【スプリンターズS回顧】ママコチャが初GⅠ制覇 父クロフネはパーソロンに並ぶ偉業達成

勝木淳

2023年スプリンターズステークス、レース結果,ⒸSPAIA

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シラユキヒメ一族とクロフネ

単勝オッズ一桁台は3頭。前年王者、春の王者不在の乱世が続くスプリント界は、今夏、さらに前哨戦も逃げ切りが目立ち、そう簡単ではない印象を受けたが、オッズ的には三強の様相。そうすんなり決まるのかと疑ってかかるひねくれ者の私は反省するしかない。

勝った3番人気ママコチャはこれが1200m、重賞ともに初勝利。姉ソダシに続くシラユキヒメ一族2頭目のGⅠ馬になった。同じ父クロフネでも姉は一族のシンボルでもある白毛だが、妹は鹿毛でなんとなく母の父キングカメハメハに近い雰囲気だ。シラユキヒメ一族と芦毛クロフネの相性が抜群なのは語るまでもないが、この組み合わせはシラユキヒメ直仔を中心に8頭いて、そのうち6頭が白毛だ。残る2頭ママズディッシュは父と同じ芦毛なので、この組み合わせで白くないのはママコチャがはじめてになる。

一族と相性抜群のクロフネはこの勝利で2005年から19年連続で重賞勝利を決めた。これはパーソロンに並ぶ歴代1位という偉業でもある。初年度産駒のフサイチリシャールが東京スポーツ杯2歳Sを勝ってから、51勝目のママコチャまでと考えると、その時間の長さをつかめるだろうか。ディープインパクトの三冠や今年セ・リーグを制した阪神タイガーズの前回優勝が2005年。その間、毎年クロフネ産駒は重賞を勝ち続けたことになる。


クロフネの遺伝力と単独1位へ

なぜ、クロフネが偉業を達成できたのか。9/24までJRAで1484勝を挙げているが、芝の勝率7.2%、ダート8.8%、障害9.0%とカテゴリーを問わない。さらに距離別でみても、1000m9.3%、1200m8.9%、1400m8.1%、1600m8.4%、1800m8.7%、2000m6.8%、2400m7.5%と出走数が多い距離であっても勝率に大きな差がない。カテゴリーを問わないオールラウンダーであり、日本の競馬にここまでハマった外国産馬はいない。思えば、現役時代は芝ダートGⅠ勝利。マイルの走破時計が芝とダートで0.3しか変わらないのは有名な話で、その血が見事に産駒に伝わった。その遺伝力には驚かされる。

ママコチャはスプリント戦2戦目とは思えない対応力だった。前半600m33.3は逃げるジャスパークローネにテイエムスパーダが二の足で絡んでいけなかったこともあり、決して速くはない。それでもあっさり好位3番手にとりつくのはスプリント能力の高さを示す。手応え十分に4コーナーを回る姿に勝ちを確信できた。

後半600m34.7では差し馬勢はなすすべがなかった。近年のスプリンターズSは、差し馬勢に厳しい馬場状態になることが多く、序盤のダッシュ力勝負になりやすい。前半で無理なく速い流れに対応できるか否か。それこそ一流スプリンターに欠かせない資質であり、そこの勝負になるのもまた、スプリント王決定戦にふさわしいともいえよう。ママコチャはまだ4歳。クロフネの連続重賞勝利を20年に延ばし、単独トップに立たせる可能性は高い。鹿毛のクロフネ産駒は443勝をあげ、JRA重賞は11勝、このうち半数の6勝を芝1200mであげた。


前半400mの瞬発力

2着マッドクールは昨年後半、連勝でオープン入りしたものの、シルクロードS3着で止まり、春雷Sこそ勝利したが、重賞ではちょっと足りない印象だった。それだけにこの2着で評価を改める必要がありそうだ。ママコチャとほぼ同じ位置から4コーナーでインを狙うコース取りは挑戦者の競馬にふさわしく、ロスを最小限にさばいてきた。こちらもスプリンターとしてのセンスは高い。ママコチャと同じく4歳、もともと中京3勝のコース巧者であり、来春は楽しみだ。

3着ナムラクレアは昨年、今春に続きまたもGⅠ惜敗に終わった。最内枠を引いたことで出方に注目していたが、1、2着馬とほぼ同位置から早めに外に出す形になった。インに突っ込むよりは外へ行った方が力を出せるタイプのようだが、結果的に距離のロスが最後に響いたのではないか。とはいえ、最内枠でそのままインを通せる人気ではないので、こちらは内枠がアダになってしまった。上位2頭との0.2差はないに等しく、再チャレンジに期待したい。

ママコチャのところで触れたが、近年のスプリンターズSはゴール前の末脚より、スタート直後のダッシュ力への比重が大きい。スタートから400mの瞬発力がないと好走できない状況なのは、極端な雨馬場にでもならない限り続きそうだ。だからこそ前哨戦で差してきたアグリは展開的に厳しかった。7着はアグリの力を示した数字ではなく、舞台替わりであっさり変わり身を見せても不思議はない。

2023年スプリンターズS、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。

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