【秋華賞回顧】リバティアイランドの牝馬三冠をアシスト 川田将雅騎手の完璧なエスコート

勝木淳

2023年秋華賞、レース結果,ⒸSPAIA

ⒸSPAIA

執念の人、川田将雅騎手

デビュー20年目の川田将雅騎手がリバティアイランドで牝馬三冠を達成し、3歳GⅠ完全制覇を遂げた。この日が誕生日だったこともあり、そこは少し恥ずかしそうにしていたが、持っている男はどこか違う。

川田騎手がはじめて重賞を勝ったのは2006年小倉大賞典メジロマイヤーでの逃げ切りだった。当時、私は気温5℃に満たない極寒のなか、東京競馬場のスタンドでそれを目撃した。メジロマイヤーは3歳時にきさらぎ賞を勝ち、皐月賞へ進むも、その後は勝利がなかった。5歳春にようやくオープンに再昇級し、すぐオープン特別を勝つも長い休養に入り、ふた桁着順続きの近況もあり、11番人気で小倉大賞典に出走した。捕まりそうで捕まらない粘り腰も鮮烈だった。川田騎手の迫力ある騎乗フォームとペース配分、勝たせる技術に舌を巻いた。

GⅠ初勝利は08年皐月賞。大混戦のクラシック初戦を勝ち切ったのも7番人気キャプテントゥーレと川田騎手の逃げだった。逃げ、先行馬を操り、ギリギリまで粘って勝利を手にする。人気がなくても勝たせるにはどうするか。川田騎手の競馬には執念があった。やがて、勝利を重ねてJRAを代表する騎手となり、デビュー20年目にリバティアイランドと三冠を駆け抜けた。メジロマイヤーやキャプテントゥーレのような伏兵での勝利があったからこそ、川田騎手は伏兵に乗る騎手の心理もよく知っている。


全方位に張った結界

この日はレース後に本人もコメントしたようにシンプルな戦略だった。1、2コーナーで外を回らず、内に入りすぎず、リズムをつくり、外に出せそうな絶妙なポジションから3コーナー手前でライバルより先に外に出て、進路を確保した。残るは仕掛けるタイミング。構えすぎては京都内回り2000mだと先行勢に残られる可能性がある。だから早めに動き、4コーナー先頭と負けようがない競馬を試みた。これでは他馬はどうにもならない。川田騎手は伏兵台頭の機会を一つずつ潰していったかのようだった。そんな完璧な手を三冠がかかるレースで実行できる。それが川田将雅という騎手だ。執念の人、探求の手を緩めない男が見せた全方位に結界を張ったかのような競馬に痺れた。

牝馬三冠を達成したリバティアイランドの父ドゥラメンテは、キングカメハメハのマルチな才を余すことなく受け継いだ。ロードカナロアの産駒は中距離以上で少し不安だが、ドゥラメンテ産駒は距離も競馬場も馬場も問わない。どの条件でも走れるのは、キングカメハメハがディープインパクトのライバルとして対抗する上での最大の武器でもあった。つくづくドゥラメンテの早世が悔やまれる。その最高傑作たるリバティアイランドを今度はどこで堪能できるだろうか。楽しみは広がる。


目を離せないモリアーナ

レースは内からコナコーストが注文をつけペースを握るも、前半600m通過36.4、1000m通過1:01.9はジェンティルドンナが三冠を決めた12年1:02.2に次ぐ遅さだった。滅多にスローにならない秋華賞が遅かったのは、リバティアイランドが内枠に入ったことも影響したか。密集した馬群で進路を失い、仕掛けを遅らせられないか。そんな思惑もあったかもしれない。早めに動く馬もおらず、少し淡々とした印象のレースを動かしたのがリバティアイランドなので、敵うわけがない。

2着マスクトディーヴァは直線で前が壁になり、外に出す際に手間取った場面はあった。だが、それがなければ勝てたかというとそうとも思えない。それでも決め手を生かす馬にとって内回りとスローペースという状況で2着なら、大健闘といえる。レコード駆けから中3週はちょっと危険な状況だったが、よく体調を維持できた。

3着ハーパーはリバティアイランドと0秒5差で、オークスより差を詰めたのは成長のおかげでもある。ドゥーラにはハナ差だったが、リバティアイランドにマークされる立場で、少し内で仕掛けが遅れた分もあった。まだ適性や得意な形をつかめないが、広いコースの中距離向きかもしれない。自在性はペースに左右されない強みであり、リバティアイランドとの争いのなかで身につけたハーパーの武器でもある。

スローペースで上がり600m34.0という決着を考えると、5着モリアーナは評価できる。4コーナー13番手からインを縫って最後に差してきた。極端な競馬しかできないので、今回のような展開不向きなケースもありそうだが、末脚の破壊力は紫苑Sで証明済み。同レースのような速いペースで上がりがかかる競馬になれば、高速決着にも対応できる。成績が不安定なタイプで、凡走後に人気薄での一発もあり、目を離せない。


2023年秋華賞、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。

《関連記事》
【菊花賞】データ上はソールオリエンスが一歩リード 札幌記念2着のトップナイフもチャンスあり
【富士S】安田記念大敗は好走のサイン、シャンパンカラー最有力 侮れない存在は初マイルのソーヴァリアント
【菊花賞】過去10年のレース結果一覧

おすすめ記事