【府中牝馬S回顧】ディヴィーナが逃げ切りで重賞初制覇 母ヴィルシーナを彷彿させる粘りをみせる

勝木淳

2023年府中牝馬ステークス、レース結果,ⒸSPAIA

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母ヴィルシーナの記憶

馬券を買う上で血統といえば、芝なのかダートなのか、距離の長短や競馬場など適性を推し量る材料として使われる。成長曲線など好走リズムを予測できるが、似ている部分もあれば、そうでないところもあり、その探求は飽きることがない。

似ているといっても、そっくりなんて馬は滅多にいない。人間だって同じだ。外見は似ていても、性格の違いがあり、得意なことをそのまま受け継ぐとは限らない。十人十色は馬の世界でも同じ。だからこそ、ディヴィーナが府中牝馬Sの直線でみせた粘りはあり得ないほど母ヴィルシーナのヴィクトリアマイルとそっくりで驚いた。

2014年ヴィクトリアマイル連覇をかけたヴィルシーナは覚悟を決めてハナをとり、最後の直線ではケイアイエレガントに並びかけられると、突き放しにかかり、内からメイショウマンボ、外からホエールキャプチャ、キャトルフィーユ、間からストレイトガールの強襲を受けるも、内田博幸騎手の叱咤激励に応え、半馬身先着を果たした。東京の直線約525mがこれほど長く感じられたことはなく、交わされそうで交わされないスリルと気迫は鮮明に記憶に残っている。

冴えた、鞍上のアドリブ

その娘ディヴィーナはこの春、母が勝ったヴィクトリアマイルで15番人気ながら4着とし、本格化をアピールした。サマーシリーズは連続2着。ちょっと歯がゆく、桜花賞からエリザベス女王杯まで重賞で5回連続2着だった母を思い起こさせた。

今回はキャリア初の1800m戦出走。距離延長に戸惑ったか、内のコスタボニータが好発から抑えにかかると、ディヴィーナは行きたがった。なんとかコスタボニータの外で2番手に収めようとするも、マイル戦に慣れたディヴィーナのリズムは明らかに他馬より速かった。そこでミルコ・デムーロ騎手は覚悟して手綱を緩め、同馬を気分よく走らせる道を選んだ。かつてハナを狙ったヴィルシーナと同じく、鞍上の決意が最後の粘りにつながった。

一転して気楽に走れたディヴィーナにとって、後ろが一切追いかけてこなかったのも幸運だった。1番人気がスイスイと逃げ、それを追わないのはなぜだろうか。その辺の事情は乗っている側にも必ず何かしらあるはずで、ここが競馬の難しさだ。

展開に泣いたルージュエヴァイユ

さて、ディヴィーナは気分が楽になっただけで、決してムキになったわけではない。前半600m35.9、800m通過48.0、1000m通過1:00.0は馬場を考えれば、遅い部類だ。引き離すような逃げでもスローペースとあっては、ディヴィーナは十分余力を残していた。最後の600mは11.3-11.2-11.4で、逃げ馬に最後まできっちり脚を使われては、後ろはお手上げだ。デムーロ騎手のハナに行かせるという決断に、後ろは完全に惑わされてしまった。ゴール前で急襲したルージュエヴァイユとはハナ差。交わされる寸前でゴールに飛び込む姿はヴィルシーナの1勝目のヴィクトリアマイルをリプレイで見ているかのようだった。

馬主の佐々木主浩氏は兄ブラヴァスの新潟記念以来3年ぶりの重賞タイトル獲得。思い入れたっぷりのヴィルシーナの娘が見せた、母を彷彿させるパフォーマンスはオーナーにとって無上の幸せだっただろう。馬主冥利とはまさにこのことだ。私も血統が織りなすドラマを堪能した。

2着ルージュエヴァイユは上がり2位32.7の瞬発力で猛追するも及ばなかった。スローペースを中団からという展開を考えれば、ハナ差までよく健闘した。同舞台のエプソムCは2番手から粘って2着に入ったが、どうも展開がかみ合わない。本来は今回のように末脚を生かす競馬を身上とするタイプで、東京の瞬発力勝負でこそ。だが、その分、流れに左右される面もある。

3着は10番人気と人気を落としていたライラックだった。昨年のエリザベス女王杯(重馬場)2着など戦歴をみれば、ステイゴールド系特有の時計がかかる舞台で、皆が最後苦しくなったときに力を発揮するタイプだと考えていたので、ここでの好走は正直驚いた。オルフェーヴル産駒が秋に強いのは血統馬券術のひとつ。ラッキーライラック、マルシュロレーヌが躍動したのは5歳秋であり、4歳ライラックもまだまだこれからだろう。

2023年府中牝馬S、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。

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