【競馬】突然のダート参戦から衝撃を与えたクロフネ 芝GⅠ馬3頭のダートGⅠ挑戦を振り返る

高橋楓

芝GⅠ馬のJRAダートGⅠ成績(1986年以降),ⒸSPAIA

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ホクトベガの次はイシノサンデーが盛岡に来る!?

1996年は4歳ダート三冠(現3歳)が整備された年だった。その年の皐月賞馬イシノサンデーが盛岡競馬場のレースに参戦してくるとは夢にも思わなかった。春に「サンデーサイレンス四天王」とまで呼ばれた一頭が、目の前にいる。前月にはホクトベガが南部杯に参戦したばかりだったこともあり、中央と地方の交流が始まったことで凄いことが起きている。そういった胸の高まりを今も覚えている。

今年のチャンピオンズCには昨年の皐月賞馬ジオグリフやホープフルS勝ち馬ドゥラエレーデなど、芝のGⅠ勝ち馬が参戦する。過去にも芝のGⅠ勝ち馬がダートGⅠに挑戦することはあった。しかし、近年は芝路線の整備も進み、昔に比べ数は減少傾向だ。1986年以降で芝GⅠ勝ち馬のJRAダートGⅠ成績(馬の重複含む)は【5-2-3-27】勝率13.5%、連対率18.9%、複勝率27.0%。率としては高いわけではない。だからこそ、芝GⅠ勝ち馬がダートGⅠに挑戦し、勝ったときは多くのファンを魅了するのではないか。

そこで今回は、筆者が忘れられない「ダートGⅠに挑戦した芝GⅠ馬」3頭をレースとともに振り返ってみたい。


予想を上回る衝撃の勝ち方 クロフネ

2001年秋、この年の天皇賞(秋)の出走メンバーについて、競馬ファンは大いに議論した。あの世紀末覇王テイエムオペラオーに、3歳馬クロフネがどのようなレースをするか。そういった話題で盛り上がっていたからだ。

しかし、メイショウドトウとアグネスデジタルの2頭の外国産馬が天皇賞(秋)出走を決めたことで、賞金が足りなかったクロフネは除外された。これは、ルールなので当然のこと。とはいえ、あのときの激論は今でも忘れられない。クロフネは前年のラジオたんぱ杯3歳S(現在のホープフルS)でアグネスタキオン、ジャングルポケットに敗れたとはいえ、単勝1.4倍の1番人気に支持された。その後NHKマイルCでGⅠを制覇すると、日本ダービーでも5着に入った。

そのクロフネが天皇賞(秋)に出走できなかったことで選択したのが、初ダートとなる武蔵野Sだった。結果は9馬身差圧勝。東京ダート1600mで記録した走破タイムは1分33秒3。当時のJRAレコードを1秒2も更新したのだ。こうなると俄然、ダート王への期待が高まった。

次走は第2回ジャパンカップダート(GⅠ、現チャンピオンズC)に参戦。昨年の勝ち馬ウイングアローや、ダートの本場アメリカのGⅠ馬リドパレスなど豪華メンバーが揃っていた。しかし、ファンはクロフネを単勝1.7倍の1番人気に支持。どの馬が勝つか、よりクロフネがどのように勝つかに注目が集まっていた。

レースではやや後方の位置取りから進めることになってしまったが、武豊騎手が何もしていないのに2コーナーからスッと進出を開始。3コーナーではすでに3番手近くまで迫り、4コーナーでは馬なりで先頭に立った。直線で独走状態に入ると、2着ウイングアローに7馬身差の1.1秒差をつけ、JRAレコードを1秒3更新。2戦連続でJRAレコードを1秒以上更新するという離れ業をやってみせた。

ちなみにジャパンカップダート時代を含めた計23回のチャンピオンズCで、2着に1.0秒以上の差をつけたのは、クロフネと21年のテーオーケインズの2頭だけで、クロフネがつけた1.1秒は最大タイム差だ。


条件問わずのオールラウンダー アグネスデジタル

JRAが作成しているヒーロー列伝コレクションのポスター。ナンバー54がアグネスデジタルで、そのキャッチフレーズは「真の勇者は、戦場を選ばない。」これほどまでに同馬にピッタリの言葉があるだろうか。

2000年のマイルCSを13番人気で制し、GⅠ馬の仲間入りを果たしたが、翌年の春3戦は勝ちに見放されていた。しかし、9月に船橋競馬場で行われた日本テレビ盃を快勝すると一気に覚醒。盛岡の南部杯では前年の最優秀ダートホースのウイングアロー、2001年のフェブラリーS勝ち馬ノボトゥルー、前年覇者のゴールドティアラ、地元の英雄トーホウエンペラーを破り、グレード制導入以降では初の芝ダート両方でのGⅠ馬となった。

しかし、物語はこれで終わらない。アグネスデジタルは次走天皇賞(秋)でテイエムオペラオーを撃破。そう、先のクロフネが除外になったレースで結果を残し、外野を実力で黙らせた。その後は香港Cへ遠征し1着。帰国後は再びダートのフェブラリーSを制し5連勝。中央、地方、海外、そして芝、ダートの一線級で活躍した。

JRAで行われる芝とダートのGⅠを両方制しているのはアグネスデジタル、クロフネ、イーグルカフェ、アドマイヤドン、モズアスコットの5頭。この中で芝GⅠ勝ち→ダートGⅠ勝ち→芝GⅠ勝ちをしたのはアグネスデジタルのみ。まさに条件問わずのオールラウンダーぶりで、いかに特異な存在だったか分かる。


圧倒的支持に応えGⅠを制した良血馬 アドマイヤドン

アドマイヤドンはデビュー前から注目の存在だった。母は名牝ベガ。兄アドマイヤベガは1999年の日本ダービー馬で、アドマイヤボスはセントライト記念を制し有馬記念5着と健闘した。2頭の兄はサンデーサイレンス産駒だったのに対し、本馬は父がダートで活躍したティンバーカントリー。そういったこともあり注目を集めていた。

アドマイヤドンはデビュー戦の京都ダート1400m戦で後続に1.3秒差をつけ快勝すると、芝に替わった2戦目の京都2歳Sで0.7秒差の勝利。そのまま3連勝で2001年の朝日杯FSを制した。しかし、翌年は皐月賞7着、日本ダービー6着、菊花賞4着とクラシック制覇には届かなかった。

このまま休養し翌年に備えるのかと思っていたら、菊花賞からわずか2週間後に、第2回JBCクラシックに出走するため盛岡競馬場にいた。交流重賞で活躍していたプリエミネンスや、帝王賞を制してここに乗り込んできたカネツフルーヴなどが出走していたが、これらを相手に7馬身差の圧勝劇を見せた。デビュー戦もダートで快勝していたわけで、驚くことは何もなかったわけだ。翌年はフェブラリーS11着、エルムS1着を挟んで南部杯を制し、JBCクラシック連覇を達成。年明けにはフェブラリーSに再挑戦した。

このレースで単勝1.3倍の支持に応え、優勝を果たした。これは現在のJRAダートGⅠで、東京競馬場で開催された南部杯を含めても一番低い単勝配当オッズとなっている。

<JRA・ダートGⅠ 単勝配当オッズ2倍未満のレース一覧>
2001年 ジャパンカップダート(クロフネ)1.7倍
2004年 フェブラリーS(アドマイヤドン)1.3倍
2010年 フェブラリーS(エスポワールシチー)1.7倍
2011年 南部杯(トランセンド)1.6倍
2018年 チャンピオンズC(ルヴァンスレーヴ)1.9倍
※東京競馬場開催の2011年南部杯を含む

クロフネのジャパンカップダートが1.7倍だったことを考えれば、いかに2004年のアドマイヤドンが圧倒的な存在だったかが分かるのではないか。1986年以降のJRAダートGⅠで単勝1倍台だった馬の成績は【5-2-1-3】で勝率45.5%と半数を割っているだけに、期待に応えたアドマイヤドンの偉大さが一層浮き彫りになる。

今年のチャンピオンズCは南部杯を2.0秒差で圧勝したレモンポップ、無敗の3歳馬セラフィックコールだけでなく、芝のGⅠ馬も出走登録している。楽しみなメンバーが顔を揃えているだけに、目が離せない一戦となりそうだ。

《ライタープロフィール》
高橋楓。秋田県出身。
競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』にてライターデビュー。競馬、ボートレースの記事を中心に執筆している。

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