勝負に強く、その典型と考えていい。賞金を積み、ダート三冠挑戦も選択肢だろう。

レース当日、ゴンバデカーブースが感冒によって出走取消。4コーナーでのアクシデントなど、色々と注意すべき点が多いレースだった。レガレイラの今後の進路によって、牡牝ともクラシック戦線は大きく変わる。牝馬が牡馬相手に2歳(以前は3歳)GⅠを勝ったのは、グレード制導入以降では初。最後は1980年テンモン。43年ぶりだった。同馬は翌年、桜花賞2着、オークス1着。時代は違えど、2歳時点で牡馬相手にGⅠ格を勝てば、クラシック戦線最有力ではある。皐月賞は壮大な挑戦となるが、それだけの力は証明した。

2023年ホープフルS、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。

《関連記事》
【中山金杯】決め手データなしの超難解レース 好相性ローテで中山もこなすエピファニーが有力
【競馬】東大HCが中山巧者を徹底検証 シルバーステート産駒が芝・内枠で高い回収率、M.デムーロ騎手は道悪◎
【中山金杯】過去10年のレース結果一覧

おすすめ記事