【秋華賞】逆らう要素のないリバティアイランド スタミナ面でコンクシェル、末脚ならラヴェルに注目

山崎エリカ

2023年秋華賞のPP指数,ⒸSPAIA

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ハイペースがもっとも発生するGⅠだが

京都内回り芝2000mは最初の1角までの直線距離は約309m。最初のコーナーまでの距離が短く、上級条件になると2角過ぎまでハナ争いが持ち越されることもしばしばある。一方、最後の直線も約328mと短いため、差し、追込馬は3角の下り坂から仕掛けていくことが多い。

この2角過ぎまでペースを上げていく先行勢と、最後の短い直線を意識して3角から仕掛ける後方勢の関係からレースが緩みなく流れやすい。実際に2010年以降で極端なスローペースとなったのは、ジェンティルドンナが優勝した2012年(前後半5F62秒2-58秒2)。この年は逃げ馬の出走が最内枠のヴィルシーナ1頭のみで、隊列がすぐに決まったため、向正面で捲りが発生するほど、かなりのスローペースだった。

それ以外は平均ペースかそれ以上に速く、2010年以降で逃げ馬が3着以内に粘ったのは、前記のヴィルシーナ(2着)と、平均ペースで流れた2018年のミッキーチャーム(2着)のみ。2012、2018年ともにジェンティルドンナ、アーモンドアイと春の二冠馬が出走した年だった。今年も二冠馬リバティアイランドが出走するだけに、意外とペースが上がらない可能性もある。

また、この時期の京都は雨の影響を受けると極端に馬場が悪化する。2分を越える決着になった2017、2020年はディアドラやデアリングタクトが追い込み勝ちを決めているので、天候も考慮して予想を組み立てたい。


能力値1~5位の紹介

2023年秋華賞のPP指数一覧,ⒸSPAIA


【能力値1位 リバティアイランド】
桜花賞、オークスと春二冠を達成した馬。オークスは5番枠からまずまずのスタートを切って、じわっと包まれない外に誘導されたが、外に出し切れずに中団中目を追走。道中で前がペースを引き上げて隊列が縦長になると3角手前で最内に入れて、4角出口で馬場の良い外へ誘導と、完璧な立ち回りだった。4角3列目から直線序盤で2列目まで上がり、ラスト2Fで一気に伸びてラヴェルを捉えて先頭に立つと、最後まで加速して6馬身差で圧勝した。

オークスで記録した指数は古馬GⅠ級のもの。かつてのアーモンドアイと同様に休養明けでも優勝できる実力があり、もはや多くを語る必要もない。今回もオークス同様に内目の枠に入ったが、コンクシェルらがペースを引き上げてくれるはずで、包まれる可能性は低い。断然の1番人気だが、逆らう材料がほとんどなく本命候補筆頭だ。

【能力値2位 マスクトディーヴァ】
1月の新馬戦では中団外から差して、現2勝クラスのウインスノーライトに1馬身3/4差をつけ、好指数で勝利した。その後は強い疲れが出たようで、次走は4月の忘れな草賞に出走となった。このレースはかなりのスローペースで3~4角の下り坂からペースアップしたが、そこで促されても置かれて、4角出口で外に膨らむロスも生じ7着に敗れたが、その後、1勝クラスとローズSを連勝した。

前走のローズSでは12番枠からやや出遅れたが、そこから促されて中団の外目を追走。前がペースを引き上げていくなかで、中団馬群の外で3角を迎える。3~4角で前が減速する中、外から勢いを付けて、直線序盤ですっと伸びて一気に先頭。ラスト1Fでそのまま突き抜けて、外の狭い間を割って伸びたブレイディヴェーグを振り切り、1馬身半差で完勝した。

ローズSは逃げ馬多数で、戦前からハイペースが予想されていたが、想定以上の激流で前が苦しい展開。中団でレースを進めていた本馬は展開に恵まれたことは確か。しかし、最後の直線で先頭と4馬身はあった差を一気に詰めた瞬発力は凄まじいものがあり、かつてのローズSのレコードホルダー、ブロードストリートを感じさせた。

ブロードストリートは休養明けのローズSで急成長を見せ、秋華賞ではあのブエナビスタに繰り上がりという形ではあるが、先着することになった。今回、リバティアイランドにどこまで迫れるかが楽しみである。

【能力値3位 ドゥーラ】
桜花賞をはじめ芝1600m戦では、序盤から押していってもなかなか位置が取れず、忙しい競馬になって掲示板にすら載ったことがない。しかし、芝1800m以上では全て4着以内。唯一4着だった新馬戦も、頓挫明けで勝ち馬のドゥアイズとは0秒1差と善戦している。

また前々走のオークスでも最後までしぶとく伸び続けて、2着ハーパーにクビ差まで迫った。この時は13番枠からやや出遅れ、そこから促されてなんとか後方馬群の中目に収めて追走。最後の直線序盤でも中団の外だったが、前がペースを引き上げたことで、前でレース進めたリバティアイランド以外の馬は、ラスト1Fでバテて減速していた。後方からでも2着争いに届く展開だったという見方が正しい。

しかし、前走のクイーンSでは行きっぷりが一変。7番枠から五分のスタートを切って、いったん好位の中目。このレースでは鞍上が意識的に位置を下げながら外に出して、向正面で中団の外を追走する形となった。3~4角の外から大きくロスを作りながらも進出し、4角では2列目の外。直線で3~4角の最内を立ち回ったウインピクシスがしぶとく粘るなか、最後に捉えて1馬身差で勝利した。

前走は今までにない行きっぷりだったが、スタート後にすぐにコーナーがあって前半3Fが遅くなる札幌芝1800mだったし、斤量51kgと軽かったことが影響しているはず。また、やや時計のかかる馬場で上がりがかかる展開だったことも、長くいい脚が使える本馬には絶好の条件だった。高速馬場の京都芝2000mとなると、後方からの追走になるし、前も簡単には止まらないので、トップスピード不足で連対圏内まで突入するのは厳しい。ただこの距離なら大崩れもしないと見ている。

【能力値4位 コンクシェル】
2歳1勝クラスで壁に当たっていたが、レースの流れが速くなったアネモネSで2着と激走。スタミナの豊富さを感じさせていた馬だ。その後はまたレースの流れが遅い1勝クラスで結果が出せなかったが、ブリンカーを着用し、逃げてスタミナを生かす競馬をするようになってから、1勝クラスの鞍ケ池特別と2勝クラスの不知火特別を連勝した。

前々走の不知火特別では5番枠から好スタートを決めて楽にハナを主張すると、1~2角でもそこまでペースを落とさず、淡々と進めて3角へ。3~4角で軽く仕掛けて4角でリードを広げ、3馬身半差で直線を向いた。直線序盤でさらに差を広げ、ラスト1Fでも2着ジュンブルースカイをほぼ寄せ付けず、5馬身差で圧勝した。記録した指数は古馬重賞級のものだった。

前走のローズSは超高速馬場でレコード決着となったように、序盤から速い流れ。14番枠だったこともあり好スタートから控えていったことが裏目になったが、自分の型の競馬ができれば巻き返し必至だ。アーモンドアイが優勝した秋華賞では、ミッキーチャームが果敢に逃げて2着に粘ったが、今回はそれを期待する。テンの速いフェステスバントが最内枠だが、14番枠からでもハナに行く気になれば逃げられるはず。またペースが速くなるようであれば、2番手からでも悪くない。今回の対抗候補だ。

【能力値5位 モリアーナ】
6月の東京芝1600mの新馬戦では、好位からの競馬でラスト2F11秒0-11秒1の強烈なインパクトを残して勝利した。新馬戦では大物感漂うレースをしていたが、今春はクイーンCで2着ドゥアイズにハナ差先着されたことで桜花賞出走を逃した。しかし、前走の紫苑Sでは嬉しい重賞初制覇を達成した。

前走は2番枠からまずまずのスタートを決め、すぐに抑えてリズム重視で控えていく形。前半から逃げたフィールザオーラがペースを引き上げたことで、隊列が縦長となり、後方2、3番手からの追走になった。3~4角では前にいた馬たちが苦しくなって減速してきたが、それでも本馬は前からかなり離された位置。3~4角の内目から4角で中目を縫って上がったが、直線序盤ではまだ中団列。ラスト1Fでは先頭のヒップホップソウルとの差が約6馬身はあったが、それを一気に詰めて捉え切った。

新馬戦で魅せたように、脚を溜めれば弾ける馬。しかし、コスモス賞では早仕掛け、阪神JFは折り合いを欠いたまま激流に乗せていく競馬、ニュージーランドTは3~4角外からかなり強気な仕掛けなど、持ち味をほぼ生かしてもらえなかった。横山典弘騎手に乗り替わってからは持ち味が生かされるようになり、前走は展開にも恵まれ、ほぼ完璧な競馬だった。ただし、前哨戦で秋華賞出走権を取りにいった代償は小さくないと見る。余力の面で不安があるので、ここは軽視したい。


穴馬はリバティアイランドに唯一土を付けたラヴェル

ラヴェルは新馬戦で派手に出遅れ、そこから位置取りを最低限リカバリーして、ラスト2Fを11秒7-11秒3で勝利した素質馬。次走のアルテミスSは最後方から3~4角でリバティアイランドよりも早めに動いて同馬の進路の蓋をし、直線で一気に上がってラスト1Fでは2番手。そこから逃げ馬を捉え、リバティアイランドの追撃をクビ差で振り切る抜群の末脚を見せた。

阪神JFは休養明けのアルテミスSで好走した後の疲れが残った一戦。出遅れて、外々から位置を挽回していく苦しい形で11着と大敗した。次走の桜花賞でも出遅れて、後方の中団中目を追走していたが、最後の直線序盤では前が完全に壁。中目を捌いて着順を上げはしたが、その後も詰まる場面があり、11着に敗退した。

オークスでは1番枠からまずまずのスタートを切って、2列目の最内を追走。3~4角でも最短距離を通してラスト2Fで抜け出し、あわやの場面を作っての4着と好走した。レースが緩みなく流れていたため、最後はさすがに甘くなったが、それまでの競馬ぶりから一転してスタートを決め、先行策で好走した内容は濃い。

前走のローズSではあまり見せ場のない14着大敗だったが、五分のスタートを決めたことで、本馬としては自然と前の位置を取り過ぎた面があったし、馬体重16kg増が示すように体が大きくなった影響もあったはず。今回は自然な形で絞れていると見ており、オークスの内容から距離が長くなるのもいい。本来の末脚を生かす競馬ならチャンスはある。

※パワーポイント指数(PP指数)とは?
●新馬・未勝利の平均勝ちタイムを基準「0」とし、それより価値が高ければマイナスで表示
例)リバティアイランドの前走指数「-27」は、新馬・未勝利の平均勝ちタイムよりも2.7秒速い
●指数欄の背景色の緑は芝、茶色はダート
●能力値= (前走指数+前々走指数+近5走の最高指数)÷3
●最高値とはその馬がこれまでに記録した一番高い指数
能力値と最高値ともに1位の馬は鉄板級。能力値上位馬は本命候補、最高値上位馬は穴馬候補

ライタープロフィール
山崎エリカ
類い稀な勝負強さで「負けない女」の異名をとる競馬研究家。独自に開発したPP指数を武器にレース分析し、高配当ゲットを狙う! netkeiba.com等で執筆。好きな馬は、強さと脆さが同居している、メジロパーマーのような逃げ馬。

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