【菊花賞回顧】重賞初出走Vはメジロマックイーン以来! ドゥレッツァの可能性と今年の三冠を振り返る
勝木淳
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記録ずくめの菊花賞
ドゥレッツァがデビューしたのは2歳9月、初勝利は11月なので、たった1年で5連勝し、菊花賞を奪取したことになる。連勝とはいえ、決して一足飛びではなく、条件クラスを一つずつクリアしていく、いまどきのクラシック戦線では珍しい各駅停車のローテーションだった。だが、急行や特急、快速など優等列車に一度も抜かれないという各駅停車のダイヤは珍しい。ここまですべての駅に止まりながら、一度として出発信号が赤にならなかった。3歳秋以降、各駅停車でGⅠまでたどり着く馬は遅れてきた大器と称され、それなりに存在するが、その多くはGⅠで連勝が止まる。
ましてドゥレッツァは前哨戦の重賞にも出走していない。重賞初出走で菊花賞を勝ったのはメジロデュレン、メジロマックイーン兄弟以来で、もう33年も前のことだ。思えば、今年の菊花賞はベテラン競馬ファンの胸を熱くするような記録がいたるところにあった。皐月賞馬とダービー馬の激突はエアシャカール、アグネスフライト以来となる23年ぶり、ダービーと菊花賞の二冠達成なら、50年前のタケホープまで遡る。
そんな菊花賞で生まれた記録がメジロマックイーン以来の重賞初出走馬による菊花賞優勝。そして1987年クラシック世代以来となる関東馬による三冠独占だった。皐月賞、菊花賞を勝ったサクラスターオー、ダービー馬メリーナイスの年。メリーナイスに騎乗していたのは、藤田菜七子騎手の師匠・根本康広調教師であり、昭和末期のことだ。これほど往年の名馬たちが記録とともに紹介される菊花賞はほかにない。このなんとも言えない味わいこそ、菊花賞の魅力でもある。
光を放つ人馬のセンス
早期デビューから賞金加算、場合によってはトライアルをパスして本番へという道を王道と呼ぶようになって久しいが、三冠を分けあった3頭は近年のトレンドから逸れていた。ソールオリエンスは2歳11月東京デビューから京成杯、皐月賞と進み、タスティエーラはジャパンC当日に初陣を飾り、共同通信杯、弥生賞ディープインパクト記念と年明けから重賞に2回も出走して皐月賞を迎えた。そして、ドゥレッツァはそのとき、1勝クラスの山吹賞を勝ったばかりだった。上策、王道が存在する向こうに、個性に見合った道もまたある。各陣営が研究と創意工夫を重ねたその先に今年の三冠はあった。まさに正解なき競馬の奥深さだ。
さて、展開は1000mごとに区切ると、1.00.4-1.04.1-58.6と菊花賞らしく突っ込んで入り、中盤緩み、後半ロングスパートに転じる形だった。JRAのトラッキングシステムの時速表示では、先頭を行くドゥレッツァは序盤時速70キロ近くまでスピードを出し、その後はじっくりとブレーキを効かせ、2周目向正面では55キロまでペースダウン。10キロ以上速度が落ちれば、後ろの騎手はみんな危機感を抱く。パクスオトマニカ、リビアングラスがひと足先に動くと、ドゥレッツァはあっさり先頭を譲る。
C.ルメール騎手は序盤である程度行かせて、馬のリズムを整え、見事に掌握した。だから一旦ハナを譲ってもドゥレッツァはムキにならない。あくまで淡々と騎手の言うことを聞いて走っていた。行かせたわけでもなく、抑えたわけでもない。ルメール騎手の絶妙なさじ加減がドゥレッツァにリラックスを与えた。これ以上なく緩急をつけた走りができたからこそ、後半800m11.6-11.7-11.4-11.8を余力十分に乗り切れた。ステイヤーらしい長距離を走り切れるセンスを感じる。順調に成長し、いつしかメジロマックイーンのように変幻自在な名馬になってほしい。
世代を代表するタスティエーラとソールオリエンス
2着タスティエーラは三冠2、1、2着とすべて連対を果たした。世代最上位は揺るがない。距離を意識したか、ダービーより後ろに位置し、中団からの競馬だった分、末脚で見劣った印象もあり、今後は強気に位置をとりに行ける距離がいいだろう。サトノクラウン産駒らしく瞬発力でサンデーサイレンス系、キングカメハメハ系には敵わないが、好位からしぶとさを生かしたい。流れに左右されにくい競馬ができる分、今後も頼りになりそうだ。今回は競馬のスタイルを変えても崩れなかった。さすがダービー馬だ。タケホープ以来となる50年ぶりの壁は残念ながら越えられなかったが、力は示した。今後は世代代表として、古馬に挑んでほしい。
3着は皐月賞馬ソールオリエンス。ダービーと同じくタスティエーラを視界に入れる位置でレースを運んだが、4コーナーで外を回った分、並ぶことができなかった。こちらも末脚を見る限り、守備範囲は中距離だろう。皐月賞では地の果てまで伸び続けるかと思わせた。2000m前後なら末脚は違ってくる。時計勝負の経験が少ないのは気がかりだが、キタサンブラック産駒はこれからまだまだ強くなる。克服できるだろう。
4着リビアングラス、5着サヴォーナはドゥレッツァを制し、有力馬より早めに動き、得意のスタミナ勝負へ持ち込みにいった。その分、ゴール前で脚色が鈍ってしまったが、これもこれから先、まだまだ強化できる。キズナ産駒は菊花賞4着ディープボンドのように鍛えて逞しさを増していく。この2頭は長距離戦線で注目していこう。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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