【菊花賞】最多勝は武豊騎手の5勝 トーホウジャッカルのレコードタイムなど「記録」を振り返る

緒方きしん

菊花賞にまつわる記録,ⒸSPAIA

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最多勝は3つの元号で勝利のレジェンド

3000mの長距離GⅠ、菊花賞。「最も強い馬が勝つ」とも言われるクラシック最終戦は、これまで数々の名勝負が繰り広げられてきた。長距離戦のため、当然ながら心理戦も多くなり、騎手の駆け引きを見ていても面白い。最多勝は、昭和、平成、令和で合計5勝をあげている武豊騎手だ。

そもそも、父の武邦彦騎手も菊花賞は3勝(タケホープ、キタノカチドキ、インターグシケン)しており、弟の武幸四郎騎手もソングオブウインドで制しているように、一族としても得意としている。武豊騎手も、スーパークリークとコンビを組んだ1988年の菊花賞が自身初のGⅠ制覇だった。以降も、菊花賞血統として引退後も愛されたダンスインザダーク、二冠馬エアシャカール、そして三冠馬ディープインパクト、その産駒であるワールドプレミアといずれもドラマチックな勝利を挙げている。

一方、武豊騎手にとって初のダービー制覇の相棒スペシャルウィークと臨んだ1998年は、セイウンスカイの2着と悔しい思いも経験した。そのスペシャルウィークの産駒として父の無念を晴らしたのがトーホウジャッカルだ。鞍上は、武豊騎手ではなく酒井学騎手。この一戦は記録だらけのレースだった。

トーホウジャッカルは5月の3歳未勝利戦でデビュー。そこで10着に敗れると、次走はダートに挑戦し、そこでも9着と大敗を喫した。その後7月に初勝利、8月に2勝目とステップアップし、9月の神戸新聞杯3着で優先出走権を手にすると、そのまま10月の菊花賞を制した。その年は1番人気ワンアンドオンリーが9着、2番人気トゥザワールドが16着と大敗した一方、2着サウンズオブアース、3着ゴールドアクターと古馬になってから競馬界を賑わせた馬が好走したレースでもある。

菊花賞のゴール前、猛然と追い込んできたサウンズオブアースを半馬身差で凌いだトーホウジャッカル。『デビューから149日目での菊花賞制覇』という最短記録だけでなく、勝ちタイム3:01.0は、それまでの菊花賞レコードを1.7秒縮める驚異のタイム。さらにはナリタトップロードが阪神大賞典で計測した芝3000mの日本レコードすら1.5秒縮め、ファンを沸かせた。


3:18.9の異常タイムだった台風影響下の菊花賞

では、1番時計のかかった菊花賞はというと、トーホウジャッカル勝利の3年後、2017年になる。その日は馬場が泥だらけになるほどの大雨。その特殊な馬場のレースを制したのが、GⅠ初出走だったキセキだ。タイムはなんと、3:18.9。そもそも1976年以降、3分10秒台になることがなかった菊花賞において、こちらも非常に異質なタイムである。

キセキのデビューは12月。初戦こそ勝利したものの、そこからは3連敗を喫した。2戦目のセントポーリア賞はダイワキャグニー、続くすみれSはクリンチャー、毎日杯はアルアインに敗北。3連敗といえど今になって振り返ればのちの重賞勝ち馬ばかりで、相手が強かった。条件戦に切り替えてからキセキは連勝。秋には神戸新聞杯でレイデオロの2着となり、菊花賞への挑戦権を手にした。

ダービー馬レイデオロが神戸新聞杯からジャパンCに向かったこともあり、キセキは1番人気に支持された。アルアインやミッキースワローなど実力馬が揃っていたが、菊花賞を目標にしてきた馬たちも多かった。

13番人気ポポカテペトルは青葉賞4着で春のGⅠは未出走。しかし前走の阿賀野川特別(1着)を含め、一貫して2000m以上のレースにこだわり、2200m、2400mをそれぞれ2度経験した上で、過去3戦で鞍上を務めた和田竜二騎手とのコンビを再結成。11番人気マイネルヴンシュは4月にデビューし、6戦目で未勝利戦を抜けた馬だったが、2600mの札幌日刊スポーツ杯(5着)、2500mの九十九里特別(1着)を使い、菊花賞に向けて仕上げてきていた。結果は、ポポカテペトル3着、マイネルヴンシュ4着と、人気薄で上位を賑わせた。

台風の影響で土砂降りの菊花賞を制したキセキは、その後も一線級での活躍を続けた。勝利こそなかったものの、宝塚記念やジャパンCなどのGⅠで2着4回と善戦。現役ラストとなった7歳シーズンも香港のQE2世C4着、宝塚記念5着、京都大賞典3着と、存在感を見せ続けた。種牡馬としても供用初年度から79頭を集めるなど、次なる舞台での活躍が期待される。

今年は皐月賞馬ソールオリエンス、ダービー馬タスティエーラのほか、2000m以上にこだわって使われてきたドゥレッツァやナイトインロンドンといった新鋭も登場する。令和の菊花賞2勝目を目論む武豊騎手は、ファントムシーフに騎乗。果たしてどのような戦いが見られるだろうか。

ライタープロフィール
緒方きしん
競馬ライター。1990年生まれ、札幌育ち。家族の影響で、物心つく前から毎週末の競馬を楽しみに過ごす日々を送る。2016年に新しい競馬のWEBメディア「ウマフリ」を設立し、馬券だけではない競馬の楽しみ方をサイトで提案している。好きな馬はレオダーバン、スペシャルウィーク、エアグルーヴ、ダイワスカーレット。

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