【富士S回顧】ナミュールが好走パターンで重賞2勝目を挙げる キョウエイマーチら名牝が育む牝系という大樹
勝木淳
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ナミュールのパターン
2歳からずっと期待され、上位人気に支持され続けたナミュールは意外なことに富士Sが重賞2勝目。それもチューリップ賞以来1年7カ月ぶりの勝利だった。これまでGⅠに7回挑戦し、【0-1-1-5】2着は秋華賞、3着はオークスと中距離ばかり。本来の適性をマイルと推定してここまで戦ってきた。私は中距離の方がいいのではないかと考えたが、重賞タイトルはすべてマイルであり、陣営の見立ては間違っていなかった。
ナミュールに関してはもうパターンはつかんだという方も多いだろう。中9週以上だと1、1、2、2、7着で、間隔を詰めるとスタートの遅れなどリズムを乱して自滅してしまう。中9週以上で崩れたのはたった1度。それが今年のヴィクトリアマイルだった。向正面で挟まれる不利があり、ペースが落ちたところで下がってしまい、最悪な形になってしまった。本馬のパターンは富士Sも変わらない。間隔をとった前哨戦は好走する。問題は次だろう。マイルCSなら本番まで中3週しかない。ナミュールは自ら構築した法則を壊せるだろうか。
キョウエイマーチ一族を次代へ
母サンブルエミューズの母ヴィートマルシェは90年代終わりに快速で鳴らしたキョウエイマーチの初仔だ。同馬といえば、父は欧州の至宝ダンシングブレーヴであり、破壊力と気難しさ、ある種の狂気を内包していた。キョウエイマーチは父譲りの能力をマイル中心に発揮した。桜花賞は旧コースの不良馬場という過酷な条件下でメジロドーベルに4馬身差をつけ、圧倒した。その後、安定した成績を収められなかったが、GⅠは南部杯を含め3度2着に入り、重賞は通算5勝をあげた。関東圏に輸送すると、出遅れて逃げられず崩れるなど、注文が多く父を想起する場面も多く、独特のパターンというかリズムがあるのはナミュールに通ずるものがある。
キョウエイマーチのスピードは今の競馬には欠かせない要素であり、ヴィートマルシェを介し、サンブルエミューズ、マルシュロレーヌへ注がれ、さらにその先に広がっていく。ナミュールや妹ラヴェルはキョウエイマーチ一族の血を次代へつなげないといけない。牝馬の活躍馬が多い一族は爆発的に広がらない反面、大樹のごとくじっくりと太い幹をつくる。
ダイナカール牝系の成長力
レースは前後半800m45.2-46.2。古馬重賞としては厳しい流れではなかったが、東京マイルらしい緩急を必要としないスキのないペース。マイル戦に対応するスピードと持続力が問われ、マイルと中距離に好走歴をもつナミュールにとって得意な競馬だった。レース間隔もパターンがあるが、極端に最後600mが速くなる瞬発力勝負に苦労する傾向もある。京都のマイルCSは中盤から後半にかけて上り坂と下り坂があり、前半のペースが速くなりにくい。その分、平坦になる最後の直線では瞬発力を問われることが多く、ここに対応できなければ勝てない舞台だ。本番で瞬発力勝負になる可能性がどれほどあるか。ナミュールの取捨選択は間隔以外にもある。
2着レッドモンレーヴにとっても収穫多き一戦だった。昇級後はマイル重賞7、6着と結果を出せなかったが、それ以前の戦歴を考えると、ようやくマイル重賞で力を出せたといった印象だ。休み明けで目標はこの次。割り切った臨戦過程でもしっかり結果を残せたのは成長の証とみていい。こちらは母ラストグルーヴ、母父ディープインパクト、そして母母エアグルーヴと90年代から2000年代を支えた名馬の名が並ぶ。ダイナカール牝系はクラシックで活躍する馬より古馬になって強くなる晩成タイプが多い。近年では5歳でGⅠを勝ったジュンライトボルト、今秋重賞連勝中のローシャムパークもレッドモンレーヴと同じ4歳だ。富士S2着は本格化の序章のような気もする。
3着はマイル初挑戦のソーヴァリアント。レース展開が中距離型に味方したとはいえ、いきなりのマイル重賞でペースに対応できた。決め手勝負だと分が悪く、東京マイルのような一定のペースで進む舞台は合う。1、2着と離されたのは経験の差とみるべきだろう。一方、この一戦でマイルへ進むか、中距離に戻るのか若干迷うのではないか。元々、直線の長いコースよりコーナーで加速し、短い直線で一気に抜け出す形がいい。もしかすると突き抜けられない原因は距離ではなく、展開の適性に偏りがあるからではないか。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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